第15話 俺たち付き合うことになりました!(嘘です!)

 俺たちが学校に着いたのは、ちょうど一限目が終わる頃だった。

 かなりのんびりと歩いてきていたせいか、学校に来るのに時間がかかってしまった。

 そして、俺と太陽たいようは遅刻届を先生に提出し、現在。

 一限目後の休み時間。

 太陽は教室に入るなり、いつも一緒につるんでいる友達四人の前に向かう。

 俺は太陽に無理やり腕を引っ張られる形で、彼女についていく。


「あれ? 愛美あいみ……と、影谷君? どうしたの? なんで遅刻したの?」


 太陽の姿を見たあおという女の子が、そういてくる。

 すると太陽は、俺の腕に両腕をからめて、


「私たち、付き合うことになりましたー」


 そう言った。

 それを聞いた碧たち四人は、困惑を隠せない様子だった。

 そりゃそうだわな。


「え? え? 付き合うって……愛美と、影谷君が?」


 四人の中の一人が、俺と太陽を交互に指差しながら尋ねる。

 太陽はそれに対し、まるで当然のことのように、


「そうだよ。私と隼太はやた君、付き合うことになったの!」

「は、はやた……くん?」


 俺の下の名前を知らなかったのか、彼女ら四人は一瞬「隼太って誰のこと?」みたいな顔をしていた。

 悲しいなあ。クラスメートに名前を覚えられていないのって、悲しいなあ。

 まあ、俺もクラスメートの名前とかほとんど知らんけど。


「え? マジ? もしかして遅刻したのも、それが理由?」


 そう訊かれた太陽は、少し恥じらうような表情を見せて、


「そうなの……。昨日、隼太ってば全然寝かせてくれなくって……」

「おい誤解されるようなことを言うな」


 今までは傍観していた俺だったが、さすがにこれにはツッコんだ。


「え? でも、昨日の夜、あんなに激しく……」

「ねえ、あんまり調子乗ってるとさすがに怒るよ?」

「やーん。許して、ダーリン♡ 冗談に決まってるじゃん♪」


 俺たちの会話を聞いていた女子四人は、目をまんまるに開けていた。


「へえ、ラブラブじゃん。二人とも」


 碧がニヤニヤしながらそう言った。


「いやあ、マジで二人、付き合っちゃったのかあ。まあ、いずれ付き合いそうとは思ってたけど、こんなに早いとはねー」

「ね。私もびっくりした」

「私もー」


 女子たちが仲良く共感している。

 そして、碧たち四人は、面白いおもちゃを見つけたと言わんばかりに、俺と太陽に質問責めしてきた。


「ねえねえ、どっちから告ったのー?」


 そういえば、そういう設定は何一つ考えずに学校まで来てしまった。とはいえ、ここは太陽に任せておけば、適当になんとかしてくれるだろう。


「えっと……。私……から」

「ああー。やっぱり愛美からなんだ。それでそれで、影谷君は告られてどう思ったの?」

「えと……俺は……」


 やばい。なんて答えればいいんだ? 何も考えていなかったから、良い答えが思い浮かばない。


「なんて言うか、本気で俺を好きなんだなっていうのが伝わってきて、それで、可愛いなって思った……かな?」


 とっさに思いついたことを口にする。


「キャー! なにそれなにそれ! 少女マンガみたい!」


 女子からの黄色い歓声。女子高生ってみんな恋愛の話が大好きだよね。


「ねえ、愛美は影谷君のどういうとこに惚れたの?」

「あ! それ私も聞きたい!」


 女子二人が前のめりになって訊いてくる。


「えっと、すごく優しいところ……かな?」

「例えば例えば!?」

「例えば……。私が傘を忘れた時に、隼太君の傘に入れてくれたこととか」


 いや、それ今朝の話ですよね……。


「へえ、影谷君ってそういうことするんだ? 意外!」

「他には!? なんかないの?」

「後は……。私のことを真剣に心配してくれるとことか」


 そんな感じで、彼女たちの会話は続いていく。

 その間、俺は少しだけ違和感を覚えた。

 その違和感とは、太陽の友達である碧が、途中からずっと、話しに入らずに傍観していたことだ。

 まるで、俺たちが恋人であることを疑っているようだった。

 俺と太陽は、まだ一つもぼろを出していないはずだ。

 それなのに彼女は、俺たちの関係を疑っている?

 いや、さすがに考えすぎ……だよな?


 一通り女子たちからの質問を答え切り、俺は自分の席に着く。

 そして、耳を教室中の音に傾ける。

 そうしていた時に、確かに聞こえてきた声。


「チッ。このラノベ主人公め。死んじまえ」


 それは明らかに、俺に対して向けられた言葉。

 教室の隅に一人で座っている、とある男子がつぶやいた一言。

 少し前にも、その男子に俺は全く同じ悪態をかれた。とは言っても、彼が直接俺に言って来たわけではなく、彼の呟いた言葉を俺が一方的に聞いただけだが。

 俺の胸はチクリと痛んだ。


『うわ、影谷って最低じゃん』


 嫌な記憶がよみがえり、俺は額を左手で押さえる。

 なあ、名前も知らないクラスメートの男子。

 お前が悪態を吐きたくなる気持ちはよ~くわかるぜ?

 いつも教室でひとりだった男が、何故か美少女に好かれて、挙句の果てにその美少女と付き合うことになった。

 そんな話聞いたら、ラノベ主人公め死んじまえって言いたくなるのもわかる。

 だからこそ、俺はお前に……。

 そんなことを考えていると、二限目の始まりを告げるチャイムが鳴った。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る