逆高校デビュー……失敗でした!?
八剱 櫛名
第1話 相馬 夏希
高校に入学してからの一週間、それはクラスでの自分の立ち位置を決める重要な期間だと俺は思っている。
この期間の立ち振る舞いでそれからの一年、あるいは高校生活のすべてが決まると言っても過言ではない……はずだ。
濃紺のブレザーを羽織りネクタイを締め、鏡に映った自分の姿を改めて確認する。目にかかるくらいの前髪に眼鏡をかけた俺……誰が見ても同じ印象を抱くだろう。
「地味な陰キャ」だと。
そう、俺こと相馬夏樹(そうま なつき)は心に決めていた。
高校では「ぜっっっっったいに目立たない!」と。
――――
俺が自分の容姿に気が付いたのは中学3年の時だ。それまでにも学校の女子によく声を掛けられてりもしていたが、単に友達が多いのだと思っていた。
テストの点も良かったし、部活はしていなかったが休み時間などはクラスメートとサッカーをしたりもしていたからな。
切っ掛けは本当に些細なことだった。
どうしても欲しいものがあって、それを買いに電車に乗って一人で買い物に出かけただけだ。
俺が当時住んでいたところは街の中心からは離れており、近くにそれを売っている店が無かったので中心部まで足を運んだわけだが、そこで俺は生れてはじめての「逆ナン」をされたってのだ、相手は高校の制服を着たいわゆるギャルっぽいお姉さん二人組だったかな。
ぐいぐいと来るお姉さんたちに焦りながらも用事がある事を伝え事なきを得たのだがその翌日、登校した俺は何を思ったのかその事をクラスでぽろっと言ってしまったのだ。
「そういえば昨日、初めてナンパされてさ~」
その瞬間、俺の周りにいた女子を含めクラス中の女子が凍った。まるでピシッと音を立てて時間が止まったかのように……。
「……そそっ、それでっ!相馬君はどうしたのかなぁー!?」
「えっ?どうしたのかって、買い物したかったから断わったけど。しかし俺なんかをナンパしてくるなんて、都会はこえぇなぁ」
「そっ、そうだよね~、いきなり声をかけられても困っちゃうよね!」
もしも過去に戻ることが出来るなら、俺は間違いなくこの瞬間を選ぶだろう。ある意味爆弾とも言える自分の発言を無くすために。
「しかも、帰り道でも声をかけられたんだぜ?モデルにならないかってさ。中学生だからってそんなのに騙されるかっての……なぁ?」
「「「「…………」」」」
当時の俺を本気で殴ってやりたい、確かにスカウトっぽい事はされた、だがそれを言う必要はあったのかと。
何もわかっていなかった俺は気付かなかったんだ、その瞬間に女子の眼が変わったことを……あたかも「獲物を狙う肉食獣」のように。
後から聞いた話だが、俺がナンパされさらにスカウトされたという話は、その日の昼までに全クラスへと知れ渡ったらしい。
――そして、俺の日常は崩れ去った。
今まで声をかけてくるだけだった子が、しきりに身体を触ってくるようになった。
登下校も何人もの女子に囲まれるようになった。
家に帰ってからも、引切り無しにスマホが鳴り続けた。
一人で出かけると、いつの間にか女子達が集まってくるようにもなった。
常に女子に囲まれて男友達と遊ぶ機会も少なくなっていったし、声をかけても皆が申し訳なさそうに断ってきた。
今思い返すと女子からのプレッシャーが凄かったんだろうなと思う、その目には思春期にありがちな嫉妬ではなくどこか憐みの色があったように見えたからだ。
当時の俺には好きな子がいた。清楚な肩ほどの黒髪で少し低めの背丈、白く透き通るような肌にくりっとした瞳、大人しく少し引っ込み思案な彼女。
多く語り合うことはなかったが彼女と話すのが好きだった。一緒に過ごすゆっくりと流れるような時間が好きだった。時折見せるはにかむ様な笑顔が大好きだった。
ある日、そんな彼女から一通のメッセージが届いた。
――『ごめんなさい、相馬君と一緒に居ると周りの子が怖いの。もう話し掛けないでください』
こうして俺は、告げることも許されずに初めての失恋をした。
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