3 烙印《スティグマ》
リーズの首の
今にも首をかき
彼の名はジャック。アリスより二つ年上の十八歳で、柔らかそうな猫っ毛の黒髪をもっている少年だ。
身につけているのは、かっちり仕立てられた
ただの不良と
ジャックを攻略する、通称・
乙女は不良に弱いのだ。
正しくは、外見や態度が怖ろしく、周囲から遠ざけられている男性が、主人公にだけは優しい顔を見せるという展開に弱い。
誰にも理解されない彼と、自分だけが通じ合っている。
それを彼も感じていて、心を開いてくれる特別感といったら――!
ジャックの場合は
彼のルートは、
前世の私の
それに私は、『アリス』としても、ジャックを心から信頼していた。
この家には他に使用人がいないので、彼がほとんどの家事を受け持っているのだ。
なぜいないかと言えば、ドズリーの言葉通り。
つい最近まで――。
「ジャックがそうしたいなら
「チーズ風味のプリンのことだから、ミルクとチーズ、お砂糖でできていると思うわ」
「アタシからじゃ作れないみたいね。残念だったわねぇ、ジャック」
リーズに笑われて、ジャックは
「そんなこと知ってる。ただでさえ
ジャックはめんどうくさそうに話を切り上げると、皿をテーブルに置いた。
「で、お嬢。その手紙の山はなんだ?」
「たいしたものじゃないわ。ちょっとした、ご招待なの」
「招待?」
眉をひそめるジャックに向けて、フォークを置いた双子が声をそろえた。
「「そう! リデル男爵家のアリスお嬢さまと、お近づきになりたいって男の人から!」」
「ダム、ディー。そんな言い方はだめ!」
ジャックはこめかみに血管を浮き上がらせて、ぎっと歯を
「どこの馬の骨が、お嬢とイチャイチャしたいって?」
「言ってない。イチャイチャだなんて、一言も言ってないわ――っ!」
ジャックの怒りに
あっという間に燃えつきた布のした、両手の
――これは『
生きとし生ける者は必ず死ぬ。
しかし、その死にざまがあまりに悲劇的だと、通りがかった悪魔が気に入って、よみがえらせてくれることがある。
悪魔から与えられた命では、天国へ
そのため、烙印持ちは『
とはいえ、普通の英国民にとっては、妖精より不確かな
烙印の能力を目にする機会がなければ当然だ。
ジャックの烙印は『
彼の手から落ちた火の粉が、テーブルの便箋に燃えうつった。
双子の楽しげな悲鳴が
このままでは、屋敷にまでこんがり焼き目が付いてしまいそうだ。
「ジャック、そろそろ落ち着いて」
私は両手を組んで願ったが、彼の耳には聞こえていないようだ。
それを見て、リーズは困りげに頬に手を当てた。
「困ったわね。でも、もうすぐ燃えつきるわよ」
つぎの瞬間、炎は、バースデイケーキの
ジャックの憎い相手――『アリス』への招待状――が、全て灰になったからだ。
「これでは参加できないわね……」
私は、灰の山をふうと吹いた。
細かな粒子が舞い上がり、
「あら、お嬢? この招待状だけ焼けずに残っているようよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます