まあ落ち着け。ちょっと他の娘のコト見たくらいで、俺に向けて120ミリ徹甲弾なんかぶっ放すんじゃない
藤原マキシ
プロローグ
俺とフミカの結婚式には、ギルドの内外から、たくさんの仲間が集まってくれた。
丘の上の大聖堂には、俺と同じヒューマンから、エルフ、ドワーフ、オーク、獣人、ヴァンパイア等々、様々な種族がそれぞれの正装姿で着席していて、目に鮮やかだ。
みんながここに来るのに乗ってきたドラゴンやユニコーン、
空は雲一つない快晴で、俺達の結婚を祝うみたいに、鳩の群れが自由に羽ばたいていた。
そんな仲間に見守られながら、俺とフミカは、司祭様の
普段、子供っぽいフミカが、ドレスなんか着ていると、すごく大人っぽく、艶っぽく見える。
アイスブルーの髪に透き通った白い肌、つぶらな大きな瞳を涙で
ぷっくりとしたフミカのほっぺたが、いつも以上に赤くなっている。
こんなこと言うまでもないけど、フミカが世界で一番カワイイと思う。
そんなことを考えてフミカに見とれてるあいだに式は進んで、黄金の法衣に身を包んだ司祭様が、俺達の前に立った。
「トーマよ、そなたはここにいるフミカを妻とし、健やかなるときも病めるときも、富めるときも貧しきときも、変わることなく、死が二人を分かつまで、愛し合うと誓うか?」
司祭様が俺に訊く。
「誓います」
俺は即答した。
緊張してて、ちょっと声が裏返ったかもしれない。
「フミカよ。そなたはここにいるトーマを夫とし、健やかなるときも病めるときも、富めるときも貧しきときも、変わることなく、死が二人を分かつまで、愛し合うと誓うか?」
「誓います」
フミカの方は落ち着いた声で答えた。
「それでは、誓いのキスを」
司祭様に言われて、俺は膝を折る。
フミカはララフィールという種族で、成人でも体が小さいから、こうして俺が膝を折らないとキスが出来ないのだ。
膝を折った俺とフミカが見つめ合った。
とろんとした目で、俺だけを見つめてくれるフミカ。
俺も、目の前のフミカのことだけを考えた。
向き合ってみると、こうして二人が結婚するという事実に、改めて武者震いする。
ちゃんと夫として責任を果たさないといけないって、自分に言い聞かせた。
二人で幸せな家庭を築こうと誓いを新たにする。
そして、どちらからともなく、俺達は自然なタイミングでお互いの唇を重ねた。
集ったみんなが拍手で祝福してくれる。
それが大聖堂のホールに
どこからともなく紙吹雪が舞う。
ガラス張りの天井から、空に無数の花火が上がるのが見えた。
花火を合図に、大聖堂の中庭で盛大な
庭いっぱいに幾つものテーブルが並べられて、その上は、
庭に控えていた機械兵の楽団が、軽やかなメロディーを奏で始める。
みんなが、俺とフミカを囲んで口々に祝いの言葉をくれた。
言葉と共に、たくさんの贈り物ももらう。
武器や防具、薬草や魔法の書みたいな実用的なものの他に、使い魔や召喚獣、戦闘に使えそうなモンスターもたくさんもらった。
俺達が所属するギルドのギルドマスターなんて、俺達に家まで用意してくれる。
海が見渡せる岬のこぢんまりとした家は、新婚生活にはぴったりだと思う。
飲んで食べて、歌って踊って、祝いの宴は日暮れまで続いた。
俺は、本当に良い仲間を持ったと思う。
日が沈んで、空に赤と青の双子の月が浮かぶと、俺達二人はみんなに見守られながらゴンドラで夜の海に漕ぎ出した。
そのままハネムーンに出発する。
金のモールで装飾された豪華なゴンドラを引くのは、俺が召喚したネプチューンだ。
トライデントを
俺達は、ゴンドラの中でくっついて座った。
不意にフミカの方から手を伸ばしてきたから、俺はその手をギュッと握る。
空に浮かぶ無数の星と、それを映した鏡のような海で、上と下の区別がつかなくなった。
俺達のゴンドラは、まるで宇宙空間を
二人っきりになると二人とも急に話せなくなってしまって、俺達は何も言わずに、ただ手を握り合っている。
ゴンドラが水を切る音だけが夜の海に響いた。
そうして、一時間くらい海の上を滑っていただろうか。
「…………えっと、こ、今度、オフラインで会わない?」
俺の口からそんな言葉が出ていた。
ぽろっと自然に口から出た。
フミカがびっくりして、大きな目をさらに大きく見開く。
一つ勘違いしないでほしいのは、俺達が今プレーしているこのMMO「クラリス・ワールドオンライン」のゲーム内でも、実生活でも、俺がこんなふうに相手を誘ったのは初めてだってことだ。
俺は、いつも誰彼構わずこんなふうに誘ったりしてるわけじゃない。
そんなチャラい男では、断じてない。
それこそ初めての経験で、口から心臓が飛び出る想いで誘ったのだ。
相手がフミカだから誘ったのだ。
「オフで会ってくれませんか?」
返事がないから俺はもう一度訊いた。
「……はい」
しばらくの沈黙のあと、PCのスピーカーから、フミカの恥ずかしそうなか細い返事が返って来る。
嬉しさのあまり目の前のディスプレイに頭突きしそうになって、俺は、ギリギリのところで耐えた。
枕で口を
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます