第15話~飛ぶ

 私はトレーナーに選ばれた。入りたてのアルバイトスタッフの座学研修の先生。全セクションの新アルバイトスタッフは、まずはこの研修を受ける。トレーナーの話を断った同期もいたが、私は流されるままトレーナーになる研修を受け、トレーナーになった。座学研修、新人アルバイトスタッフは全員とてもつまらなそうだった。私だってつまらない。私がどんなに盛り上げようとしても、毎回無駄に終わる。この会社に何の魅力も感じていない私が、なぜ無理矢理笑って研修をしているのだろう。辛かった。 




 大掛かりな人事異動があった。マネージャーのS山さんは、インフォメーションからアトラクションへ。I坂Y里は業務チーム(マネージャーを含め、様々な物事の管理や指導をするセクション)へ。二人とも出世だ。私はひとり、取り残される。I坂Y里は、男を落とすのも仕事も上手かったのか。


 インフォメーションはコンサルタント(インフォ業務も兼ねた、車の知識に特化したセクション)に吸収された。インフォメーションというセクションはなくなった。


 私は本当にひとりになった。




 会社はシフト制。A勤とC勤があった。A勤は朝から、C勤は昼から出勤する。


 ある日、A勤の社員が私ひとりしかいない日。社員がいないと朝礼ができない。レジも開けられない。インフォが稼働しない。その日私はいつものように起き、いつものように支度をし、いつものようにアパートを出ようと立ち上がった時。私は大きなボストンバッグを出し、適当に荷物を詰め、沖縄へ飛んだ。沖縄は、ずっと行ってみたいと思っていた場所だった。沢山の留守電とメール。


 その後、二度とMEGA W○Bに行くことはなかった。


 バックレることでしか、当時の私には辞める方法がなかったのだろう。




 私は感情を失くし、「ストレス」という言葉を超えた苦しみ、痛み、悲しみ、辛さを、ひとり抱え込む人間になっていた。

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