8.二人組の盗賊

 異世界生活3日目。

 商人のハシュードさんと、冒険者のカイトとの旅は2日目。


 明日には最寄りの村へ着くだろう、ということだった。

 旧現代人の僕からしたら、2、3日掛かる村なんて、全く最寄りじゃないけれど、これには慣れるしかなさそうだね。


 そういう事なので、今日はずっと移動の日となる。


 朝食を取り終えた僕たち一行は、最寄り?の村に向け、出発した。



 すると、カイトが早速話しかけてきた。


 「ここから先は、盗賊が過去に出たっていう噂があるんだ。 その剣、常に身に付けておいた方がいいぞ。」


 「盗賊!? そうなんだ、分かったよ。」


 鞘が無いので仕方なく、手で持って行くことにした。


 僕の剣は、初日に倒したビックウルフの牙だ。

 それを昨晩、素振りする前に石で磨いて、ついでに持ち手の部分も石で削って作ってあった。


 「そうだったな、悪い言ってなかったなハルトくん。 この先盗賊が出る可能性があるから、周囲の警戒は怠らないでくれよ。 それと、この鞘で良ければあげるよ。 中古だけど、モンスターの皮で作られたものだから、丈夫なはずだよ。」


 と言って、ハシュードさんが僕に、薄茶色の革製の鞘をくれた。

 確かに中古感はあるけれど、それでも丈夫なのには変わりない。


 「ありがとうございます、ハシュードさん!」


 受け取った鞘にお手製の剣を収め、再び歩き始める。


----------------------------------------------------------------


 歩き始めて数時間、太陽が真上にあり、お昼であることを示したころ、僕らは昼食を取る事にした。


 危険地帯なので、火を焚いたりは出来ないので、昼食には、乾燥させたお肉を僕の火魔法で炙ったものを、パンにホットドッグ状に挟んだものを食べる。


 焼かれているだけで香ばしさが出て、非常に美味しくなっているようだった。

 魔法って、こういう事にも使えるから便利だよね。


 ただ、余り魔力が無い時に魔法を使い続けると、魔力が渇水して気絶しちゃうって話だ。

 使う場面をちゃんと考えないとなぁ。


 そんなこんなで、昼食を食べ終え出発するための準備をしていると、森の陰に怪しい影が見えた。



 「ハシュードさん!!カイト!!」


 僕がそう叫ぶのと同時に、奴らが森の中から現れた。


 上半身が裸で、かなり筋肉があるが、そこには多数の切り傷がある、いかにも悪党そうな容姿の2人組。

 

 「と、盗賊だ!! カイト、ハルトくん、頼むぞ!!」


 ハシュードさん曰く、これが噂をしていた盗賊らしい。


 そうこうしていると、盗賊たちは剣を抜き一気に間を詰めてきた。

 金目の物は置いて行けとか、そういう交渉なしに確実に殺しに来ている。

 なんて奴らだ。


 だが、そんな事を考えている間にも、盗賊の1人が僕に、もう1人がカイトに向かってきた。


 僕たちも剣を構え、盗賊たちの初撃を受け流す。


 「大人しく殺されやがれっ!!」


 僕と戦っている盗賊の1人が突然口を開いた。

 が、言う事はこれだ、交渉の余地は無いな。


 剣と剣がぶつかり合う音が周囲に響く。


 うわっ、心臓が破裂しそうな程早く振動しているよ。


 相手が振ってくるのは本物の剣、当たればケガをするし、下手すれば死んでしまうのだ。

 旧現代人だった僕は、車に轢かれそうになった経験はあれど、生きるか死ぬかの場面など、経験した事が無いから、こうなるのは当然だよね。


 でも、ここでたじろいでしまったり、力んでしまってはいけない!

 せっかく異世界に来て、ここで死ぬわけにはいけないし、何より、命を助けてくれ、こんなに親切にしてくれた、ハシュードさんとカイトを守らないと!!


 やるしかない!!

 今やるしかないんだ!!


 頑張れ自分!こんな所でくじけるな!!

 こいつら盗賊に立ち向かうんだ!!



 強い決意を持った僕は、閉じていた目を開く。

 その目は、強い目へと変わっていた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る