第一章 神々の子 3

 剣術の才能があると分かった僕だが、ヒーラーとしての才能も豊かだった。

 五歳の春、僕は山をめぐる。

 おおかみくまの友達と共に、外敵である魔物と戦う。

 先頭に立ち、仲間を守るためにせんとうり広げる。


 僕はこのテーブル・マウンテンにしんにゆうした魔物、グリーン・オーガとたいする。

 グリーン・オーガは全身緑色の魔物で、山に侵入しては、森の動物を食いらす化け物だった。

 いや、食べるだけではらず、か弱き動物をぎやくさつする。必要以上に動物を殺し、ぎやくしんを満たすのだ。

 そのような化け物を許すわけにはいかない。

 僕はローニンからもらったミスリル製のダガーを構えると、グリーン・オーガをちくする。

 まずはすばしっこい狼のシュルツがオーガをけんせいすきを作ると、僕がふところに飛び込み、横なぎのいちげきを加える。

 一撃で相手のびた剣を吹き飛ばすが、それだけでは終らない。オーガには化け物じみたりよりよくがあるのだ。

 丸太のようなうでり回すが、それは熊のハチによって受け止められる。

 熊のハチは山一番の力持ちなのだ。

 僕はハチが相手をおさえてくれている間に、後ろに回り込む。

 そしてミスリル製の短剣を相手の首にき立てる。

 えんりよはしない。このオーガからは血のにおいがぷんぷんしたからだ。多くの生物を殺してきたしようだった。

 うめき声を上げながらたおれるオーガ。

 こうして僕は戦闘に勝利するが、見れば最初に牽制をし、オーガの視線をくぎけにしてくれたシュルツの背中から血が流れていた。

 オーガの一撃をもらってしまったようだ。

 僕は傷付いた狼の背中に手を当てほうける。

 狼のシュルツの身体が緑色にかがやき、傷がふさがっていく。

「すごい!」

 と動物たちは賞賛をする。

「これはミリア母さんから習ったんだ。ミリア母さんは僕を治癒師にしたいみたい」

 動物たちはそれがいい、治癒師になって、自分たちを守ってほしいと口々に言う。

「うん、それはいいね。でも、ローニン父さんは僕をけんにしたいみたいなんだ」

「治癒師けん剣士になればいいじゃないか」

「そうだね。そういうのを聖騎士パラデインと言うらしい」

「ならば将来は聖騎士パラデインだな」

 狼のシュルツは微笑むが、僕は苦笑いをする。

「ヴァンダル父さんは僕を魔術師にしたいみたいだけどね。毎日、分厚い教科書や歴史書を読まされる」

「勉強はきらいなのか?」

「まさか、剣を振るうのと同じくらい好きだよ」

「ならばなやましいな。剣と魔法と治癒、みっつを極めるしかないか」

「そうだね」

「ちなみにそのみっつを極めたものをなんと呼ぶのだ?」

 僕は困った顔をすると、分からない、というポーズをする。

「剣と魔法だけならばほうけんというしようがあるけど、剣と魔法と治癒、みっつを極めたものの呼称はないんだ」

「ふむ、ならば新たに作るしかないな」

「自分で作るのか、その発想はなかった」

「そうだ、『勇者』という呼称はどうだ? 格好いいではないか」

「勇者か。……うん、格好いいな。でも、勇者ってのは生まれつき決まってるってヴァンダル父さんが言っていた。生まれついたときに身体のどこかにあざがあるんだって」

 自分の身体を見回すが、どこにも痣はない。

 しかし、シュルツは気にすることなく言う。

「勇者とは職業ではなく、そんしようだ。俺の父が言っていた。自分よりもか弱きものの前に立ち、身をていして弱者を守るその心意気が勇者なのだと。つまり、ウィル、お前はもう勇者だ。我らテーブル・マウンテンの勇者だ」

「そうか……、そうなのか。うん、じゃあ、僕はテーブル・マウンテンの勇者だ」

 改めて勇者という言葉をみしめる。

 そして肺の中にいつぱい刻み込むと、

「僕はテーブル・マウンテンの勇者だー!」

 とさけんだ。

 その言葉は山のすみずみまでひびき渡った。


 治癒の女神ミリアはその姿を目に焼き付けると、ほろりとなみだをこぼす。

 立派に成長したウィルにかんがいいだいたのだ。

 先日まで赤子だったウィルがよくもここまで立派に成長したものである。

 しかも立派なの使い手になっていた。

 ウィルは上級魔法である《そく回復》の魔法まで習得している。

 無論、それを教えたのはミリアであるが、このとしで使いこなせるようになるとは思っていなかった。

 ウィルの治癒師としての才能は、かつてミリアが治癒魔法を伝授した伝説の聖女と同等かもしれない。

 いや、彼女ですら、この歳で《即回復》は使えなかったであろう。

 それくらいウィルの才能はずばけていた。

 将来が楽しみであるが、ミリアにはひとつだけ心配があった。

 ミリアのひとみ可愛かわいいウィルが映る。

「てゆうか、ウィル可愛すぎ。このままだと世界中のおひめ様からきゆうこんされちゃうかも」

 ウィルの容姿は少女のように可愛らしかった。

 それだけでなく、だれよりも強く、優しい少年は、ミリアのまんの種であった。

 ミリアは印画紙にウィルの姿を転写させると、神々の寄り合いで自慢することをちかった。

 近く、治癒系神々の集会があるのである。

 そこで思う存分、おや鹿になるつもりであった。

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