第258話 ヨーク砦
装甲車を降りマジックランドセルに入れておいた馬車に乗り換え谷間を縫う一本道を走る。
徐々にヨーク砦の石作りの城門が見えてくる。
ワイハルトのヨーク砦はアウスベ山脈を越えてしばらく行ったところにあるワイハルト東側の最大の砦だ。
最大と言っても西側にあり、リピン国と隣接するアンゼル砦と比べると半分ほどの大きさだそうだ。
それは4000m級の山々が連なるアウスベ山脈があり、今のハルフェルナの科学力では山脈を越え大軍を持って侵攻するというのは物理的に難しく、仮想敵国となるオリタリアは今は亡きイズモニア皇国と並ぶ平和主義国であるため強大な砦は必要としないそうだ。
俺の目から見ると十分大きな砦だと思ったが、そうでは無いらしい。
チーフテン外務大臣曰く、
「我々オリタリアが侵攻するよりワイハルトが侵略する確立の方がはるかに高い」
とのことだそうだ。
俺が良く分からない!という顔をしていると智弘が
「侵略する方は自国が戦場にならないだろ。
侵略される方は自国で向かえ撃たなくてはならない。戦場になる可能性が高いだろ。
可能性が高ければ備えておかなくてはならない。
ヨーク砦よりオリタリアのロンド砦の方が大きかっただろ」
「言われてみれば・・・そんな気が・・・・」
「いや、実は面積的には、ほぼ同じサイズなんだよ」
チーフテンさんが教えてくれた。
「オリタリア側のロンド砦はアウスベ山脈を抜けると一気に平野になるから横に広く作っているから大きく見えるんだよ。
ヨーク砦は渓谷に作られているから縦に深く作られているんだよ」
「ということは、ロンド砦の方が城壁が広い分、コストが掛かっていると言うことですか?」
「おっ! 水原君は聡いね。
ヨーク砦の2倍コストが掛かっていると思うよ」
「それにヨーク砦の方が渓谷に作られているなら守りやすいですね。
砦まで一本道になっているから伏兵を山の上に配置し、上から下へと一方的な攻撃が可能ですね」
「そうなんだよ。道が一本しか無いところに砦が配置されているから、守備側が圧倒的に有利だね」
智弘は馬車の中から御車席へ身を乗り出しキョロキョロと渓谷の形状や砦との位置関係を見ている。
あっ!こいつ、ヨーク砦の攻略法を考えていやがる。
「ロンド砦と比べ、ナミラーの方が手薄なのは何故ですか?
ナミラーは『砦』ではなく『駐屯地』という言い方ですし」
「ガルメニアが一気に覇権国家になったのはフェルナンド王になってからだからね。
後手後手に回ってしまったんだよ。
オリタリアとしては2,300年も前から領土を広げていたワイハルトの方が脅威だったんだよ。
商業・経済・文化の発展を旨としているからね。
お金もそっちへ回すというのがオリタリアの基本理念だからね。
とは言うもの、今、議会では
『何故。ナミラーに強固な砦を作らなかった!! 大統領の怠慢ではないか!』
と突き上げを食らっていてね。
この間までは『軍事や国防の金を削れ!』と野党は幸いでいたのに」
「『野党あるある』ですね。
俺たちの世界の野党は反対は代案など出さずに反対だけしていれば仕事したと思っていますからね」
「ハハハハハハ!」
チーフテンさんがいきなり笑い出した。
「君たちの世界も一緒かい? ヤツら反対さえしていればいいから楽なもんだよ!」
「智弘は大人になったら『野党の政治家になる!!』って口癖なんですよ!
理由は『この世にこれほど楽な仕事は無い』と言うことだそうです!」
「おお、言うね~~ 水原君が我が国の野党・政治家にならない事を祈るよ」
智弘が野党の政治家になったら目も当てられない。
こいつの毒舌やこっす辛い悪知恵で議会が空転する姿が目に浮かぶ。
ヨーク砦に入城し、チーフテンさんたちが入国の手続きをしている間、砦内の中庭で馬車を止め待機をする。
驚いた事にワイハルトの砦には多くの獣人からなる兵士がいた。
そのほとんどは首輪が付けられており奴隷兵ということらしい。
オリタリアにも数は多くは無いが獣人の兵士がいたが、首輪など付けてはいなかった。
俺はその首輪を見たとき不愉快な気持ちに支配された。
どうやらワイハルトもガルメニアと同じクソ国家と考えて良さそうだ。
ワイハルト帝国に対し好意的に接する必要性を感じなかった。
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