クローン兵士の戦争 異世界で出世したけど、敵と美女と美少女に包囲されました

仮名絵 螢蝶

第二部 第一章 新生編 元半ニート大学生は、現在凄腕兵士

プロローグ 異名兵士「剣狼」



地球によく似た星、惑星テラ。この星では十年以上に渡って世界を二分する勢力、自由都市同盟軍と世界統一機構軍による戦争が続いていた。


戦乱の火の手は世界全土に及び、今日も荒廃した世界のどこかで、血を血で洗う戦闘が繰り広げられている。


この物語は地球の平凡な大学生だった青年が、戦乱の星の英雄に成り上がり、仲間と共に戦い抜く姿を記した戦記である……


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戦乱の星に転生してからはや一年、か。今さらだけど、地球の平凡な大学生だったオレが、なんだって戦乱の星、惑星テラで軍人なんかやってんのかねえ……考えてみりゃ惑星テラって、まんま地球のラテン語読みだよなぁ。


オレの名は天掛あまがけカナタ。地球にいた頃は父親が超エリートってだけの、三流私大のボッチ大学生だった。地球にいたなら平凡で退屈な人生を送っていたに違いない小市民のオレだけど、色々あって、現在は地球のコピー商品みたいな戦乱の星で、軍人をやっている。軍人というからには戦争がお仕事で、今もお仕事の真っ最中だ。


「剣狼ぉ!その首もらったぁ!」


欠伸が出そうなほどトロい斬撃を鼻先で躱し、振るった刃で敵兵を肩口から両断する。……ヤワい体だ。戦闘細胞適合率がだいぶ低いな。超人兵士としては、まだ駆け出しだったみたいだ。


「無名兵士の誰かさんよ、誰の首をもらうって?」


「少尉、死人はお返事出来ないわよ? 質問は殺す前にしておかないと。」


ゴスロリチックなバトルドレスを纏った少女は両断されて真っ二つになった惨殺死体を見ても、眉一つ動かさない。超能力強度を表す指数、念真強度。その念真強度が600万ニューロンもある天才少女は、慈悲のなさも超人級だ。


「初めて逢った時からそうだったけど、おまえはホントに肝の据わったお子様だな。」


リリエス・ローエングリンはまだ10歳の元伯爵令嬢。でもなんの因果か、今では彼女も兵士だ。このちびっ子のシニカルな言動行動にはもう慣れちゃったけど、オレの可愛い小悪魔は、敵兵から見りゃモノホンの悪魔なんだよなぁ……


「少尉ほどじゃないわ。あによ、未来の嫁をそんな目で見ないの!ほら、さっさと次を殺る!」


「人使いが荒いねえ。今度は群れてきやがったか。」


「勇気があっても思慮が足りないそこの死体の無様な有り様を見れば、数を頼むに決まってるじゃない。少尉って馬鹿なの? 死ぬの?」


コイツ、口さえ閉じてりゃ完璧な美少女だってのに、勿体ねえなぁ。ま、リリスさんはその毒舌もチャームポイントなんだけどな。


「死ぬのは敵兵だ。雑魚がいくら群れても、大魚にはなれない。」


瞳に力を込め、群がる敵兵達を睨みつける。両手の指の数より多い兵士が、目と耳から血を噴きながら、バタバタと斃れてゆく。睨んだだけで人を殺す目、狼眼ろがんはオレの代名詞で最大の武器だ。この世界では「邪眼系能力」とやらに分類されるらしい。


「いっちょ上がり♪ さすが最強兵士のハニーね。ねえ、ご褒美にキスしてあげよっか?」


ウィンクするお姿にキュンとくるが、ここはグッと我慢だ、我慢。


「戦場のど真ん中でかよ。勘弁してくれ。オレの悪い噂は色々あるみたいだが、ロリコン説だけは否定したい。」


「もう、テレちゃって♪ 凄腕になっても可愛いままなんだから。」


21にもなって10歳のコに可愛いって言われるのも、どうなんだろ?……!!……


オレは華奢で小っちゃいリリスの体を抱えてジャンプする。ん~、軽く跳んだが5メートルはいったか。垂直飛びの世界記録をトリプルスコアで更新したな。世界記録とは言っても、"元の世界の"だが。


白煙が立ち込める中、地面に空いた大穴を避けて着地したオレは、腕に抱えた毒舌美少女を背後に降ろす。


「お喋りが過ぎたみたいだな。リリス、ちょっと下がってろ。」


ぶっといサイボーグアームから排莢を済ませた巨漢の兵士が、従卒役の兵士に武器腕ウェポンアームを通常腕に換装させてる姿が見えた。換装を終えた巨漢は、巨体に見合う馬鹿デカい戦斧を携えて、ゆっくりとこちらに近付いてくる。


「ちょっとはデキるっぽいデカブツの登場ね。少尉、カッコイイとこ見せてね?」


「善処しよう。」


ちっこいコに背中を見守られながら、オレはデッカい兵士と対峙する。


「貴様が剣狼か。思ったよりもチビだな。」


「オレの身長は172センチだ。オレがチビなんじゃなくて、おまえがデカいだけさ。」


この世界の日本にあたる島に住む人種、覇人の平均身長も170ぐらいだっけな? んで、このデカブツのタッパをレーザーサイトで測定させてみたらば、と。網膜に表示された戦術データでは「身長211,5Cm、重量級と仮定すれば推定体重255Kg」ねえ。これだけのガタイなら、人種を問わず平均以上なのは間違いない。


「俺は世界統一機構軍、ヒルシュベルガー連隊所属の異名兵士ネームドソルジャー…」


異名兵士名鑑ソルジャーブックには目を通してるが、コイツの顔は知らない。B級以下の小物を記憶するほど暇じゃないんだ。


「名乗らなくていい。すぐに……死ぬ。」


無造作に距離を詰めたオレの頭目がけて、振り下ろされる戦斧。右手の刀で受け止めて、左手でボディブローを喰らわす。おっと、バックステップして、吐き出されたゲロを避けておくか。


「ぐえぇ!……テ、テメエ……」


「二日酔いかい、デカいの? アンタ、ガタイの割にはパワーがねえな。肉食ってる?」


「ぶっ殺す!」


プロシュート兄貴曰く、それはぶっ殺した後に言うべき台詞だ。覚悟も腕力も足りない野郎だぜ。足りない腕力は、得物を両手で持ってカバーしようってか。


風のように踏み込み、スィング途中の戦斧の柄を左手で掴んで止めたオレは、右手の刀を狼眼で睨んで殺戮の力をチャージする。両手で繰り出した渾身の一撃を片手で軽々と止められた巨漢の額に汗が滲んだ。


「……言い残すコトはあるか?」


どうせ"待ってくれ"とか芸のないコトをほざくんだろうがな……


「待て、待ってく…」


やっぱりか。最後の最後まで芸のない野郎だよ。生まれ変わって出直してこい!


邪眼の力を付与された愛刀は、ナイフでバターを切るように巨漢の体を真っ二つにした。上半身は仰向けに倒れ、膝から崩れ落ちた下半身からは臓物がこぼれ落ちて、一人の兵士の命の終わりを告げてくれる。


地球より科学の進んだこの星だが、やってるコトは中世の戦争と変わりない。戦場の主役は兵士達による白兵戦、少し違うのは、戦う兵士が生身の人間ではなく、生体工学によって生み出された超人兵士だってコトぐらいだ。生体金属兵士バイオメタルと呼ばれるオレ達は、最下級の兵卒でも、地球にいけばオリンピックでメダルを獲得出来る程の身体能力を持っている。異名兵士と呼ばれる域まで達すれば、オリンピアン級とかいったレベルじゃない。例を挙げれば精鋭部隊の部隊長であるオレは、片手で500キロの鉄塊を持ち上げ、100メートルを4,4秒で走破出来る。こんな人間兵器を創り出せるんなら、戦車や大砲といった通常兵器の重要性は低下せざるをえない。


部隊では腕利きだったらしいデカブツを討ち取られた敵軍は、演技を疑いたくなるほどあからさまに動揺した。だが、それが演技ではないコトをオレは知っている。


中世の戦争と似たり寄ったり、それはつまり、この世界の戦争は三国志演義の世界に酷似してるってコトだ。名のある兵士同士の一騎打ちの結果は、ダイレクトに戦局に反映される。……畳みかけるのは今だな。


「これより殲滅戦に移行する!指揮中隊、第3、第5中隊はオレに続け!第2中隊は支援狙撃だ!いくぞ!」


彼我の兵差はたったの2倍だ。兵士の数も大事だが、それより大事なのは兵士の質。同盟最強のアスラ部隊コマンドに出会っちまったおまえらは、運がなかったのさ。


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「隊長、お疲れ様でした。」


オレの率いる精鋭部隊「スケアクロウ」の副長を務める金髪美女、シオン・イグナチェフ少尉から水の入ったペットボトルを受け取り、軽く喉を潤す。敗北一歩手前の窮地に追い込まれていた友軍だったが、最強の援軍を得て奮い立ち、力を合わせて敵軍の撃破に成功した。命じられていた仕事、救援任務は成功したのだ。


「シオン、部隊の損耗状態を報告してくれ。」


「戦死者、重傷者ゼロ。中等傷者1名、軽傷者6名です。我が大隊は戦闘能力を完全に維持していると言えますね。」


もう一口、水を口にしてから命令オーダーを出そうとしたが、横合いからペットボトルを引ったくられる。


「いただきなの!ふぅ~、お水が美味しい♪」


ゴクゴクと喉を鳴らして水を飲み干した天真爛漫少女に、シオンはお説教を始める。


「ナツメ!隊長の水を横取りするなんて、あなたは何を考えてるの!」


ナツメは何も考えてねーよ。ただ、そこに水があって喉が渇いてたから、素直に行動しただけさ。


「喉が渇いてたの。それにカナタと間接ちゅ~もしたかったし!」


……何も考えてない訳じゃなかった。よこしまな考えで行動していたようだ。


「兄貴ぃ、イチャつくのはガーデンに帰ってからにしてくんねえかなぁ。一応戦場だろ、ここは?」


巨漢の弟分で、第3中隊隊長のリックに苦言を呈され、オレは肩を竦めた。ん? 軍服の裾が丈足らずになってる。リックめ、また背が伸びたみたいだな。もう十分長身だってのに、どこまで背を伸ばす気なんだ。平均身長しかないオレへのあてつけか?


「リック殿、今のは隊長殿は被害者。加害者のナツメさんに意見すべきであります。」


部隊最年少の中隊長、頬に残るそばかすの跡がチャームポイントのビーチャムがオレを弁護してくれた。


若き弁護人の言葉に、帰投したら新しい軍用コートの発注書を書くに違いない巨漢は反論する。


「ビーチャム、おまえの言う通りにナツメに意見したとしてだ、意味あると思うか?」


死体の転がる戦場を舞う一匹の蝶々。その姿をポケ~と眺めるナツメの横顔を見やったビーチャムは、首を振った。


「……ないのであります。自分がどうかしておりました。」


諦めんなよ、弁護人。もっとしっかり弁護してくれ。


「みんな、部隊をソードフィッシュに収容しろ。収容が終わり次第、追撃を開始する。」


「友軍の救援には成功しました。追撃の必要はありますか?」


無駄な殺生を嫌う副長シオンらしい提言だが、首肯は出来ない。上から追撃命令が出てるからな。


「文句は司令に言ってくれ。"敵軍指揮官、ヒルシュベルガー中佐の身柄を確保せよ"と、命令を受けてる。ヒルシュベルガーが何らかの機密情報を知っている可能性があるし、知らなくても捕虜交換の駒に使える、という判断なんだろう。」


ヒルシュベルガーは特権階級出身の雑魚だが、副官のヘルゲンは叩き上げの手練れだ。ヤツの相手はオレがすべきだな。


「all right!ヒルシュベルガーをとっ捕まえて報奨金をゲットしましょ。行くわよ、野郎ども!」


ちびっ子参謀の号令で部隊ゴロツキどもは動き出す。でもなぁリリスさん、野郎どもって言うが、結構な数の女の子がウチにはいんぞ?




……この星に来たばかりの頃は生き残るコトだけに必死だった。でも今は違う。友と一緒に立てた誓い、"程々に妥協の出来る世界"ってヤツを創る為にオレは戦う。


この歪んで狂ってる世界に、楔を打ち込んでやるぜ。……己が剣を牙と為してな!


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