無機的で機械的な動きがもたらす安寧

ゆき

無機的で機械的な動きがもたらす安寧

コツン、コツン、

  コツン、コツン、


一定の速度で小さな球が動く。

同じ大きさ、同じ色の小さな球が 5 つ。

整然と並び、その両端の球が一定の速度で動く。


コツン、コツン、

  コツン、コツン、、、


右端の球が隣の球にぶつかれば、左端の球が弾かれて動く。

そして、左端の球がその隣の球にぶつかれば、今度は右端の球が動き出す。


コツン、コツン、

  コツン、コツン、、、、、


運動量保存則と力学的エネルギー保存の法則を実演する、この 5 つの球は「ニュートンのゆりかご」と呼ばれ、科学を学ぶ場、研究する場のみならず、インテリアとしても人気らしい。


その人気の理由が、私には分かる気がする。

人は、落ち着くのだ。

こういった、一定の速度で淡々と動くものを眺めると。


「ゆりかご」という呼び名がついているぐらいで、この 5 つの球の列と、コツン、コツンと動き続ける両端の球の動きは、不思議と見ている者の気分を落ち着かせる。

それはまるで、母親が赤ん坊をあやすため、もしくは寝かしつけるために一定のリズムで揺らすゆりかごのようで、我々人間はこういった一定速度の動きに安堵感を覚えるらしい。


それは、他にも色々な場面に散りばめられている。

砂時計の砂が落ちていく様、似たようなもので言えば、ウォータードリップのコーヒーがポタリポタリと滴り落ちていく様、それから振り子時計の振り子、このようなものは、なぜか心身が疲れている時や、癒しを求めている時に、ぼんやりと眺めたくなる。


なぜだろう。

やはり、ゆりかごの一定の速度というものに心地よさを感じるところに起因しているのだろうか。


もっとさかのぼると、もしかしたら、胎児の頃を思い出すのかもしれない。

一定の速度で刻む鼓動の音を聞いて羊水の中で揺られて育つ胎児。

母親の心拍数こそ、トクン、トクン、と一定の心地よいリズムを刻む最初の安心体験なのではないだろうか。


トクン、トクン、

  トクン、トクン、、、


コツン、コツン、

  コツン、コツン、、、


永遠の時さえも感じさせるこのリズムは、無機質で機械的なもののように思えるが、自然の中に存在する確かなエネルギーとして、我々を安堵させ、安心させる力を秘めているのだ。


こんな事をぼんやりと考えながら、ニュートンのゆりかごをぼんやりと眺める。

これが私の癒しの時間の過ごし方なのだ。


コツン、コツン、

  コツン、コツン、、、


今日も我が家のニュートンのゆりかごは、激動の世界情勢などおかまいなしに、涼やかに一定のリズムで、同じ動きを繰り返す。

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無機的で機械的な動きがもたらす安寧 ゆき @yukikkuma38

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