第13話:テストの結果
テストと言っても今回はヴィルが口にするダンジョンのランク、タイプ、階層、そして補足情報があればそれを答えるものである。
最初は簡単なダンジョンから口にしていく。
「初心者のダンジョン」
「ランクはG、塔タイプの五階層です」
「光のダンジョン」
「ランクはG、塔タイプの七階層です」
「闇のダンジョン」
「ランクはF、迷宮タイプの一階層です」
こうしてテストが順調にこなされていくと、しばらくしてヴィルは補足情報が多いダンジョンを混ぜることにした。
「水のダンジョン」
「ランクはF、地下洞窟タイプの七階層、水辺の近くは引きずり込まれる可能性があるので要注意」
「雷のダンジョン」
「ランクはE、塔タイプの一〇階層、麻痺効果を持つモンスターがいるので痺れ薬を持っていくこと」
「罠のダンジョン」
「ランクはE、塔タイプの一〇階層、罠解除持ちがいると攻略が楽になります。あと、下層に落ちる罠に注意が必要です」
「……それじゃあ次行くぞ」
「はい!」
すらすらと答えるアヤに驚きながら、ヴィルはテストを続けていく。
様々なランクを交えながらダンジョンを口にしていくが、その全てに答えてしまう。
アヤが珍しいと口にしていた大森林のダンジョンや、ランクEで山脈タイプの一〇階層である火山のダンジョンもクリアしてみせた。
「……問題ない」
「やった! それじゃあ――」
「あぁ、下位ランクのダンジョン窓口に立ってもらう」
「はい!」
元気よく返事をしたアヤだったが、ヴィルの表情は芳しくない。
どうしたのだろうと首を傾げていたのだが、すぐにいつもの真面目な表情に戻り立ち上がった。
「最初は俺も後ろについているから安心しろ」
「はい! ……って、冒険者登録窓口ではすぐにいなくなったじゃないですか!」
「隣にはいただろう」
「それでもですよ! すごく不安だったんですよ?」
「今回はそれもないから安心しろ」
「……本当ですか?」
「本当だ」
言いながらさっさと個室を後にしてしまったので慌ててアヤも追い掛けた。
窓口はすでに戦場のようになっており、上位ランクの窓口も臨時で中位から下位ランクの窓口にしているのだが、それでも冒険者の列が途切れることはない。
「……こ、この中に飛び込むんですか!」
「当たり前だろう、それが仕事だ」
「仕事……」
仕事という言葉に、アヤは昨日の夜のことを思い出していた。
(そうだ、仕事だ。仕事ができなかったら追い出されちゃうかもしれないんだ!)
冒険者の数に圧倒されそうになっていたアヤだったが、自分自身で立て直し口を引き結び気合を入れた。
「が、頑張ります!」
「あまり気を張るなよー。失敗するからな」
「酷いですよ!」
「はいはい。それじゃあ……アルバ!」
「は、はい!」
名前を呼ばれた男性職員――アルバ・ギャレルは目の前の冒険者への対応を終えると一度振り返る。
ヴィルは右手のジェスチャーで交代の指示を出すとともに、左手でアヤの背中を押す。
「きゃあっ!」
「えっ! ア、アヤさんと交代ですか?」
「おう。先に休憩へ行ってこい」
「……わ、分かりました。アヤさん、頑張ってくださいね」
「ありがとう、アルバ君」
アルバはアヤのことを好意的に見ている数少ない職員の一人だ。ヴィルがアルバを選んだ理由の一つにもなっている。
「まずは冒険者証を確認、冒険者のランクを見て希望のダンジョンを聞く。そして、希望に沿ったランクのダンジョンを紹介して転移門への入場許可証を発行する」
「は、はい!」
「それじゃあ行ってこい」
「頑張ります!」
小走りに窓口へ移動して目の前の冒険者へと話し掛ける。
「こんにちは冒険者様! それでは冒険者証を――」
「ほらよ」
髭面の冒険者はすぐにでもダンジョンに行きたいのか、アヤが話している途中に冒険者証を窓口へ投げ渡してきた。
「……あ、ありがとうござ――」
「サラマンダーの皮がいる。出現率の高いダンジョンを紹介しろ」
「サ、サラマンダーの皮、ですか?」
「そう言っているだろう! さっさとしろ!」
突然怒鳴り散らしてきた冒険者にアヤはビクッと肩を震わせた。
頭の中が真っ白になり、チラリと横目で後方を見る。
腕を組みながらいつもと変わらない表情でアヤを見つめるヴィルと、心配そうな表情を浮かべているアルバ。
口パクで『助けてください』と言ってみるが、ヴィルは首を横に振るだけで動こうとはしなかった。
「さっさとしろ! ったく、他に職員はいないのかよ!」
怒声を響かせる冒険者。
両隣で対応している職員からは冷ややかな視線が注がれる。
見かねたアルバが変わろうと足を踏み出そうとしたが――それをヴィルが止めた。
「ヴィルさん! あの人はダメですよ、短気で有名な冒険者なんですから!」
「これを乗り越えられたら、他の冒険者も問題なくなるだろう」
「だけど!」
ヴィルとアルバのやり取りをよそに、アヤは震える体を押さえつけて再び前を向く。
「――! ……エリーちゃん」
レイズ支部の入口に立っているエリーの姿が視界に飛び込んできた。
一昨日は怯えたままレイズ支部までやって来て、アヤが冒険者登録窓口で対応した女の子。
両親と相談して冒険者になるならまた来るようにと偉そうに口にしていた自分。
(……エリーちゃんの前で、格好悪いところを見せるわけにはいかない!)
自分が初めて接客したエリーに助けられ、アヤは平静を取り戻した。
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