第二章 一四歳になった少年 2
麓に至る道にいたのは美しい女性だった。
「
と言うシュルツの言葉に思わず苦笑してしまうが、その意見は正しかった。
僕たちの存在に気が付いた彼女は、修道女のように
「そこにおられる方はもしやこの山に住まいし方ですか」
「そうです」
と答えると彼女は
「神とその
「そのことは気にしないで。どこからどう見ても男たちのほうが悪党に見えるよ」
「このものたちはおそらく
「勇者?」
「この山に住まいし神々に育てられた少年のことです」
「というと僕なのかな?」
「失礼ですが、あなたは
「そうだけど」
「ならばきっとあなたがそうでしょう」
黒髪であることも確認できないのはどうしてだろう、と疑問に思ったが、すぐに理由が判明した。
法衣を着た
彼女の目の周りにはマスクがはめられていた。
僕が気が付いたことに気が付いたのだろう。彼女は説明する。
「私は地母神に身を
「地母神」
聞いたことがある。この大地に
ただ、それは
彼女は「盲目の仮面」を取ると、以後、素顔を
「たしかに古い因習です。ですがその伝統は今も受け
「その盲目の巫女がなぜ、このテーブル・マウンテンに?」
「それは……」
と言いよどんだのはなにか裏があるからか、それとも敵の
僕とシュルツは敵兵の間に立ち
「灰色
「手向かうならば
「子供を斬るのか? 始末するのは巫女だけと聞いていたが」
鎧を着た男たちは相談を始めるが、結局、多数決で僕を斬ることにしたようだ。
まったく、人の命をなんとも思っていない連中だ。ため息を漏らしながら言葉を探す。
「シュルツ、こういう輩をなんて言うんだっけ?」
「悪党、だな」
狼のシュルツは一言で斬り
「そうだった。悪党だ。こういうやつに
「ああ、
シュルツはさっそく、彼らの喉笛を
僕はローニンに習った古武術を使う。相手の
相手の喉笛、みぞおち、目、こめかみ、どんな達人も
それを聞いていたルナマリアは
「勇者様の武術は神がかっています」
「神様に教えてもらったやつだからね」
「やはりあなたが伝説の子供、勇者様なのですね」
「それは
「……印がないのですか」
ルナマリアは軽く表情を
「善と悪に調和をもたらすもの。この世界の救世主。彼は神々に育てられた真の存在」
「それは?」
「我が教団に伝わる古い言葉です」
「神々に育てられたというところしか共通点がないね」
「ですね。しかし、それで十分です」
ルナマリアはそう言うと、右手を光らせた。それをそうっと悪党の胸に添える。悪党は一〇メートル
「君もすごい力だね」
「この力は神の
「すごい恩寵だ」
と言うが、僕はすでに五人の悪党を戦闘不能にしていた。このままならば簡単に
奥から悪党どもの
「……
光を放つショートソードを見る。皆、熟練の
「あいつらは邪教徒が
「みたいだね。
「お気持ちは
「君が惜しくなくても僕が惜しいんだよ。今からこの辺りが真っ赤に染まる。僕の後ろにいれば《
「真っ赤?
「不正解だよ。炎を使うのは僕じゃない。天から飛んでくるトカゲだ」
「トカゲ?」
ルナマリアが首をかしげると、空が真っ暗になる。
先ほどまで明るかった周囲が
真っ赤な
ルナマリアもその風、それに
「あれはドラゴンですね!」
「そうだよ。テーブル・マウンテンにはいないけど、その周囲には
見れば傭兵の衣服はそんなにくたびれていない。街から最短
彼らはその近道の
レッドドラゴンはホバリングを
そのまま大空を
このまま見ていれば傭兵たちはもちろん、邪教徒も
理由はふたつ、ひとつはもしもドラゴンがやつらを倒しても次は僕らにその
ルナマリアという巫女とは出会ったばかりであるが、彼女には不思議と親近感を感じていた。守りたいという保護欲も。僕にとって彼女はすでに山の仲間たちと変わらない。
もうひとつの理由は、悪党とはいえ、見殺しにするのは気が引けたのだ。
こいつらはルナマリアを殺そうとしているらしいが、それでも彼女を殺したわけではない。もしかしたら
それにこいつらにだって、父親や母親はいるだろう。現世にいるかは分からないが、死ねば双方が悲しむと思われた。
レウス父さん、ローニン父さん、ミリア母さん、ヴァンダル父さん、それぞれの笑顔が
なので僕は
ミスリル製の短剣だから、ドラゴンの鱗とて通すであろうが、どんなに深く差し込んでも内臓に届くようには見えない。それくらいレッドドラゴンは大きい。皮下
「
必殺技とは、
ローニンの
つまり、ミスリルという魔法を通しやすい金属に魔法を付与すれば、その
僕は
この少年を生かしておくと危ない!!
そう思った竜は食べかけの邪教徒を放り投げると、翼をはためかせ、こちらに向かってくる。
「……手間が省ける」
こちらとしては標的がこちらに移ってくれたほうが有り難い。
邪教徒から
そう思った僕は
「無念の氷結よ、
そう詠唱を終えると、ミスリルの短剣が氷に包まれる。冷気の
あとはそれを
僕は何度も練習してきた剣閃をドラゴンに放つ。
練習で何百回もしたことであったが、実戦でもまっすぐに飛ぶ。
ローニンがその筋を
それを後方から確認していたルナマリアは
少年の魔力の冷気は肌を
冷気の剣で切り裂かれたレッドドラゴン。やつは炎の息で
氷像のように氷漬けにされながら肉を真っ二つに裂かれるドラゴン。氷の中には赤い
まるで美術品のようであるが、なによりも
このような少年がいるとは聞いていない。
口々に悲鳴を漏らしながら
彼らが完全に
それに名前も聞きたかった。
そのことを少年に伝えると、少年は
「──僕の名前はウィル。ただのウィル。平民だけど、父さんと母さんは神様なんだ」
照れ笑いを浮かべる少年ウィル。
とてもドラゴンを倒した
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