第二十一話 聖夜 2
あまり面白くないバラエティ番組を見ながら、ふたりで料理を食べてワイン風味の飲み物を飲んだ。
あまり会話はなかったが、ククルはこれが自分たちらしいのかもしれないと思って、満足だった。
「なあ、ククル」
「うん?」
いきなり顔を覗き込まれて、どきりとする。
「その帽子、どうしたんだ?」
「あ、これ? これ、百円ショップで買ったの。かわいいでしょ」
「へえ」
ユルの素っ気ない返事に少々不満を覚えながらも、ククルは帽子を触る。
「本当は、ユルの分も買おうかと思ったんだけど、きっとかぶってくれないと思ったから止めたんだよ」
「正解だな。オレは絶対かぶらない」
「だよね」
苦笑したあと、ククルは
「プレゼントも用意したかったんだけど、何も思いつかなかったや。ごめんね」
と謝った。
「別に、謝ることないだろ。オレも準備してなかったし」
「うん……」
誕生日から、思っていた。何かをあげたいと思うのに、どうしても思いつかなくて。
「あーそうだ。そろそろ荷造りしないとな。お前はもう、終わったのか?」
「うん。片付けは私がするから、ユルは荷造りしてきなよ」
促すと、ユルは「悪い。頼んだ」と言い残して、立ち去った。
ククルは祥子にお願いされて、テレビのチャンネルを変える。
クリスマススペシャルのアニメが放映されていた。
片付けたあと、テレビを観ていて、そのまま少しうたたねしてしまっていたらしい。
気がついたら、ユルが隣にいた。
「ユル、荷造り終わったの?」
「ああ。ついでに、ちょっと買い物してきた」
「買い物?」
戸惑うククルに、ユルはビニール製の袋を押しつける。
「なあに、これ?」
「……開けてみろよ」
なんだか高級そうな黒い箱が入っていた。
ククルは驚き、箱を取り出して開ける。
細い、銀の腕輪だった。
「えええっ! た、高そうな装飾品! なんで、私に……? 私、ユルに何もあげてないよ?」
「今日、色々と準備してくれたんだろ。それの礼だ。取っとけ。お前、ペンダントは
「あ、ありがとう……」
思わず目頭が熱くなって、ククルはこらえた。
少し離れたところに浮いている祥子は、『ユルくん、いいところあるじゃない……』と呟いて、感極まったように目元を拭っていた。
「じゃあな。オレ、もう寝るから。お前も風呂入れよ」
ユルは立ち上がって、背を向けてしまう。
「うん。あの――本当に、ありがとね」
ククルが声をかけるとユルは手をひらりと振って、去っていった。
早速、腕輪を左腕につけてみる。
「うわあ――きれい」
腕輪には、花や波のような模様が刻まれていた。
「いつ、買いにいったんだろ」
ククルがいぶかしんで顔を上げると、壁時計はもう午後十一時を指していた。
「えっ、もうこんな時間!?」
『ククルちゃん、結構長いこと寝てたのよ。ユルくんが出ていったの、七時ぐらいだったわ。とにかく、よかったわね」
「うん……」
嬉しいけれど、こんなことをされたら、また期待してしまいそうになる。
自覚なんて、しなければよかった。
――君が一歩進まない以上、関係は変わらないよ。
――ククルちゃん、ユルくんのこと好きなんでしょ?
――一度聞いてみなよ。自分のことをどう思ってるのか、って。
河東や祥子や薫に何を言われても、一蹴して気づかないままでいたら。
そうしたら、こんなにも辛い気持ちにならなかっただろうに。
涙が頬を伝って、腕輪に落ちた。
『ククルちゃん、大丈夫?』
「うん、平気」
(私は、馬鹿だ。あの心地よい距離を、自分で壊してしまった)
ぎゅっと腕輪を右手で握って、うずくまる。
嬉しくて幸せなのに苦い、クリスマスイヴになった。
荷造りも終えて、あとは寝るだけという段階で、ユルは机に置いてあった紙を見下ろした。
琉球の民話が集められた本の、コピーだった。
――漁師が語り継いでいたという。神の血を引いていた
この民話はユルが写しを取った本の他にも、何冊かに載っていた。
だが、「この子供」がどうなったかが書かれている本は一冊もない。
(やはり、死んだのか)
ある程度は有名な話のようだし、これが真実だとしたら神の子が生きて更なる伝説となっていてもおかしくない。
だが、この神の子は母を食い破ったことについてだけ言及されている。
すぐに死んだと考えるのが、妥当だろう。
次いで、ユルは自分の手を見下ろした。
ある程度は薄まった血とはいえ。それでも、ユルの母親は祖先でもある空の神と交わったのだ。
「…………」
生まれつき短命だったのなら、もう自分にできることはないし、ククルにも何もできない。
今もなお、生きたいという渇望は湧いてこない。
ただ、むなしいだけだった。
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