第25話 借金清算
「よぅ、フィナンシェ。首尾は上々かいな」
冒険者ギルドの倉庫から出てくると、ラビィさんが休憩室の方から声をかけてきていた。
隣にはセーナとともに、ギルドマスターのフランさんが座っている。
「ええ、綺麗に片付けられました。実はその際にクズ魔結晶の中でこんな魔結晶を見つけまして……今、受付の方に報告をしようと思いまして……」
「はぁ!? なんでクズ魔結晶の置き場にそんなでっかい魔結晶が? サイズ的に中型くらいはあると思うんだが……どうして? 手違いで紛れ込むサイズじゃないぞ」
フランさんがめちゃくちゃ怪しんでいる。
仕事する前も色々と怪しまれてたから、やっぱそう思うよね……。
ラビィさんに助けてもらおうっと。
俺はフランさんの隣にいたラビィさんに目配せを送る。
ラビィさんは、俺がでかい魔結晶を持っている理由を分かっているので、眼帯をあげ眼を赤く光らせていた。
「フラン殿はほんまに運がええわ。ちょっとここじゃ喋れないから個室を貸してくれや」
「こ、個室!? はい、すぐに準備します。セレンス君、個室開けて」
俺たちは冒険者ギルドにある個室へと移動した。
「は? はい? 魔結晶の再結晶化ですか?」
「おおそうや。大量のクズ魔結晶と放置環境で発生するっちゅー噂をワイは聞いたことがあるでぇ」
「へぇー、そんなことも起きるんですねぇ……」
「って、そんなことあるわけないやろ。これはワイの嘘や。あの魔結晶はフィナンシェのスキル能力で作られたもんに違いない。なぁ、フィナンシェ」
ラビィさんがド直球で俺のスキルのことを暴露していた。
慌ててラビィさんを見るが、落ち着けと言いたそうな顔をしている。
「はぁ!? フィナンシェ君の力ですって? 言ってる意味が」
「フィナンシェには魔結晶をデカくする力が備わっとんのや。それで、クズからあの魔結晶をでっかくしたちゅーわけや」
ラビィさん、ギリギリ俺のスキル能力がバレない話をでっちあげていた。
嘘ではないけど絶妙な隠し方だよなぁ。
「本当かね? フィナンシェ君」
フランさんに犯罪を犯していないか疑われているため、自衛を兼ねて冒険者の元締めであるギルドマスターには能力の一端を話して味方にしておこうとかっていうラビィさんの考えかな。
大人しくラビィさんの敷いたお話に乗ることにした。
「えーっと、はい。ラビィさんの言う通りです。実はこの魔結晶は俺がスキルでクズ魔結晶から作り出しました。すみません、騙す気はなかったんですけど言い出し辛くって」
「信じられん……」
「フラン殿が信じられんのもしょうがない話や。でも、まぁフィナンシェの能力に関してはワイが太鼓判を押したる。で、フラン殿にはこのフィナンシェの能力に関して色々と黙っておいて欲しいんや。クズの魔結晶をデカくできる能力なんてのが知られたら、各地の冒険者ギルドからフィナンシェの争奪戦が始まるでぇ。黙っておいてくれれば、ワイはこの街の冒険者ギルドに所属してやってもええと思っとんのや。どや、そう悪い話でもないやろ」
「確かに有名な冒険者であるラビィさんがそうおっしゃるなら、フィナンシェ君の能力は本物なんでしょうな……。これはどうやらとんでもない人材が我がギルドにはいたようだ。分かりました。フィナンシェ君の能力に関しては全面的に内密にいたします。ですから、ラビィさんとフィナンシェ君の組むパーティーには是非ともうちで登録してもらいたい。色々と便宜を図らせてもらいます。セレンス君、君もこの件は内密に頼むよ。外に漏れた時は君の処遇も考えねばならん」
入口に立っていた受付嬢のセレンスさんが、無言で頷いていた。
フランさんたちはどうやら俺の能力に関して内緒にしてくれるらしい。
それに、俺が新しくラビィさんと立ち上げる冒険者パーティーにも便宜を図ってくれるとも言ってくれた。
やっぱラビィさんの言う通り廃品回収しててよかった……。
俺って色々な人に助けられてるなぁ……これは感謝を忘れないようにしないと。
「フランさん、スキル能力の件や新しく立ち上げるパーティーの件にご尽力いただけるそうでありがとうございます。あの、それで俺から倉庫整理させてもらったお礼としてこっちはギルドにお渡ししようと思ってます」
「え? これを我がギルドに? それじゃあ、フィナンシェ君たちの利益がなくなるのでは」
フランさんも差し出された魔結晶の塊六個ほどの価値を分かっているので、タダでは受け取りにくそうにしていた。
「本当にフランさんには感謝してまして、是非受け取ってもらいたいんですけど……もし、タダと受け取りにくいなら……こっちの三つを即日現金で換金してもらえるとか頼めますか? ちょっと、フィガロさんへの借金返済がありまして」
別に取っておいた魔結晶を、懐から取り出しフランに見せる。
「そ、そういう話なら……すぐに三〇〇万ガルドを用意しよう。大きな魔結晶は需要が高いからな。おい、セレンス君、買い取り証と現金をすぐに持って来てくれ」
個室から出て行ったセレンスさんが、しばらくすると買い取り証と現金を持って戻ってきた。
フランさんはすぐに三個分の買い取り証を書き、現金を手渡してくれた。
「あ、ありがとうございます! いや、やっぱり相談してみるものですね。よかった」
これでフィガロにしていた借金はすべてチャラにできる目処が立った。
俺の自宅だったところに住む、ラクサ村の子たちにも十分な生活資金を残してあげられる。
そして、俺は冒険者として旅立つ装備の準備もほぼできた。
「いや、こちらこそありがたい。倉庫整理を頼んだら大きな魔結晶を作れる能力があると言うし、そこで作ったデカい魔結晶をタダで譲ってくれたうえ、自分の分も売却してくれるし、こっちには得なことしかないからね」
「そう言ってもらえて、俺たちも仕事をした甲斐がありました。こっちこそ、仕事をさせてくれたフランさんには感謝しかありませんよ」
本当に俺と縁したみんなには感謝しかない。
みんながゴミとして持て余した物をラディナさんやラビィさん、ラクサ村の女の子たちも手伝ってくれたおかげで成長できたり、お金を得ることができた。
ついこの間までの現状を打破できたのは、俺一人の力がじゃないんだって心に留めておかないと。
「ああ、そうだ。お昼の休憩も取ってないと聞いているんで、これから休憩室で食事でもしていってくれ。代金は冒険者ギルドが肩代わりするから遠慮なくなんでも食べたまえ」
「あ、ありがとうございます。お言葉に甘えさせてもらいますね」
それだけ言うと、フランさんとセレンスさんは大事そうに魔結晶を抱えて個室から出て行った。
それから俺たちはギルドの休憩室でおやつの時間を楽しむことにした。
「それにしても、フィナンシェがでっかい魔結晶を持っとるのを見て、ワイはピンときたでぇ。また、こいつなんかやらかしおったってな」
「そんな……合成してみたらでっかくなっただけですよ……。あと、スキルLV31まで成長しました」
「ぶふぅううーー!」
ラビィさんが飲んでたお水を吹き出していた。
「なんで、そないなことになっとんねんっ! むぐううーー」
「ラビィ、声がでかいわよ」
手袋をしたラディナさんが、ラビィさんの口をふさいでいた。
休憩室にはまだ数名の冒険者が残っており、チラチラとこっちを見ている節があった。
能力の件がバレると面倒だし、色々と問題が起きそうだって言ったのはラビィさんなのに……。
『実はクズの魔結晶を合成したら、やたらと効率よく経験値を得られまして……LVアップしました。ちなみに、さっき持ってた魔結晶は全部三〇九個あったうちの九個だけです』
ラビィさんの眼が、お金マークになっている気が……。
いや、確かに三〇〇個の魔結晶(中)とか全部売ったら三億ガルドっていう莫大な資産になるけど。
『むぐ、あの大きさの魔結晶三〇〇個って……お前、やっぱどえらいやっちゃで』
『おかげであのLVまで上がりまして……まだ試してないですけど、合成付与ってスキルと道具や武具の成功率が上がるスキルも解放されたみたいで』
『また面白そうなんが解放されたみたいやな』
『はい、でもまだ試してないんで何がどうなるかは分かりませんが……』
「はい、そこまでー。あとはお家で話しましょうか。売店にあったメニュー品物を適当に選んできてもらったからご飯にしましょう」
ラクサ村の子たちが、冒険者ギルドからの奢りということで、好きな物を自由に選んで運んできていた。
「おやつーの時間ですー」
「いやー、結構種類あったから迷っちゃったけど」
「盛り過ぎだって言ったのに、ラディナごめんねー」
「……色気より食い気」
「ラビィさぁ~ん、一緒に食べよう」
テーブルには大量の甘い物が広げられていた。
「ほら、フィナンシェ君もこっちに座ってー」
ラディナさんが、俺の手を取ると席に案内してくれる。
すると、背後から声がかかった。
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