αとΩの三角関数

汐 ユウ

プロローグ

 性について勉強をするのは、年齢が二桁になり終えた時期の保健体育の授業だ。それよりも前に性について興味を持つ子供はたくさんいるし、自分の性について興味を持つ子供もいる。

 ただし、自分の性について知るのはもっと後の話だ。生まれてから十数年は男女の大まかな括り分けしか判別できない。思春期、つまり第二次性徴期にさしかかる頃になって男女の性はさらに細かく三つずつ、計六つのカテゴリに分類される。

 まず一つ目が男女共に大多数を占めるベータ。ベータ男性は性器管として精巣のみを持ち、卵巣を持つ人間を妊娠させることができる。ベータ女性は卵巣のみを持つ。

 続いてアルファだが、男女共に絶対数はベータに比べてかなり少ない。アルファは精巣も卵巣も所有しており、相手によって身体の一部分を変形させて性行為を行うことが可能となる。また万能であるのは身体だけではなく、あらゆる面で優れた才能を開花させる。有名なスポーツ選手や芸術家、芸能人、仕事を成功させている人の大多数はアルファと言われている。能力面はもちろん、子孫繁栄という意味でも昔からアルファは優遇される立場にある。

 そして優遇される立場の者がいるということは、逆の立場の者もいるということだ。それがオメガであり、アルファよりもさらに人口が少なくなる。性的機能の話だけで言えば、オメガ女性はベータ女性と変わらない。オメガ男性に至っては卵巣も持つことになるので、アルファと変わらないとも言えるかもしれない。しかしこれはあくまで機能の話であり、アルファのようにオメガが優遇されることはない。

 近年まで、オメガは生殖機能を備えたモノとしての認識が強く、社会的な立場はなかった。それはアルファやベータに比べて能力が低い傾向にあることが原因とされているが、もう一つ大きな原因がある。発情期――ヒートだ。

 オメガは思春期を超えると他人、特にアルファを誘惑するフェロモンを分泌するようになり、特に三ヶ月に一度くらいのペースで分泌量が増大する。フェロモンに当てられた異性は性的欲求を刺激されるのだ。その現象による強姦事件は今もなお多発しており、表向きは社会問題となっている。


『でもオメガでしょ? 子作りするしか能がないんだし、なにより他人にフェロモンあてるのが悪いんでしょ』


 多くの人が差別意識を持ったままのため、オメガとして性を受けてしまった者は性別を隠したがる。

 もちろんオメガにも救いはある。オメガはアルファと結ばれる、いわゆる番になることによってフェロモンの分泌を抑えることができるのだ。番になってもヒートは起こるが、アルファと交わることによって大分過ごしやすくなると言う。

 ただしオメガの数はとても少なく、さらに差別意識によって名乗り出る者もいないためデータ量は少なく全容は明らかにされていない。


『やはりですね、社会情勢を変えるためにはオメガの方にも協力をしていただかないと』

『協力というと具体的にはどういったことをされるのでしょうか』

『そりゃあ様々な状況下で数値を計測してね』


 人体実験と吐き捨てている人が多い中、同じ思いをしてほしくないと善意で研究に協力をしてきた者もいる。研究の方法についての詳細は公表されていないが、そういった善意を元にオメガのヒートを抑制する薬は開発されている。


『もうこんな生活嫌だよ』


 文明が多少進んでも、その声は聞こえない。

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