カツベン!

カツベン! 前編 其れは万能声優

 活動弁士の存在を初めて知ったのは、朝ドラ連続テレビ小説の『ロマンス』(1984年放送)ですね。

 岡田真澄の演じる活動弁士が、客にヤジを入れられてブチ切れるシーンとか、活動弁士達がトーキー映画に反対して立て籠る話とか、覚えています。主役が榎本孝明だって、ウィキペディアで調べるまで忘れていたけど。

 それ以来、弁士が重要な役割で出て来る作品は全く見かけず、トリビア系番組でちょろっと紹介されるだけ。

 まさか35年も経って、活動弁士が主役の映画が見られるとは。

 しかも周防正行監督!

 『シコふんじゃった。』『Shall we ダンス?』の周防正行監督!

 もう観る方は「面白いかどうか?」とか「映画館で1900円も払う価値あるかなあ?」とか考える必要のないレベルの監督さんです。

 少し遅れましたが、観に行きました。

 まずは冒頭部分の紹介を。


 で、いきなり『日本映画の父』牧野省三監督の映画撮影シーンから。

 演じるのは山本耕史。

 冒頭から贅沢です。

 しかも、出番が冒頭だけなのに。

 これぞ贅沢。

 仮面ライダーゼロワンでも同じような扱いだったし、山本耕史は暫くこういう起用が癖になるかもしれない(笑)。

 映画に音声の入っていない時代サイレントの映画なので、役者達が「いーろーはーにーほーへーとー」と発声しながら演技している異様な撮影形式に、野次馬の子供達(後の主人公)や犬が紛れても続けられる混沌とした原初日本映画の撮影風景。

 そんな撮影を経た映画を、劇場で楽隊が直接演奏し、活動弁士が浄瑠璃やテレビの実況放送ばりに解説と演技で盛り上げる。

 冒頭の撮影中に起きたハプニングは、活動弁士の語りによって自然な筋書きに上書き修正。

 観客がノリノリで喝采を送るのは、「活動弁士」に対して。

 想像つかないでしょ?

 映画そのものより、活動弁士万能声優に熱烈なファンが付く時代。

 劇場の看板も、映画の題名と活動弁士の名前が併記。

 監督でも俳優でもアカデミー賞受賞でもなく、活動弁士のネームバリューで客を呼ぶ時代。

 そんな時代の映画館情景を、周防正行監督が根掘り葉掘り再現して見せてくれる訳。


 この先は中編で。

 ネタバレ防止の為、観賞してから読み進めるように。筆者と良い子のみんなとの約束だ。

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