第25話:迫る軍靴の響きと再会の刻④

 案の定気前よくプルーマ夫人は燕尾服を貸してくれたのだが、その際のにやけ顔がどうにも気味が悪かったが気にしても仕方ない。後日根掘り葉掘り聞かれそうだがその時はその時だ。


 シンヤは約束の三十分前に指定したレストラン【エートゥジアズモ】に入った。ザイグに事情を説明したところ―――誰と行くかまでは話していないが―――席を使わせてくれるだけでなく店主に連絡してくれて予約を入れてくれた。彼には頭が上がらない。


「シンヤ様。お久しぶりですね。今日は突然のご予約でしたがお連れ様はどこのどなたですかな?」


「マスター、無理なお願いを聞いてくれたのは感謝しています。まぁ今答えなくても直に本人が来るのだからいいではないですか。何、ごく普通の綺麗な女性ですよ」


「そう言うセリフを眉一つ動かさずに言える貴方はこれから多くの女性を泣かすのでしょうね」


「あなたは本当に口がお上手だ。まぁ俺としてはたった一人の女性に振り向いてもらえればそれでいいんですけどね」


「一途な方ですね。実に素晴らしい。では私いったん失礼致します。お連れの方が見えましたらまた参ります」


 一礼して厨房へと消えていくマスター。シンヤは手持ち無沙汰になったが、ただ一人無言でパンテラが来るのを待った。


 約束の十分前。シンヤが店に着いてから二十分が経った頃に待ち人が現れた。


「あの……予約してあると思うのですが名前は―――えぇっと……」


「シンヤ・カンザシ様のお連れ様ですね?お待ちしておりました、どうぞこちらへ。シンヤ様はすでにお越しになられております」


 給仕係に案内されて待ち人、パンテラ・シュロスバーグが席へとやってきた。紫色のドレスに身を包んだ彼女はとても美しかった。普段から鍛錬しているのでその身体に無駄な肉など一切なく、しかし女性特有の柔らかさは健在だ。ここまで来るまでの間、さぞ待ち行く人々の視線を独占したことだろう。


「お待ちしておりました、レディ。どうぞこちらへ」


「あ、ありがとうございます。貴方があの仮面の戦士、『二代目双刃』さんなのですか?」


「そうです。これまで素顔を明かさなかった無礼、お許しください。それと私の名前はシンヤ・カンザシと申します。どうぞシンヤとお呼びください」


「シンヤ・カンザシ。カンザシとは初めて聞いた性です。どこの出身なのですか?」


「それは食事をしながらお話ししましょう。さぁ、おかけください」


 マスターを呼び、酒を頼んで互いの過去の話に花を咲かせるディナーが始まった。





「それでね!サラちゃんってばすごかったんですよ!上級生だったエドガーさんからそれはもう聞いているこっちが恥ずかしいくらいの愛の告白を真顔で『っあ、結構です。貴方には一切興味ありませんから』って両断したのよ!びっくりしたしそれ以上に笑っちゃったわ」


「そ、そうか。そんなにも……そのエドガー何某の告白はひどいものだったのか?」


「歯も浮くような台詞だったわ。貴方にも聞かせてあげたいくらいだけど……聞く前に貴方の場合は斬りかかりそうね」


 メインディッシュの肉をぺろりと平らげてデザートを食べ終えるころにはパンテラは完ぺきに出来上がっていた。


「それよりなにより、驚きなのが貴方がサラちゃんと同郷だったということよ!ハァーーーこんなカッコいい人に思われているなんて……羨ましい」


「ん?最後なんか言ったか?」


「いいえ!何も言ってませよ!?そ、そんなことよりもグラスが空ですよ!今日はとことん付き合ってもらいますからね!」


 グラスにワインを注がれてもう何度目かわからなくなった乾杯をした。結局、なぜだがわからないが閉店直前までパンテラに付き合わされた。話のほとんどが途中から『私もいい人を見つけたい!」という嘆きとこれまで声をかけてきた男たちの碌でもなさの愚痴だった。


 シンヤはそれに愛想笑いと適度な相槌で乗り切った。その代わり十年間会えなかったサラティナの話をたくさん聞けたのだから実に有意義な時間を過ごすことができた。

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