旅人と門番

味噌わさび

第1話 旅人と暇人

「やぁ、門番さん。随分とつまらなそうだね」


 短く切りそろえた金色の髪に、青い目……旅人らしき女は、まるで歌うように、突然俺に話しかけてきた。


 俺は城塞都市の門番だ。毎日、城門の前に立つのが仕事である。


「……ずっとここにいるだけだからな。退屈だな」


「どこかに行こうと思わないのかい?」


「無理だな。俺がいないとわけのわからない奴が勝手にこの街の中に入ってくるかもしれんからな」


「へぇ。そんなものかな? いいじゃないか。少しくらい変な奴が入ってきても」


「ダメだ。俺が仕事をクビになる……というか、そんなことになったら、俺は処刑される」


「処刑……それは大変だ。じゃあ、仕方ないね。君はここから動けないわけだ。それに引き換え僕は自由に動き回って――」


 そう言って、門の先に行こうとする旅人の首根っこを俺は掴んだ。


「で……変な奴ってのはお前みたいな奴のことだ」


 そのまま俺は旅人を突き飛ばす。驚いた顔で旅人は俺を見る。


「変な奴? 酷いじゃないか。確かに変わっているとはよく言われるけど」


「ああ、確かにお前は変わった奴だ。いいか? この街に入るには通行証が必要なんだ」


 そう言うと旅人はキョトンとした顔で俺を見る。


「通行証? なんだいそれは?」


「お前……旅人のくせに通行証を知らないのか?」


「ああ。初耳だね……その通行証はどこで手に入るんだい?」


「知るか。俺は通行証の確認はするが、どこで発行されるかなんて知らん」


「……頼むよ。どうしてもこの街に入って会いたい人がいるんだ。お願いだ」


 真正面から、その宝石のような青い瞳で奴は俺を見てくる。


 思わずそのまま首を縦に振りそうになったが、俺は我に返ってやつに剣を向ける。


「ダメだ。これ以上わけのわからないことを言っていると、どうなるかわかるよな?」


 さすがに剣を向けられて驚いたのか、旅人は俺と距離を取る。


「……そうだ! 通行証の代りになるようなものを持ってくればいいかい?」


「は? 代わりになるものって……そんなものはないぞ」


「フフッ……大丈夫さ! 僕はこれでも旅人だからね。旅の途中で様々な物を手に入れることができる……それを君に持ってきてあげよう。それを、通行証の代りにしてくれ」


「はぁ? いやいや、お前そんなこと――」


「では! 楽しみにしていてくれよ!」


 そう言って旅人はそのまま走っていってしまった。その時俺はあの変な奴とは二度と会わないだろうと思っていた。


 そう思っていた……はずだったのだが。

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