第7話 籠城
ゴーレムとアンデット軍団の攻撃によって門と外壁が削られていく。
「バリアを貼れよ。樹木の妖魔の攻撃も何発か防いだぐらいだ。あいつらの攻撃だって防げるだろ」
「それは無理なんだ。もうバリアの内側にまで侵入されているからね」
「おいおい、どうすんだよ。このままだと門を壊されて塔に侵入されるぞ」
「ふふっ。大丈夫。防御モードを起動するよ!」
シオンが祭壇を操作すると塔の外壁が淡く輝きはじめた。
するとどうだろう。
なんと外壁が超合金と化したかのように無傷で攻撃を弾き返しはじめたではないか。
シオンは額の汗を拭った。
「よかった……防御モードは塔の材質強度を飛躍的に高める力があるんだ。どうやらゴーレム程度の攻撃ならこれで対処できるみたいだね」
「こんな機能、塔にあったのか?」
「ふふっ。最近の戦いで得た経験値で『力のクリスタル』がアップデートされたんだ。それによって得た能力だよ。」
「まじか。これで一安心だな」
「ただ少し問題があって……この防御モードを発動していると魔力がどんどん減っていくんだ」
「おいおい大問題だろ! いつまで魔力は持つんだ?」
「今日、明日一杯ぐらいかな」
「そ、そうか、それなら少しは余裕があるが……あいつらはいつまで塔を攻撃し続けるつもりなんだ?」
「ゴーレムもアンデットも、食事も眠りも摂らずに稼働できるからね。操っている術者がその気になれば、何日でも攻撃を続けられるはずだよ」
「術者というと……ネクロマンサーとやらがこの近くにいるってことか?」
「そういうことになるね。アンデットたちは闇の波動によって自然発生することもあるけれど、ゴーレムは必ず術者の命令に従って動いているからね」
ここでエクシーラが一歩前に進み出るとシオンに向き合った。
「強い魔力……あなたが闇の塔のマスターね。お願いがあるの、私を短距離転移させてくれないかしら」
「どこにだい?」
「塔の外、敵の群れから離れた場所ならどこでもいいわ。間違ってこの塔を襲った責任を取らせてもらう。私が必ずネクロマンサーを見つけ、無力化するわ」
シオンはユウキを見た。
ユウキはうなずいた。
「まあそういうなら……だが塔を出る前に、この『叡智のクリスタル』とコネクトしていってくれないか。連絡しやすくなる」
「この祭壇に触れたらいいのね?」
「ああ。ついでに石版も同期してくれ」
「わかったわ」
エクシーラはユウキと石版を同期すると、ここで初めて皆に名乗った。
ゾンゲイル以外の者から感嘆の声が上がった。
「あ、あなた様は、あの伝説のエクシーラ様だべか! 信じられないべ」
「なんと……我が暗黒剣を向けし無礼、お詫びいたす」
「ふふっ。驚いたよ。まさか生きた伝説にこんな形でお目にかかるとはね」
「おい……エクシーラって、そんなにすごいヤツなのかよ」
「ユウキ君、失礼だよ!」
「いいえ。私など少し長生きしているだけのただの未熟者に過ぎないわ。この塔が包囲されてしまったのも私がターゲットを見誤ったせいよ」
「ああ、本当にそのとおりだ。室町時代から生きてるくせに、考えなしすぎるんじゃないか」
ユウキはさきほどレイピアを突きつけられた首を撫でながら文句を言った。シオンが小声でたしなめた。
「ユウキ君、失礼だってば……ふふっ、いいんですよ。エクシーラさんのおかげで籠城することになり、むしろ助かりましたよ。この規模の軍勢には、僕たちでは勝てなかったでしょうからね」
「さあ、転送をお願い」
だがここでユウキは不安になってきた。シオンに耳打ちする。
「なあ……本当に一人で送り出して大丈夫なのかよ」
「彼女はエクシーラさんだよ! あの『悪滅剣』と『破邪のサークレット』、そして『疾風のマント』を身にまとった生ける伝説に断ち切れぬ悪などいないよ!」
結局、妄信的な信頼を見せるシオンの短距離転移魔法により、エクシーラはゴーレムの軍団から離れた場所へと送り込まれていった。
*
ガンガンと攻撃の音が響く中、戦闘員たちはしばらく司令室の祭壇に顔を寄せ合い、エクシーラの動静を見守った。
祭壇上に光点で表示されているエクシーラは、しばらく戦場をウロウロしたあと、迷いの森に向かった。
どうやらそちらの方面にネクロマンサーの気配を感じ取ったようである。
「エクシーラさんの『破邪のサークレット』は、闇の魔力が集中する中枢を察知する能力があるんだ。その神秘のアーティファクトを使ってネクロマンサーを探しているんだろうね」
「なるほど……それでさっきはこの塔の中枢である司令室に一直線で攻めてきたわけか」
「これはすぐにでも勝負がつくかもしれないね」
シオンはワクワクした表情で祭壇を見つめた。
そのときゾンゲイルがお茶を入れてきてくれた。
ラチネッタ、アトーレ、シオンは祭壇を囲んでお茶を飲みながら、自らが知るエクシーラの伝説について熱く語り合っていた。
やれ千体のサイクロプスを単身で殺戮したとか、人類に仇なす旧神を調伏したとか、世界の破滅の運命を五回は回避したとか、にわかには信じがたい伝説ばかりである。
「まったく。何言ってんだ、あいつら。特撮ヒーローに憧れる小学生かよ」
「どう? このお茶。少し高級な茶葉を買ってみたの」
「いいな。ダージリンのマスカテルフレーバーに似たものを感じる」
「もっと飲んで! 淹れてくる!」
ゾンゲイルは走って司令室を出ていった。
そうこうするうちに、エクシーラの光点が祭壇上から消えた。塔の探知能力の範囲外である迷いの森の奥に踏み入っていったのだろう。
やがて、一階からガンガンと攻撃の音が響いてくる以外、なんの動きも生じなくなった。
皆はお茶を飲みながら司令室に集っていたが、あくびが伝染しはじめた。
「ふあああ……なあ、もう寝ようぜ」
「何を言ってるんだい、敵に攻められているんだよ。そんな中で寝るなんて」
「いいや。ユウキ殿の言う通りである。戦場では寝られるときに寝ておくべきである。我が寝ずの番をするゆえ、皆は自室で休むがよい」
ありがたい申し出だったが、アトーレひとりに見張りを任せるのは不安である。
「二時間交代で司令室で見張りをすることにしよう。敵に何か動きがあれば、祭壇のこのアイコンを押して警報を鳴らしてくれ」
「承知した」
最初の見張りであるアトーレを司令室に残し、ユウキたちはぞろぞろと部屋を出て階段を下った。
「…………」
塔の建材を通してガンガンと攻撃の音が響き続ける中、ユウキはベッドに潜って目を閉じた。
いつまでも攻撃の音は止まなかった。
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