第290話 ソーセージ
「ふむ、文香君が消えたとな」
花巻先輩が眉を寄せた。
文香が消えて、それを誰に相談したらいいか迷った俺は、学校に来ている。
「部室」には必ず花巻先輩がいると思ったから。
「そうなんです、消えただけじゃなくて、まったく連絡もつかなくなっちゃったんです」
俺は、先輩に事の成り行きを説明する。
「なるほど…………しかしな……」
先輩がそう言って腕組みした。
「しかし小仙波よ、文香君がいなくなって混乱してるのは分かるが、とりあえず、目の前で女子高生がビキニ姿で子供用プールに入っているという、ラッキースケベ状態に何か一言あってもよかろう」
先輩が言う。
「あっ、すみません……」
先輩は部室の中庭に子供用プールを出して、それに水を溜めて行水していた。
プールの中で
夏の日差しに眩しい純白のビキニ姿の花巻先輩。
先輩の大きなものに対して、布の面積が圧倒的に足りてなかった。
いろんなところがはみ出している。
上乳とか横乳とか下乳とかはみ出しまくっていた。
先輩の可愛いお
こんな緊急時でもなければ、俺は思わず凝視してたと思う。
このラッキースケベを脳裏に焼き付けようと、目を皿のようにしていたはずだ。
「まあよかろう、少し待っていたまえ」
先輩はそう言うと、立ち上がってプールから出た。
バスタオルを巻いて縁側から室内に上がる。
先輩は居間のちゃぶ台に置いてあった自分のスマートフォンを手に取ると、それでどこかに電話を掛けた。
四、五箇所、続けざまに電話を掛ける。
そして肩を竦めた。
「うむ、なにかが起きているのは確かなようだ」
先輩は
「この件に関しては
先輩が言った。
この街の
普段は先輩に甘くて、尻に敷かれている感さえある重鎮達が、この件についてはみんな口をつぐんでいた。
なにも教えてくれなかった。
「まあ、いずれなにか報告があるだろう。文香君も、月島女史も無責任な人物ではないからな。このまま黙って消えたりはしない」
先輩が俺の肩をポンと叩く。
「そうですね」
確かに、文香も月島さんも、なにかあったとして俺になにも言わずに消えるようなことはないと思う。
案外、二、三日したらケロッとして戻ってくるかもしれない。
だけど、あれ?
「先輩、月島さんのこと…………」
今、先輩は月島さんの名前を口にした。
この学校で月島さんは、一応、プログラミングの講師、山崎先生ってことになっている。
やっぱり、先輩気付いてたのか。
「うむ、相当前からな」
先輩はそう言ってヤレヤレみたいに肩を竦めた。
当然だろう、って表情をしている。
俺は、先輩にすべてを話した。
隣の家に入って月島さんの部屋が空っぽになってたことまで、全部。
「小仙波、落ち着け。とりあえず頭を冷やせ。プールにでも入って涼んでいくがよい。ほら、女子高生の
先輩が子供用プールを指す。
あの、出汁とか、その言い方……
それに女子高生って。
まあ、先輩が女子高生なのは確かだけど。
「でも俺、水着とか持ってきてないし」
「パンツで入ったらいいだろう。濡れてもこの暑さだ、すぐに乾く。なんなら、全裸で入ってもいいぞ。私も良い目の保養になる」
先輩がそう言って意味ありげな笑顔を見せる。
花巻先輩のエッチ!
「ほら、観念して脱いだらどうだ」
先輩がそう言いながらホースを持って水を掛けてくる。
「先輩、やめてください!」
俺は抗議する。
それでも先輩がやめないから、仕方なく俺は服を脱いだ。
トランクス一枚になって、プールに入った。
小さなプールの中で胡坐をかく。
先輩が掛けてくれる水が冷たくて気持ちよかった。
あれ? そういえば俺、これが今年初めてのプールだ。
「さてと、私も浸かるかな」
先輩がそう言って無理矢理プールに入ってくる。
胡坐をかいてる俺の正面に、無理矢理体を滑り込ませてくる先輩。
「先輩、狭いです」
一人でも一杯なのに、二人入ると、もう、ビニールのプールが破れそうだった。
ぎゅうぎゅうで、先輩の肌と俺の肌が密着している。
布の面積が最小だから、直接肌が触れ合った。
「ふはは、ソーセージの具になった気分だな」
先輩が変なことを言う。
そんなことしてると、
「こんにちは」
玄関から声が聞こえた。
誰かが部室を訪ねて来たらしい。
「こんにちは、花巻先輩、いらっしゃいますか?」
玄関から中庭に回って来たのは、伊織さんだ。
伊織さん、夏っぽいオレンジのワンピースを着ている。
「…………」
言葉を失う伊織さん。
当たり前だろう。
ビキニ姿の花巻先輩と、パンツ一枚の俺が、狭い子供用のプールの中で密着しているのだ。
プールの中で、先輩曰く「ソーセージの具」になってるのだ。
「いや伊織さん、誤解です!」
俺は自分で言いながら、説得力が1㎜もないと思った。
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