第27話:糸口

 話が前に進まないヴィルとエルフィンだったが、そこに意外な人物が訪れた。


「失礼します、支部長」

「君は確かオレリオットさんですね」

「お前、仕事はどうしたんだ?」

「さっきのヴィル様の騒動で冒険者志望の若者が来なくなったので」


 パーラの発言を聞いたヴィルは頭を抱えたものの、それがパーラがここに来た理由とは直結しないと判断して理由を確認した。


「それで、何の用だ? 今は忙しいんだが?」

「アヤさんがいなくなったって言うのは本当ですか?」


 キミエラしか知らないだろう事実を言い当てたパーラに、ヴィルとエルフィンを目を見開いた。


「……犯人はお前か?」

「ちょっと、怖いですよ! 私は知っていそうな人にカマを掛けて情報を聞いただけです!」

「ヴィル、いきなり睨むのはいけませんよ」

「むっ! ……すまん、パーラ」

「……いえ」


 あまりにも鋭い視線にドキドキしながら、パーラは情報を伝えていく。


「私が話を聞いたのはガリエラ・ホールトンです」

「ガリエラってことは……くそっ、下位ダンジョン窓口の奴か!」

「はい。ガリエラはあの方の怒りを買った、と言っていました。おそらく――」

「フロリナ・ハッシュベルさん、ですか」

「……だと思います」


 アヤが初めて下位ダンジョン窓口に立った時に右隣で冒険者に怒鳴られていた元女性職員で、自分がミスをしたのをアヤのせいにして怒鳴り散らし、ヴィルに言いくるめられたことでレイズ支部を飛び出していった人物でもある。


「そいつがアヤを誘拐したってことか?」

「分かりません。ただ、何かしら関与しているのは確実ではないかと」

「冒険者を雇って誘拐させた可能性もありますか」

「そうなると探すのも大変ですよね?」

「何を言っているんだ?」


 エルフィンとパーラが意見を交わしている中、ヴィルは立ち上がりながら扉へと進んで行く。

 その顔は無表情であり、無表情の奥に燃え滾る怒りをひた隠ししていた。


「下位ダンジョン窓口の奴らに話を聞きに行く」

「でしたら、私が代わりに窓口に立ちましょうか。オレリオットさんは下位ダンジョン窓口に立てますか?」

「は、はい!」

「でしたら行きましょう。……ヴィル」

「なんだ?」


 扉を開けようとしていたヴィルを呼び止めたエルフィン。


「あまりやり過ぎないようにしてくださいね」

「……どうだろうな」


 その声音は普段よりも低く、苦笑しているエルフィンの隣でパーラは顔を青ざめている。

 三者三様の表情を浮かべながら支部長室を後にした。


 ※※※※


 先頭を歩いていたヴィルは一直線に下位ダンジョン窓口へと向かい、パーラが話を聞いたガリエラに声を掛けた。


「おい」

「ヴィ、ヴィル様! どうしたん……です、か?」


 黄色い声を上げたガリエラだったが、ヴィルの表情を見るや否や表情を真っ青に染めてしまう。

 近くにいた他の職員も仕事をストップさせるくらいには鬼の形相を浮かべていた。


「貴様、フロリナが何をしたのか知っているな?」

「……わ、私は何も知りません!」

「ほう? アヤがいなくなったことを何故知っている?」

「だって、ヴィル様とキミエラさんがあの子の家に行ったのを見ていましたから!」

「誰もいなくなっているなんて言ってないぞ? 俺たちはアヤを迎えに行っただけなんだが?」

「そ、それは……」


 ガリエラはパーラを睨みつけたものの、視線を遮るようにしてヴィルが立ち塞がる。

 その間にエルフィンとパーラが下位ダンジョン窓口に立ち冒険者の列を捌いていく。


「ガリエラだけじゃないぞ。ここにいる他の職員にも聞いているんだ。隠し通せると思うなよ? 俺はどんなことをしても証拠を見つけ出すからな」


 下位ダンジョン窓口に立っていた職員全員を睨みつけながら見回していくヴィル。

 そして、一人の職員が手を上げた。


「……なんだ、アルバ」


 アヤと親しくしていたアルバが手を上げたことに疑問を感じたヴィルだったが、そのまま口を開くことを促した。


「……今回の件と関係があるかは分かりませんが、少し気になる履歴を見つけました」

「履歴だと?」

「はい――転移門の使用履歴にです」

「なっ! て、転移門だと!」


 アルバの言葉を聞いて、ヴィルは最悪の展開を思い浮かべてしまう。

 本来ならばあり得ないことなのだが、ここにいる誰かがフロリナに手を貸したとすればあり得ないことが現実になってしまうこともある。


「それは何処のダンジョンだ!」

「そこは――」


 ダンジョン名を聞いたヴィルは、下位ダンジョン窓口の誰かが手を貸したのだと確信を得た。

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