魔法少女☆サーガ!!

陸一 じゅん

ふたりはズッ朋! ~ここがヴァルハラ!? 戦士のサーガは終わらないっ! ~

プロローグ! 誓いを胸に! 二人はひとつ☆彡

 斜陽のくにであった。

 甲高く互いの具足と刃が鳴る。

 連戦に次ぐ連戦に、刃こぼれがひどい。

 この手が握る黒鉄くろがねの両手剣は、鎧ごと敵兵のはらわたを齧り、引き裂いた。


 血臭にまみれたぬるい風が吹く。晩夏の夕日は紅く、血だまりと地面の境を消し、等しく紅に染める。


 兵たちの怒号と悲鳴、雄叫び。魔法を使う者はもういない。魔力など、とうに絞り尽くした。

 倒れ伏す屍を蹴とばし、次の屍を作る。死肉をむさぼりたい凶鳥の黒い影が空にある。もはや生者よりも死者が多い証であった。


 戦士は石畳に伸びる影を振り払うように進んでいた。

 巡る血潮が、体から立ち昇る熱が、そこに宿る魔力が、背後の敵の位置と、背中を預けた友の呼吸を教えてくれている。


 彼らは、無二の義兄弟であった。

 夕日に照らされ、翼を広げた凶鳥の巨影が落ちる。

 吐息が、途切れた。


「ああ……きいてくれ……我がともよ……戦士ヴァルドよ……」

「テュール! 敵はもうおらぬ……! 魔王の城は目前だ……! 」

 弓をつがえる長く分厚い指先が、求めるように空を泳ぐ。血と土埃。冷えた汗にまみれたそれを捕まえた手のひらのほうは、いまだ鉄のように熱い。

 草木染のフードの下で、力なく朋は笑う。

 戦士は凍えゆくともに、この身に宿る熱を分け与えたまえと祈った。

 肩から胸を穿たれた傷は深く、骨を砕いて内臓を穿っている。そんな苦痛の中で言葉を交わしていられるのは、もはやこの体から魂が離れつつあるからだ。


「祝福を……してくれ……我が魂は、ヴァルハラへ……」


 殺してやるべきだ。

 分かっていた。

 できなかった。

 眼差しから苦しみが消えていく。


ともよ、兄弟はらからよ……おまえは、無二のひとだ……あとのことは、頼んだ、ぞ……」


「……ォォオ、オオオオォォオオォオオオオ――――ッ! テュール、テュールよッ! 俺を置いて、どこへ、どこへ行くのか!」


 ――――一人の男の物語サーガが潰えた痛みは耐え難く。

 真の闘士の魂は、戦乙女ワルキューレかいなに抱かれ、あとに残るのは抜け殻のみ。

 次にその魂が弓を番えるときは、終末ラグナロクの時と定められた。

 戦場いくさばに生きると決めた彼の魂には、命を刈り取った罪がこびりついている。しかし戦乙女に見出されたならば、死後に罪を裁かれないかわりに永遠の闘争を求められる。

 その魂には永劫に平穏がなく、戦士のことも、きっと忘れてしまうだろう。

 戦士はすぐにでも、彼のあとを追いたかった。できぬのならば、戦乙女の腕から彼を取り戻し、彼の愛する人のもとへと連れ帰ってやりたかった。


 しかし、すべては目前である。

 長き旅の終着は、そこにあった。


 魔物跋扈ばっこする斜陽のくにがあった。

 神々が見捨てた斜陽のくにがあった。


 ――――ああ、別れたばかりのお前に会いたい。

 あの屍の中に置き去りにしたお前。

 いつか。いつか……。

 我が身も戦乙女に導かれ、お前に再び、この背を預けることもあろうか。

 互いのことが分からずとも、我らならば、またすぐにともとなろう。

 その時が来れば、我が身は稲光のように飛んでいく。


 ――――お前と再び、語り尽くせぬ物語サーガを紡ぐまで。




 ☆




「……いなびかり……の……ように――――」


 ちゅんちゅん、と雀の声が聞こえた。

 天井に伸ばした手を引き寄せ、ぼやけた頭の隅っこが(小さいなぁ)と呟いた。

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