眩暈

ゆき

眩暈

真っ白な世界に出た時、私は思わず目を閉じた。

しかし、閉じた瞼にも光は容赦なく降り注ぎ、真っ暗なはずの視界がチカチカと赤や緑の光に覆われる。


突然の眩しさにぐらりと身体が揺れて、私の身体を突然襲った眩暈にふらつきながら、私は膝に手をあてて、どうにか倒れ込むのを阻止した。

きっと、赤ん坊が生まれてくる時、こんな感じなのかもしれないなぁ。


私はふとそう思いながら、薄目を開けて真っ白な世界に順応しようとした。

人間の赤ん坊は、子宮という真っ暗な世界で十月十日過ごして、この世界に産み落とされる。

眩しい世界に放り出されて、初めての空気を吸い込み、それまで胎児だった赤ん坊は大声で泣く。その時の赤ん坊の目はほとんど見えていないという。眩しい世界に順応するのに時間がかかるため、ほとんど見えない状態から少しずつ、まずはモノクロで見えるようになり、続いて赤から順に色を識別できるようになり、3 歳ぐらいまでの長い年月をかけて、ようやく大人と同じような視力を身に着けるそうだ。


私は、そんな情報を育児書を読んで知った。

妻が第一子を出産するのに里帰りをしていて、私は東京で仕事だったのだが、産まれたという連絡を受けて、妻の実家がある北国への新幹線に飛び乗ったのだ。

トンネルを抜けて雪に覆われた世界に飛び出した時、眩しい太陽の光と、その光を反射する雪面に目をつぶり、どういうわけか、その時頭に浮かんだのが赤ん坊の視力についてだった。


妻と私は同郷で、妻の里帰りは、同時に私の里帰りでもあった。

子どもの頃を思い起こしながら、新たな命の誕生に、月日の流れを実感し、そのあまりの速さに再び眩暈がした私は、再び目を閉じて故郷への到着を待つことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

眩暈 ゆき @yukikkuma38

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ