食堂フリーパス

 冒険者ギルドはユウキがなかなか向かうことのないソーラルの東側にあった。


 徒歩では日が暮れそうだったので、ユウキは乗合魔導馬車に乗ってここまで来た。


 馬車から飛び降りたユウキは冒険者ギルドの正面入り口で足を止め、その石造りの巨大な建物の周囲を見回した。


 ギルドの周りには武具店や宿屋などがいくつも立ち並んでおり、冒険者ギルド経済圏とでも呼ぶべきものがこの一帯に成立していそうであった。


 と、乗合馬車から降りた他の客が一団となってギルド内に流れていく。


 一人で見知らぬ建物に入ることに気後れする性質を持つユウキは、その団体の後ろについていった。


 *


「へー、ここが冒険者ギルドかあ」


 ロビーをユウキは見回した。


 多階層の建物には多くの階段とドアがあったが、一般客が入れるのは食堂と売店とこのロビーぐらいのようだ。


 ロビーは団体客で賑わっており、受付窓口には長蛇の列ができている。


 とりあえず団体客に混ざってユウキも窓口の列に並ぶ。


 と、ギルド職員が団体客とユウキにアンケート用紙のごときものを渡してきた。


「なになに? 『昼と夜、どちらが好きですか? 1から5までの数字で答えてください』だと? どっちも好きだから、中間の3ぐらいかな」


 ユウキはさらさらとアンケートに答えていった。


 今夜の防衛戦を生き残るため、伝説の冒険者であり冒険者ギルドの最高顧問でもあるエクシーラに助力を頼みたい。そのためなら、アンケートぐらいはいくらでも答えてやろう。


 そんなことを考えつつ、アンケートの項目に次々と答えを記入していく。


「『清らかさ』と『穢らわしさ』どちらが好きですか、だと? こんなもの誰だって『清らかさ』の方が好きだろ。だから答えは1だ」


 だがふとユウキはペンを止めた。清らかさのみが存在する世界でオレは生きていけるだろうか。


 むしろナンパなんていう口に出すのも恥ずかしい行為に情熱を傾けているオレは存在そのものが穢らわしいのではないか。


 かといって『穢れ』が100パーセントの世界もまた生きづらそうである。


「とりあえず中間の3に丸をつけておくか」


 他にも『平和と虐殺』『安心と鬱』『友情と支配』『祝福と呪詛』『恩寵と災害』など、両極性を感じさせる単語の対がアンケートの設問として出題された。


 その両単語のいずれにもそれなりの魅力を感じるユウキは、次々とその中間の3に丸を付けていった。


 やがてアンケートを回収したギルド職員は、団体客を『研修室』という立て札がついた部屋に案内した。


 ユウキもその流れについて行こうとしたが、なぜか職員に拒絶された。


「あなたは別室ですね」


「な、なんでだ」


「心の属性が光でも闇でもない混沌なので」


「も、もしかしてさっきのアンケートでオレの性質を判断したっていうのか」


「アンケートだけではなく、一応、この属性判別機でも調べていますよ」


 職員は巨大な体温計のごとき器具をユウキに見せた。ユウキに向けられたその器具には、白でも黒でもない灰色が表示されていた。


「あなたは混沌属性用の講習を受けてください。光属性に比べて集まる人数が少ないので、混沌の講習が始まるのは二時間後になります」


「こ、講習? なんの講習を受けなきゃいけないんだ?」


「それはもちろん初級冒険免許の講習ですよ。まあ安心してください。混沌の冒険者も、光の冒険者とパーティを組むことができます。混沌属性の需要は少ないですが、闇属性よりはマシですよ」


「お、オレはエクシーラに会いに来ただけなんだ! 別に冒険者になりに来たわけじゃないぞ!」


「これはこれは失礼しました。一般のお客様でしたか。ですが一般の方の受付は正午で締め切っています。また後日お越しください」


 丁寧であったが有無を言わせぬ調子で職員はそう言った。


「後日じゃ間に合わないんだ! 今、エクシーラの力が必要なんだ! 会わせてくれ!」


「約束のない方に本ギルドの最高顧問を会わせられるわけには……」


「あっ、そう言えばオレ、エクシーラと石板を同期してたんだった。今朝も電話したばかりじゃないか。もう一回かけてみるか」


 ユウキが石板を操作すると、ざしゅっ、ざしゅっと剣で生肉状のものを切断する音がまた聞こえてきた。


「よう、エクシーラ。また何かと戦ってるのか」


「その声はユウキ……今朝、切断した邪神のコアはダミーだったのよ! こっちの本体を切断しないと、世界が……!」


「まじかよ、大変だな。ところで今オレ、冒険者ギルドに来てるんだが、ちょっと頼み事が……」


「今忙しいのよ! そこに誰かいる?」


「受付の男が隣にいるぞ」


「ミラード! その人、ユウキに最大限の便宜を図ってあげなさい!」


 ユウキは通話を切ると、ミラードと呼ばれた職員を見た。


「だってよ」


「わ、わかりました。最高顧問の頼みとあれば、冒険者ギルドとして最大限の便宜を図りましょう。それで……どのような依頼を?」


「エクシーラが忙しいなら、他のやつでもいい。今すぐ腕の立つ冒険者を貸してくれ。敵はアンデッド系が多い」


「今すぐとは急な話ですがなんとかなるでしょう。それで……任地は?」


「闇の塔だ」


「無理ですね」


「なんでだ?」


「闇の塔の周りには闇の瘴気が漂っています。そんなところでは、属性が闇の冒険者でなければ効率的に戦闘することはできません」


「なら貸してくれ。闇の属性の冒険者を」


「いないんですよ、闇の属性の冒険者が」


「そっ、そんなことはないだろ」


「アーケロン全土に流入する光の量が増大する昨今、冒険者のほとんどが光属性となっています。ごく稀に闇の属性の者も冒険者として登録するために本ギルドにやってきます。ですがパーティを組む相手がいないため、すぐにソーラルを離れてしまいます」


「ま、まじかよ」


「お疑いであれば名簿を見せましょう」


 ミラードは手持ちの石板を操作すると、個人情報保護の観点からか名前を隠した上で、登録冒険者の属性をユウキに見せた。


 それによると登録冒険者の九割が光属性で、残り一割弱が混沌属性であった。そして闇の属性の者といえば1パーセントにも見たぬ少数である。


「そ、そういうことなら、混沌属性でもいいぞ。貸してくれ」


「申し訳ありません。混沌属性は数が少ないため重宝がられて、今はすべて出払っています。派遣できるのは最速でも三日後に……」


 そのときユウキは石板の名簿に、闇属性の者を見つけた。


「おっ。ちょうど今日の午前、ギルドに登録した闇属性の冒険者がいるぞ」


「ああ……確かに彼女は闇属性でした。ですが誰ともパーティを組めず、それゆえに収入のあてがないという現実を突きつけられたのです。すでにソーラルを離れているでしょうね」


「な、なんてこった……」


「お力になれずすみません。あちらにギルドの誇る食堂があります。よかったらこれをどうぞ」


 ミラードはポケットからチケットを取り出すとユウキに渡した。


「これは?」


「一ヶ月間有効の食堂フリーパスです。あなたとお連れ様五人まで使えます」


「……サンキュー」


 とりあえずユウキは食堂に向かった。


 飯でも食いながら次善の策を考えるか。


 *


 今日はまだ朝食しか摂っていなかったユウキは、一番値段の高い肉の煮込み料理をフリーパスを使って頼んだ。


 ギルド食堂にはアーケロン中の酒が揃っているようだったが、このあとも仕事が立て込んでいる。またそもそもアルコールは苦手である。ユウキは無難に魔コーヒーを頼むにとどめた。


 食事が来るまで、コーヒーを啜りつつ考える。


(妖魔の残骸を売るにしても、闇の塔の家計はいつもカツカツだ。昼飯を星歌亭で食えないときは、この冒険者ギルドの食堂フリーパスで食費を浮かすか)


 などと、冒険者ギルドに来ることで得られたメリットを考えても気は浮かない。


 なぜならこのままでは、今夜の敵襲で闇の塔は崩壊し、その結果この世界も破滅するからである。


 ひしひしとストレスがユウキを責め苛み始めた。


 このままじっとストレスに耐えても良かったが、少しでも行動を起こすことで気持ちを上向きにしていきたい。


 ということで食事が来るまでのひととき、ユウキは食堂内でナンパしてみることにした。


 ターゲットの女はすぐに見つかった。


 体躯は大きいが、全身黒っぽい地味な服で覆っている。


 まるで自分の存在をこの世から隠そうとしているような自信のない陰気なオーラを発している。


 ユウキは魔コーヒーのマグカップを片手にその黒装束の女に近づくと声をかけた。


「こんにちは」


「こっ、こんにちは」


「あんたも冒険者か? 俺は別に冒険者じゃないが訳あってこのギルドにやってきて飯を食うところだ。めちゃめちゃ広い食堂だな」


「そ、そうだな……」


 黒装束の女は顔を背けつつ手元のマグカップに瞳を落とした。


「冒険者様はこんなところで飯を食って日々の冒険に旅立っていくというわけか。ロマンある生き方で憧れるぜ」


「そ、そうだな……憧れる……私も憧れてここまで来たんだが……」


 黒装束の女の瞳から涙がこぼれ、ぽとんとテーブルに落ちた。


 ユウキは唐突な女の涙にパニックになりかけたが各種スキルを発動してぐっとこらえた。


「なんだ、泣いてるのか」


「な、泣いてなどいない」


「話、聞こうか……って、あんた、女戦士じゃないか!」


 涙を流してるこの大きな体躯の女、彼女は噴水広場でナンパした女戦士だった。


「なんだよ、そんなダボっとした黒い服を着てるからわからなかったぜ」


「お、お前は……確かユウキだったか。なぜここに?」


「野暮用でな。それよりどうしたんだ? ギルドへの登録はうまくいったんだろ?」


「あ、ああ……しっかり登録できた。でも仕事を得ることができなかったんだ。お金も路銀に使い果たしてしまった。もう田舎に帰るしかない……」


「な、なぜ仕事をもらえなかったんだ? 今は迷宮深層が解放されてるし、そこらで邪神がぽんぽん目覚めてるんだろ。冒険者は引く手数多じゃないか」


「私……属性が闇だったんだ」


「ああ……」


 ここでユウキは先ほどのロビーで係員に受けた説明を思い出した。


 冒険者はパーティを組むにあたり、属性を合わせる必要がある。


 また現在、闇の冒険者の数は減っており、なかなかパーティを組むことができない。


 女戦士はうつむきながらつぶやいた。 


「ソーラルまで一緒に旅してくれた仲間たちも皆、属性が光だったんだ。道理で話が合わないと思った……」


「なるほどな。あんた、その服、私服か?」


「ああ……もう女戦士の鎧を着てる意味はないから」


「あんたの私服、上から下まで真っ黒だな。属性が闇ってのもうなずけるぜ」


「う、うう……」


 女戦士はマグカップを握りしめながらまた涙を流し始めた。


 そのマグカップの中身は白湯だった。魔コーヒーを買う金すらないのか。


 そのときユウキの目の前にこの食堂で最も高価な肉煮込み定食の皿がどんと置かれた。美味しそうな香りが食欲を掻き立てる。


 隣に座って泣いている女戦士の腹がグーっと音を立てて鳴った。


「なんだ。腹減ってるのか。良かったら食うか?」


「ほ、施しは受けない」


「朝、コーヒーを奢ってもらったお返しだ。しかも俺、五人まで使える無料パス持ってんだ」


「そ、そういうことなら」女戦士は涙を拭うと肉煮込み定食を食べ始めた。


 ユウキはもう一皿、自分の分の定食を頼みながら、今夜の防衛戦の戦力を見つけたことを悟った。


 *


 ギャラの交渉を終えたユウキは、石板通信でシオンに助っ人が見つかったことを伝えると、女戦士をポータル経由で闇の塔に送り込んだ。


 自分もこのまま闇の塔に帰りたかったが、まだもう一仕事やることが残っていた。


 このあと夕方から星歌亭で『癒し手』を面接することになっているのだ。


「ユウキ! お茶入れる!」


 今夜のライブと開店の準備をするため、ゾンゲイルは街訪問ボディを星歌亭に寄越していた。


 いつもながら非人間的な美しさを誇る彼女に茶を入れてもらいながら、星歌亭の隅の客席で『癒し手』を待つ。


 と、待ち合わせ時間ジャストに星歌亭のドアが開いて『癒し手』が顔を覗かせた。


 どこかの学校のものらしき、セーラー服めいた制服を着ている。


 学生なのか、かなり若い。


「こちらにどうぞ」


 ユウキは椅子を引いて少女を前の席に招いた。


「ゴゾムズ神の導きに感謝します……あなたが……私の雇い主なんですね」


「いや、それはこれから決めるところだ」


「導きがあるのでわかっているんです。あなたなのです……私の雇い主は」


「…………」


「疑わないでください。私には神の声、そして今や強力な癒しの力を持つ大天使の声が聞こえるのですから」


 女学生は熱病に浮かされているかのごとき潤んだ瞳をユウキに向けた。


 そのときゾンゲイルが厨房から顔を出して険しい目をこちらに向けてきた。


 危険がないか警戒しているのか。


(大丈夫だ……!)


 ユウキはジェスチャーでゾンゲイルに厨房に戻るよう合図すると、また目の前の女学生に顔を戻した。


「あの……失礼だが……その制服、ずいぶんボロいな。何かあったのか?」


 縫い込まれた銀色の刺繍や裾がところどころほつれている。


 女学生は顔を赤らめうつむいた。


「お恥ずかしい限りです。学校をやめ、家を出た私にはこの服しか着るものがないので」


「ということは……あんた……家出中ってことか?」


「家……それはゴゾムズの威光があまねく広がるこの世界そのものであると私にはわかっています。それに今では私には、大天使もついているのです。くだらない学校などに通っている場合ではないのです。早く使命を果たさなくてはなりません」


「そ。そうか……ところであんた、名前を教えてもらえるか」


「はい。ミューザと申します」


「名字と、家の住所もだ」


 女学生のフルネームを教えてもらったユウキは、一度厨房にひっこむと、そこでこっそりユズティに石板通信をして女学生の家出の情報を伝えた。


 しばらくすると女学生の家の者が星歌亭にやってきた。


 まだ普及していない個人用魔導馬車から執事らしき初老の男が降りてきて、ミューザの手を引っ張った。


「お、お嬢様! 家におかえりください」


「爺……いやよ! 放っておいて! 学校に通って社会の歯車になる、そんなつまらない生き方、私には絶対にできないわ!」


「お嬢様……社会は荒波ですぞ! お嬢様はソーラル有数の名家に生まれ良い学校に通う権利を持っているのですぞ。その好条件を捨てて家出をした先に何があるというのですか!」


「もちろん自信はないわ……私の力でどこまでやっていけるのか……でもかつて、私は教会でゴゾムズに祈ったのです! 『勇気のない私を変えてくれる誰かを私のもとに引き寄せてください!』と。その願いは聞き届けられ、『異界の聖女』が私のもとに遣わされたのです! そしてあの美しき聖女は不思議な占いによって私に与えてくれたのです。自信がなくても前に進む勇気を!」


 厨房から執事と女学生のやりとりをこっそり覗いていたユウキはここに至り気づいた。


 この女学生とは、かつてソーラル第二教会で会ったことがあることを。


 そしてこの女学生との関わりの中で、『神憑り』を能力に持つ人格テンプレート『女神官』の起動が可能になったことを、ユウキは思い出した。


 思わず厨房から出て『異界の聖女って、女体化してたオレだぜ』と正体を明かしかけた。


 だがぐっと堪える。


 このエキセントリックな女学生に崇拝されるのは、何かと問題を引き起こしそうだったからである。


 だいたい彼女は家出中の学生だ。そんなトラブルの元を闇の塔で働かせるつもりもない。この女学生はこのまま執事さんにひきとってもらいたい。


 むろん闇の塔のメンタルヘルス改善は急務であるが、家出中の女学生などを塔に引き入れたら皆の心が安定するどころか問題の種が増えるだけに決まっている。


 しかし……。


「そこまで心を決めているのなら爺はお嬢様を応援いたしますぞ! さあ、そこのおかた、お嬢様を面接してくだされ!」


「え、いや、あの……この話は悪いんだけど断ろうかと」


「なに? お嬢様を雇うに値しない無能と断ずるとは、若造め、許してはおけぬぞ」


 執事は恐ろしい形相でユウキに詰め寄ってきた。


 瞬間、厨房からゾンゲイルが飛び出てきてユウキと執事の間に割って立ち、殺意の波動を全身から立ち上らせた。


「ちょっと待て、ゾンゲイル!」


「およしなさい、爺!」


 ユウキとミューザがそれぞれの配下の者を全力で止めると、なんとかその場は収まった。


 だがミューザは依然として『癒し手』として働くことを熱望しており、一方ユウキはミューザを闇の塔に導くことを拒絶しており、二人の主張は平行線を辿った。


 そんな折り、ミューザはふいに首にかけたメダリオンを握りしめてゴゾムズに祈りの言葉をささげた。


「ゴゾムズよ……私に職をお与えください」


 かと思うと顔を上げてユウキを見つめ、言った。


「わかりました。私のこの小娘という外見に惑わされて、あなたはゴゾムズの導きを拒絶しているのですね。それならば、あなたを安心させてあげるために、私はテストを受けましょう」


「オレが心配しているのはあんたのその性格なんだが……」


「さあ、癒し手としての私の力をお試しください。心に秘めたあなたの暗い悩みを私に打ち明けるのです!」


「頑張れ、頑張るのですぞ、お嬢様! 爺がここで見守っていますぞ!」


「爺は黙ってて! 私はもうなんでも一人でできるんだから! 大天使よ!」


 ミューザはさらにきつくメダリオンを握りしめて天を仰ぐと、召喚の言葉を唱えた。


「大天使よ! 私の召喚に応えて、この人の悩みを解決してください! そのために今、私の心と体をお貸しします!」


 メダリオン……銀色の円盤から光が溢れ出し、星歌亭の一角を眩く照らした。


「うおお……なんだこりゃあ」


「私の秘技……『大天使召喚』です。これより先、私は意識を失い、大天使が代わりにあなたと会話します」


「お、おい、ちょっと待て!」


「安心してください。大天使は人間的な物事にあまり興味を持っていないので、どんな恥ずかしいことを打ち明けても問題ありません。また守秘義務という概念についても言い聞かせてありますので、秘密は必ず守られます。爺! そして店の人……しばらく私たちを二人きりにしてください」


「いや! ユウキは私が守る!」


「……こうなったらその大天使とやらと話してみよう。悪いがゾンゲイル、ちょっと厨房に入っててくれ。執事さんはあっちのカウンター席で酒でも飲んでてくれ」


 しぶしぶと言った様子ではあったがゾンゲイルは厨房に引っ込んでいった。


 執事は心配そうな顔を女学生に向けつつも、カウンター席に腰を下ろした。


 メダリオンからさらに大量の光が溢れて女学生を包んだかと思うと、彼女の黒髪を眩い金色に染めていった。


 さらに全身からも金色のオーラを放出させ、星歌亭の客席の一角をキラキラと輝かせながら、さきほどまで女学生だったものはユウキを見つめ、口を開いた。


「ほい。大天使だよ」


「…………」


「悩み。あるんだって?」


「な、なんなんだ、あんた」


「大天使。それは大きな天使……人を慰めたりする」


「悪いが……女学生に戻ってもらえないか?」


「仕事、終わらせないと帰れない。召喚されたので」


「仕事?」


「お悩み解決。あなたさんの」


「…………」


 さきほどまで女学生だったものは非人間的なまでのキラキラしたオーラを輝かせ、背景に半透明の羽などを羽ばたかせながらユウキをつぶらな瞳で見つめていた。

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