妻が急に優しくなった(2)

「そう言えば、シンクの裏側から水が漏れているのを見つけちゃって」



妻は私の腕を掴む。



私は妻に連れられるまま、キッチンに入った。



キッチンが見違える程に綺麗に清掃されて整頓していた。



どちらかと言うと、妻は綺麗に使うほうだが、ここまで綺麗になっているのは初めて見た。



「本当に、どうしたんだよ」



私は、妻のこの変わりように呆気にとられていた。



「へへん、綺麗にしてみました!」



妻が両手を腰にちょんを置いて胸を張る。



「あなたもちゃんと覚えておいてよね、ここにフライパン、ここに食器、ここに調味料に油、ここには根野菜などがあるからね」



「あ、ああ…」



「それでね、ここから水が漏っているの」



私は屈んでシンクの裏側を見上げた。



シンクをとめているパッキンが長年の水により腐食し、そこから漏れていた。



「これは、水道屋さんに言わないと直せないな」



私が上体を起こすと、妻は、私の顔を覗き込んできた。



妻は上目遣いでにこにこと笑みを溢している。



「な、なんだよ、さっきから!」



私は驚きから苛立ちが沸き起こる。



「好きなだけだよ。だから見ているの」



妻はそう言うと私に抱きついてきた。



妻から私に抱擁するのは何年ぶりだろうか。



「あなたは格好いいよ」



妻が私を格好いいなんて言葉を一度も口に出すことはなかった。



何かがおかしい。



 リビングに行くと、ここも異常な程までに清掃されていた。



「タオルとかはここで、救急道具はここだからね」



確かに、この家は妻が知っていて、私が知らないことがたくさんある。



これまで、私は仕事に、妻が家事を役目として生活してきた。



唐突もない変わりように私は妻の浮気を疑った。



今まで一度もその素振りはなかったし、今も浮気しているとは思えない。



しかし、この違和感から苛立ちと不安が私を追い詰める。



私が今まで家のことをほったらかしにしてきたせいか?



私だって若い女性に言い寄られて、気持ちが浮ついたこともあったが、浮気はしていない。



 食卓に料理が整うと、それはもうご馳走で、出来合いの総菜品がひとつもない。



「いただきます」



妻が手を合わせて言う。



「いい加減にしてくれ!」



私は、浮気をしているのではないかという不安に怒鳴った。



妻は驚いて固まる。



「ごめん」



私はもごっと言い、立ち上がると、夕食を食べずに自室へ入った。



どうして浮気なんて。



いや、浮気をしたのか?



明日になれば元に戻る?



そのような思いが頭に巡っていると、いつの間にか、眠っていた。



ふと目を覚ますと、夜中の3時だった。

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