どうやら異世界転生を失敗してスキルがトマトになったようです

せかけ

第1話 トマトの勇者

 「ヤッホー!!」


 私は、この天界グランドヴァルにて、数々の勇者を召喚してきた熟練の女神、リザイアよ!!

 今日は後輩の女神サケノミコの異世界召喚を手伝いに来たの!!!!

 一般的にはあまり知られてないのだけれど、異世界召喚には実は結構集中力がいるの。召喚する際に、異世界転生者にどんな能力を与えるかをしっかり想像して、異世界召喚の魔法を使って勇者を呼び出すのよ……!!

 

 すると……あれまぁ不思議!

 なんと勇者にそのスキルが付与されるの!!


 つまり、異世界転生者にどんなスキルを

 与えるのかは私たち次第ってわけ!!

 私は今までに、スキル「爆弾魔ボマー」やスキル「氷の女王アイスプリンセス」などなど様々な強力なスキルを勇者達に与えてきたわ!!


 どう!? 凄いでしょ!?


「……って私、誰に話してるのかしら」


 ──そう呟くと、私は冷静になる。

 だって、今日は、後輩サケノミコが初めての異世界転生を行う日。

 女神界を統一する大女神ミカヅチ様から

 かなりキツく女神サケノミコを頼むとお願いされている。

 私がしっかりしなくちゃどうするの。

 

「……さて、そろそろ時間ね……!」


 私は後輩である女神、

 サケノミコの住んでいる部屋に

 呼びにいくことにした。


 ドンドン!

 少々、荒っぽくドアを叩く。


「ちょっとサケノミコー! 早く出てきなさい、今日は異世界転生を行う日でしょ!!」


「……」


 返事がない。ただの屍のようだ。


 ……って女神は死なないんだったわ。


「起きなさーい! サケノミコ!! いるんでしょう!!」


 再びドアを叩くと、ガチャリとドアノブが回りだした。


 女神サケノミコがめんどくさそうにドアを開けてでてくる。

 よかった、いたいた……って


 ……うわっ酒臭っっっっ!!

 部屋を見ると酒瓶が至る所に転がっていた。


「何してんのあんた!」


「うぃ〜なんれすか〜?」


「こんなに飲んで……今日は大事な日でしょうが!」


「うぃ〜だって緊張しちゃって〜

 あと、お腹すきました〜」


「我慢しなさい! ってもうこんな時間!!

 さっさといくわよ! サケノミコ!」


 私はサケノミコを無理やり部屋から連れ出し、勇者を召喚する場所まで案内する。


「ほら、しっかりして! ここで異世界召喚を行うのよ」


「はい〜」


 勇者召喚ができるのは一度きり。

 つまり、召喚した時点でスキルはもう一生変更できないのだ。

 1つの世界を平和にする為には勿論、魔王と渡り合えるだけの強いスキルが必要。なので、私は後輩の女神サケノミコにもう一度注意を促す。


「いいわねサケノミコ!! これは女神の仕事で一番大事だと言ってもいい

 異世界召喚よ!! 貴方が考えてきたスキルをちゃんと反映させるのよ! 失敗は許されないからね!」


 そういって、私は異世界召喚の呪文を唱えると、

 目の前に、紋章が出現し、

 神々しい光が辺りを包みだす。


「さぁ! サケノミコ! 貴方が考えてきたスキルをイメージするのよ!」


「え〜とぉ〜なんだっけな〜

 サンダー……、サンダーボルテックス……?」


 あら、なかなか強そうなスキル名じゃない?

 なんか私がよく異世界召喚を行う日本からきた異世界転生者に

 何度か、厨二臭いなんて言われたこともあるけど、

 あれは、なんなのかしらね。あの時は褒め言葉として受け取っていたけど、

 多分間違ってないわね!!


 「違ったっけ〜、……ウップ。なんか気持ち悪くなってきた〜」


「ちょっとサケノミコ!! しっかりしなさい!!」


「もうそんなことよりお腹空いた〜トマト料理が食べたい〜うへへぇ」


「バカぁぁぁぁぁぁぁ!!! 何考えてるのよ!!

 そんなことしたら!」


 『スキル付与が成功しました。

 これより勇者を召喚します』


 ボワーン。


 白い煙に巻かれながら勇者が出てきた。


「……ゲホゲホ! ここは?」


 やってしまった。私は勇者のスキルを

 急いで確認する。


 神崎雄太かんざきゆうた Lv1

 HP 104

 MP 90

 攻撃力 102

 防御力 102

 素早さ 95

 魔力値 78

 

 耐性 なし

 特性 なし

 備考 勇敢な性格


 うんうん。ステータスには特に異常はないわ。

 まぁ、レベル1の冒険者であれば、このくらいが普通。


 問題は……スキルね……。


 私はスキルを確認した。


 えーと。スキルは……



『スキル名 トメイトゥ。 

 スキル効果 トマトを出す』




 ……やっちまったああああああああああああ!!

 なんじゃこりゃぁぁあああああああああああ!!

 てかトメィトゥってなによ! 何いっちょまえにカッコつけてんのよ!!!!

 ただのトマトでしょうが!!!!!


 私はサケノミコの肩を揺らしながら叫ぶ。


「あんたねええええええええええええ」


「やめてくらはい〜酒がでちゃいますうう

 うっ本当にやばい」


 ダダダダダッ!!


 サケノミコは私を突き飛ばし、

 走り去っていった。



「あのバカ後輩!!」


「あ、あのー、貴方は誰ですか?」


 あ、忘れていた。

 勇者トメィトゥを。

 違った、それはスキル名だ。

 名前は聞いてなかったんだ。


「えっと……勇者様、お名前は?」


「えっ勇者……? 俺は神崎裕太かんざきゆうたですけど……」


 名前に神が入っているわ……。

 強いスキルがついていれば、この先、カッコ良い勇者へと

 成長していたのかもしれない。

 しかし、貴方に今ついているのはトメィトゥよ。

 ただのトマト野郎。


「えっと……勇者ユウタ様。貴方はこの世界の平和を守るために勇者として召喚されました」


 すると、勇者ユウタは嬉しかったのか

 一気に表情が明るくなった。


「ほ、ほんとですか!! やった……!! 

 俺……! こういう世界憧れてたんです! やったついに俺も勇者だ!!」


 なんて純粋な心……。

 うう、心が痛い。


「そ、そ、そ、それは良かったです」


「勇者ってことは何かスキルついてるんですよね?」


 やばい。

 スキルのことを聞かれた。


「一応……ついています」


 嘘は言ってない。


「何がついているんですか?」


 えーい。もうやけくそだー。

 こうなったら正直に言うしかない。

 でも、せめてカッコよく。


「トメィトゥです」


「え……、も、もう一度言ってもらえますか?」


「トメィトゥです」


「トメィトゥ……?」


「はい、トメィトゥです」


「その……トメィトゥのスキル効果は?」


「トマトが出ます」


「……まじで? 他は? ステータス上昇とか……」


「いえ、トマトが出るだけです」


「……」


「……」


「本当にそれだけ?」


「はい、ただのトマト野郎です」


「ふざけんなくそ女神イイイイイイイイイイイイイイイいい!!!」


「ひぃぎいいいい!! わたふぃ悪くないもーん!! いたふぃ!! いたふぃ!! ほっぺたつねらないでえええええええええええええ!!!」

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