第156話 戦利品
「
対戦したコンピューター研究会の男子部員二人が、俺達に詰め寄って叫んだ。
「そうだ! そうだ!」
後ろに控えていたコンピューター研の部員も、一斉に
パソコンを賭けたA○ex Legendsの対決で、俺と文香、南牟礼さんの文化祭実行委員会チームが勝利した。
最後まで生き残って、チャンピオンになっての完全勝利だ。
コンピューター研の正確無比なエイムとプロ並みの立ち回りには勝てないと踏んだ俺達は、南牟礼さんが立てた作戦を実行して、逃げ回って最終段階まで一発の弾も撃たずに隠れていた。
セーフゾーンの真ん中で最後の最後まで息を潜めていて、溜め込んでいた火力を一気に吐き出して勝った。
卑怯といえば、卑怯なのかもしれない。
「ふはははは! 何を言うか! どんな形でも勝ちは勝ちである」
花巻先輩が不敵に笑ってコンピューター研の部員を
こっちに詰め寄ったコンピューター研の部員も、先輩には気圧される。
「卑怯だぞ!」
「正々堂々と戦え」
部員達が遠巻きにガヤを飛ばした。
すると、それまで黙っていた部長の坂村さんが、すくっと立ち上がる。
坂村さんは眉間の皺を深くして、虚空を
騒いでいた部員の声がピタッと止む。
「私達の負けを認めます」
坂村さんが言った。
「彼らはチートツールを使ったわけでも、ゴースティングしたわけでも、その他の不正行為をしたわけでもありません。あくまでもゲームのルール内で戦って勝ったのです。相手の選択したレジェンドを見れば、このような戦い方をしてくることは予見できたはず。しかし、私達は自分の腕に
すごく落ち着いた声で坂村さんが言う。
言葉の端々に、悔しさが
十数人の部員は、
もうそれ以上騒ぐことはしなかった。
そんなところで、コンピューター研の部員が坂村さんに全幅の信頼を置いてるのが分かる。
「どうぞ、私達のパソコンを持っていってください」
坂村さんはそう言って破顔した。
眉間に皺を寄せていた顔が、パッと明るくなる。
常に厳しい顔をしてる坂村さんだけど、笑うとものすごくチャーミングだ。
坂村さんは、絶対、笑顔の方が似合うと思う。
「この『覇王号』をどうぞ」
坂村さんがそう言って部室の窓際の机に
「覇王号」っていう仰々しい名前がついてるこの自作パソコンは、真っ黒なフルタワーケースに組んである。
ケースのガラスパネルから、CPUやGPUを冷やす冷却水の
2000wの電源を積んでいて、電子レンジみたいな大消費電力の、まさしく「覇王号」って感じの堂々としたパソコンだ。
「それでは、遠慮なく」
花巻先輩が満足そうに言って、六角屋に目配せした。
六角屋がそれを持ち上げて台車に乗せようとする。
「あのう……」
そこで俺は声をかけた。
「俺達が持ってくのは、そっちの普通のヤツでいいんじゃないですか?」
俺は、机の隅っこに置いてある小ぶりなデスクトップパソコンを指す。
「文化祭実行委員会では、通知を印刷するとか、スケジュールを管理するとか、ホームページを更新するとか、その程度にしか使わないし、ワープロとか表計算が使えるくらいのパソコンで十分ですよね」
俺は付け加えた。
「今年の文化祭を最高のものにするためにも、コンピューター研の皆さんには文化祭の出展で頑張ってもらわないといけないでしょ? それにはこの『覇王号』が必要ですし」
俺は花巻先輩の方を見ながら言う。
「まあ、そうだな」
先輩が頷いた。
「だから、こっちの普通のでいいですよね、花巻先輩」
俺は先輩に畳みかける。
「うむ。まあ、よかろう」
先輩が大きく頷いた。
文化祭を良くするためって言えば、花巻先輩が頷かざるを得ないことは、分かっている。
「ありがとう」
坂村さんが俺の目を見て言った。
坂村さんのクールな瞳の隅っこに、じわっと涙が浮かぶ。
「本当にありがとう」
坂村さんが、俺の手を握って感謝してくれた。
やっぱり、「覇王号」はコンピューター研になくてはならないものだったらしい。
っていうか、元々道場破りみたいな感じでここに乗り込んで、パソコンを渡せって無理なお願いをしたのは、こっちなんだけど。
俺達は、そこそこの性能のデスクトップパソコンとディスプレイ、プリンターを借りて、コンピューター研の部室を出た。
「さあ、遠回りしたが、早速準備にとりかかるぞ! 申込用紙やらチラシやら作って印刷するぞ!」
「部室」に帰りながら、花巻先輩はもう対決のことなんか忘れて息巻いている。
「南牟礼さん、よくやったね。作戦、大成功だよ」
六角屋が南牟礼さんをねぎらった。
「いえ、運が良かっただけです。セーフゾーンがあの場所から外れてたら、この作戦は失敗してましたから」
南牟礼さんがほっぺたをピンクにして照れる。
「ううん、指示も的確だったし、すごく助かった。これからもゲーム教えてほしいくらい」
俺が言うと、
「お役に立ててよかったです」
小さい南牟礼さんが、さらに縮こまって言った。
「小仙波君も中々いいことしたじゃない。コンピューター研の人達助かったと思うよ」
月島さんが言う。
「うん、私も見直したよ」
文香が言った。
「っていうか…………」
今日子だけが
「なんか、あのとき坂村さんが冬麻を見る目が心配だったんだけど」
なぜか今日子が眉をひそめて言った。
「心配ってどこが?」
俺が訊く。
「いえまあ、私の勘だからどこがってことはないけどさ」
今日子が肩をすくめた。
変な今日子だ。
だけど、そのときの今日子の勘は、確かに当たった。
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