第肆話―魔法を使えない魔法使い―

「み、見つけました。

[オリジナル・リザンテラ]を!」


やったー!と地中に咲く花を掴み天に高く掲げて歓喜の叫びを上げる内ケ島椛葉。


「まさか、探していたのがこれとはなぁ。超つく幻の花じゃないか」


ガロンと内ケ島は自らの得物を使い土を掘り続けて数時間が経ち

ようやく発見した紫の花である

オリジナル・リザンテラ。採取して戻るだけのクエストと簡単に説明した内ケ島に騙されたとガロンは心の中で舌打ちする。


「これで、しばらくは生活できます。ありがとうございますガロンさん!」


紫の花を抱いてガロンに深々と頭を下げて感謝を示す。

ガロンは徒労と思っていたが、これも一興いっきょうか、とため息をこぼす。


「気になったんだが、これからどうするんだ?」


深い意味はなく、単純にこれからどうするか気になっての尋ねた。

内ケ島は困惑の笑みを浮かべる。


「あ、あっはは。そのじつは考えていないんです。

クエスト達成すればかなりお金が入って・・・もちろんガロンさんが八割で!」


「いらん!お前に全部やる」


目を閉じて答えるガロン。

腕を組んだ彼を見た内ケ島は、ゲームのイケメンクールキャラだ!っと少し興奮する。それよりもいらないの!?と驚愕きょうがくする。


「あ、あの、さすがに全部はわるいです!せめて半分は――」


「俺はいらないと言った。

何度も言わせるな!」


「せめて四割でも」


「言わせるな」


「なら9割はどうでしょうか!」


「・・・おい、増えているぞ。

減らさないのか」


軽度な頭痛を起きて蟀谷こめかみを押さえるガロン。

一方、内ケ島は途中から諧謔かいぎゃくを入れた。ちなみに内ケ島椛葉は転生の前にいた日本では学園1位、2位と呼ばれる美少女。されど学問と運動の成績はかんばしくない。よって

諧謔かいぎゃくの意味をユーモアを知らない。


「あはは。それじゃあ・・・ここでお別れですねガロンさん」


目的を達成するまで協力すると言ったガロンに十ニ分と面倒見てくれた内ケ島は感謝を込めて頭を深く下げて感謝を表す。


「待って勘違いしていないか?」


「勘違い?」


ガロンは猛禽類もうきんるいごとく鋭い眼差しで内ケ島を見る。本のちょっとパーティの鬼人が怒っていないと理解している内ケ島は少し考えるしぐさ。

指をおとがいを当て、または指を頬に当てる。そして

ガロンの言わんとした事が分かった。


報酬金ほうしゅうきんは、そのまだありませんが、いつかは払いたい所存です」


「はあ?何を勘違いしている。

亜人領だが安全な場所まで送ってやると言っているんだ」


「・・・・・」


内ケ島椛葉はガロンの言葉に、裏に秘められていた優しさに触れて

じんわりとなり、涙が頬をらす。


「なっ――!どうした!?どこか痛むのか?」


「あっ、いえ。人に優しくされたのが久しぶりで・・・うぅ」


「・・・・・そうか」


次々と勝手に流れていくと思った内ケ島はうつむき泣いているのを隠そうとするが嗚咽おえつまでは隠せない。

ガロンは復讐ふくしゅうに燃えるくらい感情で支配され続けてたが―――


(前のように誰かを優しくするのはいつ振りだったか・・・

この優しく温かいものを)


ガロンは、内ケ島の頭をでる。余計な言葉を発さずに無言の優しさで。

内ケ島もその優しさが伝わり包まれていくような気持ちになる。

一人になって、もう出会えない両親の事を思い出す。


「うぅぅ・・・ああっあぁぁぁぁぁ!苦しかったよ。ずっと一人で死ぬよりも・・ツラかったよ」


ノスタルジックが内ケ島の心をいやしていく。忘却ぼうきゃくの優しさに慟哭どうこくする。誰かに聞いて欲しかった苦しみを、励ましてほしかった。内ケ島椛葉は日本では

中学3年生で15才の少女。


『人殺し』


「っ―――!?」


頭の中にリフレインするエルフの怨嗟えんさの叫び声。

英雄とたたえる転生者を11人もこの手であやめて他も殺めていた人生。そんな俺が

誰かを優しくする権利あるのか。

こうして頭をでている次の瞬間に地面に叩きつけるんじゃないか。未来の幻覚が見え手を離す。


「ガロン・・・さん?」


「何でもない。ここで待っているから好きなだけ泣け。

隣で聞いてやる」


悲痛そうに顔をゆがめるガロンを掛ける言葉を思いつけず内ケ島は口をパクパクと動かすだけ。


「・・・・・うん」


そう答えるのが限界だった。

内ケ島は涙を流す程度に落ち着いていた。魔物が活性化する時間まで山の中を移動し続け、野宿する場所を探して数分で木々を仰げば高いこずえ。そこを野宿の場所と決めるとガロンは周辺にわなを張り巡らし川を元気に泳ぐ魚を3匹を捕らえ今日の晩ごはんとした。


「これ魔物ですかガロンさん?」


き火の炎には串を刺したシンプルな魚を焼いている。それを興味津々きょうみしんしんと内ケ島は見ながら抱いた疑問を明るい声で尋ねる。ガロンは

嘆息する。どれだけ大事に育てればこんな世間知らずになるかを。


「ただの魚だ。水中の魔物もいるが眼光炯々がんこうけいけいとした攻撃的な姿だから一目で分かるだろうし隠そうとしない殺気が本能で分かる」


「そうなんですね。これは普通そうだから大丈夫として・・・

ケイケイとしたって何ですか?」


「・・・炯々けいけいは強く光ることだ」


闇の森は危険なので、移動するのは難しい。そして野宿すると決めても時間が余っていてひまになる。焼いた魚を食べ終えて簡易コーヒーを入れて飲む二人。横にした一人分の丸太を上で座る内ケ島は過去を知ってほしいと思った。


「ガロンさん。せっかく知り合ったんです。そ、その恥ずかしいですけど過去を語りませんか?」


向かいに座るガロンは訝しげな眼差しを向ける。企んでいると思って


「・・・いいだろう誰から話す?」


「わたしから!」


手を上げて最初は自分からと。


「気づいたら知らない土地にいたんです、わたし」


「知らない土地?」


「はい。たぶん遠くから・・・パーティを組みました。でも、わたしが役に立たないと分かると捨てられて、見捨てられて、空気の扱いと邪魔だって疎まれる雰囲気で

出たりもしました」


内ケ島の言葉には自嘲と悲哀が混じり合った声音。

パーティを組んでは何度も脱退して一人でいると。ガロンは聞いていいものかと逡巡しゅんじゅんしたが尋ねてみようとおもむろに手を上げる。


「どうして役に立たないと思われたんだ?」


「・・・はい。魔法使いとして致命的すぎる理由です」


俯く内ケ島。ガロンはその致命的を推測した。国家転覆こっかてんぷくが目的であることか、

転生者に命を狙われているなど。

仮説が次々と頭に浮かび消えたり

確認する必要があるとする中で内ケ島は顔を上げて次の言葉を言う。


「魔法が使えないんです、わたし!」


「そうか・・・それで、その後は」


「ふぇ?魔法が使えないのが伝えたかったことです」


「そうか。確かに魔法が使えない魔法使いは役に立たないなぁ」


「ひどい!?」


涙目で不平不満と内ケ島がガロンを小動物ように睨む。

威嚇いかくさえもなっていない彼女にガロンはつい笑ってしまう。


「フッ」


「わ、笑いました!今、笑いましたよねガロンさん!」


人差し指を向ける内ケ島。


「悪かった。お詫びに俺の番だ」


お詫びになっていないよと内ケ島は思ったが、指摘するのは、やめて聞く体勢になる。鬼人は目に焼きつけられた過去を語る。


「俺は・・・転生者に村を焼かれた」


「えっ?転生者って異世界転生した」


内ケ島は、愛苦しい目を開き驚く。


「すべてを失った。友人も両親も敬った人も・・・すべてほのおで消された」


「・・・・・」


内ケ島は顔をうつむかせて、落ち込んでいた。

ガロンは歯を強く食いしばる。

絶望して無力を嘆いた事は今でも昨日のように思い出せる。

そして気を失ったガロンは神と出会い力を得た。それはアンノーンオーブ。これが異世界チート能力の正体と知ることになった。


「俺はみなに誓った。

奴らを一人として残らずに根絶ねだやしする。どこにいようが」


それが唯一と生き残ったガロンか失った村のためと考えていた。

雨垂あまだれ石を穿うがつ努力では超えれないと思い身体も脳を酷使して血反吐ちへどしても続けた。


「そう・・・なんですね。

でも無理はしないでください」


「お前の関係ないことだ」


「うん、それでも言わないと。

無理はしないで・・・本当に」


内ケ島椛葉は悲痛な表情で拙い笑みを向けて忠告をした。

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