第7話 なかったことにされた事実

 翌日。おかしなことが起こっていた。豊が目を覚まし、テレビを点ける。

 しかし、どのチャンネルでも改造された黒いhopperホッパーが暴走したというニュースは流れていなかった。

 豊はロージナが入っているパソコンを起動すると、ロージナにインターネット上に同じく黒いhopperホッパーが暴走したニュース記事を探させるが、見つからなかった。

 豊は狐につままれたようだった。昨日の出来事は夢だったのか?久枝は警察には黒いhopperホッパーが暴走したと説明すると話していたはずだ。そして、アトカースゲームでは、三人も亡くなった。ニュースでやらないはずがない。

「豊さん、黒いhopperホッパーが暴走したというニュース記事は見つかりませんでしたが、こんな記事を見つけました。SNSでの記事ですが……」

 ロージナが豊に声を掛けてきた。

 豊がパソコンの画面を見ると、そこには確かにSNSの画面が表示されていた。記事の内容は「黒いhopperホッパーくんがいっぱいいる」というコメントと共に、画像もアップされていた。確かに昨日、豊が見たたくさんの黒いhopperホッパーが武装している姿だった。

「ちなみに同じような記事が複数SNSに上げられています」

 と、再びロージナ。

 黒いhopperホッパーの目撃情報がインターネット上にあるということは、昨日の出来事は夢ではないということだ。なら、黒いhopperホッパー暴走のニュースが存在しないのは何故だ?

 警察が事件をもみ消した?それとも、久枝が事件をもみ消した?

 AIエーアイが増えてきているこの時代に、AIエーアイを搭載した改造hopperホッパーが暴走した。そんなニュースを見たら、AIエーアイの危険性を訴える人間が出てきてもおかしくはない。しかし、だからといって警察が事件をもみ消すようなことをするだろうか?あんな事件がなくても、AIエーアイに全てを任せるのは危険だという人は出てきそうな気がする。

 だが、久枝が事件をもみ消す方がよりメリットが分からない。三人の遺体をどうにかして処理して、アトカースと黒いhopperホッパーの犯行を隠す。それで、久枝になんの得があるのだろうか。

 ロージナがまた豊に話しかける。

「豊さん、沙羅さんからメールが来ましたが、読み上げますか?」

「あぁ、お願い」

「豊、おはよう。もう起きているかしら?何か変なの。どこのニュースでも昨日のことをやっていないの。三人も亡くなったのに……」

 どうやら沙羅も豊と同じ疑問を抱いたらしい。

 豊は沙羅にメールを返す。

「沙羅、おはよう。僕もニュースを見てて気付いた。SNSで黒いhopperホッパーの目撃情報はたくさんあったけど、それが暴走したとかって話はどこにも出てないね。なんでなんだろう?」

 沙羅にメールは返したものの、二人で話していても結論は出そうになかった。

 豊は久枝にメールしてみることにした。中原泰裕なかはら やすひろの家のロージナ本体が起動していれば、豊のパソコンにいるロージナは情報を共有できる。つまり、久枝のメールアドレスも入手が可能だ。

 豊はロージナに話し掛ける。

「ロージナ、久枝のメールアドレ……いや、一応昨日アトカースゲームに参加した全員のメールアドレスが欲しいんだけど」

 すぐにメールソフトの連絡先に久枝や大久保など昨日アトカースゲームに参加した全員のメールアドレスが登録された。

 豊は早速、久枝にメールを打った。

「久枝さん、お疲れ様です。遠峰です。昨日の遺体のことがニュースになっていないんですが、極秘で対応してもらったのでしょうか?ニュースで、大騒ぎになると思っていたので拍子抜けしています。警察の守秘義務もあると思いますが、言える範囲でどうしたのか教えてもらえたらありがたいです」

 豊はそうメールを作ると、久枝に送信した。沙羅にもCcを付けて。後は、返事を待つしかない。

 一時間待っても、二時間待っても久枝からメールが返ってくることはなかった。

 豊は大きなため息を吐いた。昨日、動いたせいもあって、今日はメール以外は何もする気が起きなかった。

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