1.聖霊祭 その1
じゃらん、じゃん、じゃらん、と谷間に鉦(かね)を打ち鳴らす音が鳴り響く。
二枚の皿を合わせたような形の、「ダッカ」と呼ばれる打器が打ち合わさる度にじゃらんと音がする。その音に合わせて、薄い更紗を身につけた踊り手が、剣を片手に舞い踊る。一人は男、後の二人は女の舞手だ。三人とも遠目に見ても見目麗しく、特に一方の女の見事な赤毛は目を引いた。
舞に合わせて繰り出される剣技と共に、四肢の筋肉のしなやかさが見て取れる。三つの剣が空を舞い、弧を描く。しゃらん、じゃらんと打ち鳴らされる打器の音が早くなり、三人の舞いもいよいよ熱を帯びてきた。舞い人が舞い、くるくると弧を描いて剣が打ち合わされは離れ、また激しく重なり合う。舞い手は剣と共に影を重ね、離れては重なり合い、重なり合ってはまた離れた。そして、日の光を浴びて三人の剣が頭上に掲げられた。三つの剣が重なって交差し、光を強く反射する。ゆっくりと剣が引き下ろされた先から、日を照り返した透明な水晶玉が姿を現した。
それは一人の少女が手にしていた。白装束に身を包み、額に大きな玉を抱いている。
水晶玉を掲げた彼女の足下に、剣舞いの踊り手たちが平伏すように体を横たえた。ひときわ大きく鉦の音が鳴り響き、舞いが終焉を迎えた。
周りを囲んで見ていた人々の間に、感嘆の声が漏れる。前列を占めていた人々が一斉に地に伏した。その周りの人々も、神に捧げる礼の形を取る。
それらの様子を遠くで見ていた男も、聖霊祭と呼ばれる祭りに捧げられた舞いの美しさに目を奪われていた。特に赤髪の乙女の肉体のしなやかな動きは男の目を捉えた。
剣が空を切っては共に弧を描くように舞う彼女の四肢の動きと、寸暇を置かず重なる三人の動き、重なっては離れ、離れてはまた重なる様は蝶の戯れのようにも見える。美しく、それでいて無駄のない動き。剣技と舞いがそこには同時に存在していた。
「さすが、谷の守護神と呼ばれるだけのことはありますな」
男の脇で、同様に剣舞いを見つめていたフードを目深にかぶった男が言った。
「ああ」
短く頷いて、男はその場を後にする。
谷の守護人とは、あの舞い手三人のことを指していた。渓谷の里・ティカルを守る守護人である。ティカルは深い深い谷の奥合いに、連峰に囲まれた泉を抱く渓谷の村であり、伝説の聖地と呼ばれていた。この地を侵そうとするものは未だおらず、国を問わず人々の信仰を集め、不可侵の地として人々に崇められていた。祭礼の最後に水晶玉を掲げた少女こそは、渓谷の神ダーマ、地方によってはダーナムと呼ばれる泉の神の依り代となる少女、巫女姫・ファティマ・ドウル・シアタであった。
ファティマ・ドウルは盲目の巫女であり、その目は真実を映すと言われていた。彼女を中心に、谷を守る者こそが、銀髪の騎士・ティズ、絹のような金の髪をしたティアラ、そして赤髪の乙女・ラクアであった。そして、この祭礼は谷の神ダーマを讃える豊穣祭の意味を持っていた。
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