第13話 ミサイル攻撃2
カフェのモニターに映るテレビには緊急ニュース番組が流れていた。某国から百発ものミサイルが飛んでくるとなれば当然と言えば、当然かもしれない。
ニュースによると、どうやら単純に戦闘機や
何重にも防衛体制が取られているとニュースで紹介していた。
豊は小型パソコンで
豊は日本の防衛体制に納得すると、次にSNSを開いてみた。SNSは豊が想像した通り、お祭り状態になっていた。
ミサイル攻撃や某国、自衛隊などが急上昇ワードになっていて、すごい勢いで書き込まれていた。日本中の人間がニュースなどを見て、SNSに書き込んでいるのだろう。他の国からミサイル攻撃をリアルタイムで受けるなんてことはなかなかあり得ることではない。それが、SNSの勢いに現れているようだった。
豊もSNSに書き込みをしようかと考えたが辞めにした。最後は、
やはり、ゆっくりと冷めてしまったコーヒーを飲みながら、真っ暗な闇を映しているモニターを眺めている他にできることはなさそうだ。
唯一、自衛隊に貢献できそうなことは、
時折、テレビが映し出されているモニターにフラッシュが走る。自衛隊がミサイルを撃ち落とした光だろう。
豊が考えているうちにも、リストはどんどん短くなっていく。次々とミサイルが発射されている証拠だ。そして、日本にミサイルが落下したという情報は、まだニュースでは流れていない。
自衛隊が頑張ってくれているということだろう。
しばらくすると、ミサイルの発射リストは
豊がそれを沙羅に伝えると、さすがに核ミサイルが飛んでくるというのは恐怖なのだろう。豊の手を強く握ってきた。その手を豊も握り返す。
沙羅の手の温かさに、不謹慎だが核ミサイルが落ちてきても、一人で死ぬのではないという安心感が生まれた。もちろん、助かるに越したことはないが、このまま死んでも悔いはない。
リストが一つ少なくなる。核ミサイルが発射されたのだ。沙羅の手を握る豊の手に自然と力が入る。
少しすると、モニターの隅で一際大きなフラッシュが走った。自衛隊が一発目の核ミサイルを撃ち落としたのだろう。
リストにある核ミサイルは、あと四発。一発でも自衛隊の防衛網を抜けてしまったら……。真綿でじわじわと首を絞められるのはこんな感じなのだろうか?
またリストが一つ少なくなった。二発目の核ミサイルが発射されたのだ。
沙羅も豊の横でそれを見ている。状況は把握しているはずだ。
豊は沙羅の顔を盗み見る。若干、顔色が悪い気がする。自分たちに死が迫っているのだから当然だ。もしかしたら、自分では分からないが豊の顔も真っ青かもしれない。
二人はモニターに映し出されたニュース番組の暗闇を見つめる。一秒が、ひどく長く感じられた。
早く、早く核ミサイルを撃ち落としたところを見せてくれ!豊は心の中で叫んでいた。
リストが減ってから、二分弱。ニュース番組の画面でまた大きなフラッシュが走った。自衛隊が二発目の核ミサイルを撃ち落としたのだ。
二人には、永遠にも感じられる二分間だった。
豊は大きく息を吐き出す。ホッとした。自衛隊の防衛網をそう簡単に潜り抜けることはできないのだろう。
「……後、三発だ」
豊は独り言のように呟く。それに応えるように、握っている沙羅の手の力が強くなる。
もし、間違って一発でも自衛隊の防衛網をすり抜けてしまったらと考えると、まだまだ安心はできない。
二人が見ているミサイル発射リストから、また一件少なくなる。三発目の核ミサイルが発射されたということだろう。
それにしても今、某国はどうなっているのだろう。ミサイルや核ミサイルの発射システムが乗っ取られ、勝手によその国を攻撃しているというのに、何も対処できないのだろうか。それこそ国家の一大事だと思うが。
この場所から、アトカースにミサイル発射命令のキャンセル発信することができればいいのだが……。今の豊には某国がパニックに陥っている姿を想像することしかできない。死してなお、天才である
豊は無意識のうちに強く、強く唇を噛み締めていた。
突然、沙羅のもう片方の手が豊の手の上に添えられる。それは、まるで、無力な自分を責めている豊の心を見透かして、励ましているようであった。
カフェのモニターが映し出しているニュース番組の暗闇に、またもや一際大きなフラッシュが走った。三発目の核ミサイルを自衛隊が撃ち落としたのだろう。
クソッ!本当にここから指を咥えて見ていることしか、自分にはできないのか。
豊は空いている手で小型パソコン内のアトカースに「ミサイル発射中止」の命令を出す。しかし、すぐにアトカースから「一度、実行された命令はキャンセルできません」というメッセージが現れる。
豊はすぐにもう一度、アトカースに「ミサイル発射中止」の命令を出す。だが、結果は同じだった。
もう一度、豊は同じ操作を繰り返す。結果は変わらない。もう一度……。もう一度……。何度やっても結果は変わらなかった。
その間に、ミサイル発射リストが、また一件少なくなった。四発目の核ミサイルが発射された。
その後も、豊はアトカースに向けて「ミサイル発射中止」の命令を繰り返す。何度やっても結果は変わらない。ひょっとしたら、何かのタイミングでミサイル発射中止が効いてくれるかもしれない。無駄だと頭では分かっていても、豊にできることは他になかった。
もう一度……と豊が命令を入力しようとした時だった。
沙羅の手が、豊の手を抑えた。
「もう、いいよ。豊はできることはやったよ。後は、自衛隊に任せて、核ミサイルを撃ち落としてくれるように祈ろう。大丈夫、死ぬ時は一緒だから」
「……沙羅」
豊は沙羅の言葉に不覚にも涙が出そうになった。それを必死で抑える。
ゆっくりと、豊は小型パソコンから手を離した。そして、某国に思いを馳せる。
真っ暗な闇の中に飛んでいく核ミサイル。それはどんな光景なんだろう。兵士達はどんな思いでそれを見守っているんだろう。……それが花火ならどんなにいいだろう。だが、発射されているのは人を殺すために作られた兵器なのだ。
豊がその場にいたら、どうするだろう。やはり、ただ何もできず見守るだけなのか。それとも何とか核ミサイルを止めようと、ミサイルにしがみつくだろうか。ミサイル発射システムを直接、銃か何かで破壊するとかはしているかもしれない。それで、一度命令を受信してしまったシステムが停止するかは分からないが。日本に知り合いがいないなら、そこまではしないかもしれない。
豊が某国に思いを馳せている間に、モニターのニュース番組にまたもや大きなフラッシュが走る。これで自衛隊は四発の核ミサイルを撃ち落としたことになる。次が最後の核ミサイルだ。
カフェのモニターから、小型パソコンに視線を移した途端に、ミサイル発射リストは画面上から消え去った。最後の核ミサイルが発射されたのだ。
後は祈るだけだ。祈るだけ。どうか、核ミサイルが自衛隊の防衛網をすり抜けませんように。
隣には沙羅がいる。まだ、二人は手を握っていた。沙羅の温もりが伝わってくる。死ぬこと自体は怖くない。大久保たちの思い通りになるのが怖かった。それにより、自分や沙羅の家族が犠牲になることも。
二人はジッとモニターを見つめる。早く、早く最後の核ミサイルよ、撃ち落とされてくれ。
永遠とも思える時間が流れる。空気が重たい。心なしか、息苦しい気がする。一秒はこんなにも長かっただろうか。いや、さっきまでの核ミサイルと比べて、撃ち落とされるまでに時間がかかっているのではないか?さっきまでは、すぐに大きなフラッシュが走ったはずだ。もしかして、自衛隊の防衛網をすり抜けてしまったのではないか?
豊の頭の中を疑問が渦巻く。まるで、目眩がするようだ。こんなことなら、毎回の核ミサイルが撃ち落とされた時間を計っておくんだった。後悔しても、もう待つしかないのだが。
さっきまでの四発の核ミサイルは、某国に近い日本海上空で撃ち落としていたはずだ。しかし、最後の核ミサイルは、戦闘機の防衛ラインを突破してしまったのではないか?時間が掛かり過ぎている気がする。
まだか?まだ、核ミサイルは撃ち落とされないのか?とっくに五分は経過しているはずだ。それなのに、ニュース番組では暗闇を映し続けている。
突然、暗闇の画面に大きなフラッシュが走る。それは、今までの四発とは違い、より大きなフラッシュだった。相当、日本に近づいたのかもしれない。
「最後の一発……撃ち落とした!」
「やったー!やったんだよね?」
「あぁ、やったんだよ!」
豊は自然と沙羅と抱き合って喜んでいた。二人ともお互いの背中をバンバンと叩いて、喜びを隠せなかった。
「あの……」
二人同時に何かを言おうとして、抱き合ってることに気付いた。
二人はそっと離れると、豊が口を開いた。
「……何?」
「えっ?あぁ、総理にもうミサイル攻撃はないって連絡しなくていいのかなって」
「うん、そうだね」
豊はポケットからスマホを取り出すと、下山田総理へ再び電話を掛けた。
「はい、下山田だ」
「もしもし、何度もすみません。
「まだ何か情報があるのかね?」
「いいニュースです。もう、ミサイル攻撃は終了しました。日本に被害は出ていないですよね?」
電話の向こうで、下山田の声が明るくなる。
「終了か。それはいいニュースだ。ありがとう。被害も出ていないはずだ。被害が出たら、すぐに私のところに連絡があるはずだからね」
「それでは。もう、直接お電話しませんので」
と、豊は電話を切ろうとする。
「あぁ、助かったよ。……そうだ、今回の功労者として君の名前を公表してもいいかね?」
「いえ。僕なんかより、自衛隊の方々の方が真の功労者ですから。それでは失礼します」
豊は電話を切ると、スマホをポケットにしまった。
「さて、帰ろ……その前に」
豊は小型パソコンに手を伸ばすと、アトカースのアンインストールを開始した。しばらく待っていると、小型パソコンの中からアトカースは完全に消滅した。
これで、この世界に残っていた全てのアトカースは消え去ったことになる。
こうして、孤独な天才、
「さぁ、帰ろう。駅まで送っていくよ」
二人はカフェ・ハッピークローバーを出ると駅へと向かった。
いつの間にか、空は明るくなり始めていた。カフェの前にいたパトカーや救急車も姿を消していた。
二人は手を繋いだまま、駅までの道をことさらゆっくりと歩いて行った。
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