第257話 ワイハルト帝国へ
「やっぱり、この装甲車の方が落ち着くね」
とオリタリアの外務大臣チーフテンさんの笑顔を引きつらせながらの言葉だ。
チーフテンさんの両隣には秘書兼ボディーガードの二人が青白い顔をしながら座っていた。
勿論、チーフテンさんは今回が初めて装甲車に乗るのだが、つい一時間くらい前にオリタリア側の砦から飛び立った。
龍之介の背中に乗って上空5000mくらいを飛びアウスペ山脈を越えたところだった。
オリタリアとワイハルトの国境の間にはアウスベ山脈という4000mクラスの山脈が立ちはだかり両国の往来を阻害していた。
装甲車に乗ったまま龍の姿に戻った龍之介に両手で掴んでもらい、俺たちは車内でヌクヌクとしようと思ったのだが、装甲車の重量は20tを雄に超える。
その重量を持ちながら空を飛ぶのは難しいということだ。
何よりも、重量に負けて上空から「手が滑った!!」なんて事になったら、すべてが終了になってしまう。
と言うことで全員が防寒具を装備して空の旅を洒落込んだところだったのだが、龍之介の背中に乗り為れていないチーフテンさんたちはガクガクプルプルの状態であった。
安全を考えて龍之介の背中の先頭には、俺が次に将太が俺に胸を押し付けるようにガシッと抱きつき、チーフテンさん、秘書兼ボディーガードの二人、ミリア、智弘の順番で背中に乗った。
智弘とミリアが後方にいれば誰かが落ちたとき自力で飛べる二人が空中キャッチをすると言う算段だ。
もし3人目が落ちたら・・・・・・
それは考えないでおこう。
「私は出来る限り装甲車での移動を希望するよ」
「装甲車より龍之介に飛んでもらったほうが早くワイハルトに着きますよ!!
大統領も大至急という命令ですよ!」
俺はチーフテンさんたちがビビリまくっているのを分かった上で聞いた。
「いやいや、この装甲車も十分に速いよ!
馬車で10日は優に掛かる予定が2日ほどでワイハルト帝都に着きそうだよ!
アウスペ山脈を超えるのにも4、5日くらいかかるんだから、十分十分!!
これからは装甲車にしよう。
私は装甲車の方が乗り心地が良くて好きだな~」
完全にビビッてますね。チーフテンさん。
そりゃそうだよね。
鞍など何も無く跨っているだけだからね。
でも、龍之介の背中は鱗に覆われていて、鱗の表面もサメの肌のようにザラザラしているので接地力が高いから空中回転さえしなければ落ちることは無さそうなんだけどね。
一国の外務大臣の希望なら仕方ありませんね。
装甲車の運転は俺がし、前席には将太、龍之介、ミリアが二人席に無理やり3人で座っている。
後席では智弘がチーフテン外務大臣にワイハルト帝国について色々聞いていた。
「ワイハルト帝国の建国は400年ほど前で現皇帝は初代から数え25代目でね。
400年前はどこにでもあるような小国の一つにしか過ぎなかったんだよ。
それが変わったのは15代目アゲート女王陛下の代から周りの小さな国々を一つ一つ征服していったそうだ。
アゲート陛下以前の国王は全員男だったのだが、アゲート陛下以降は女性が治める国になったんだよ。
その次のトリフェーン陛下の時代に20の国を配下に納め帝国を名乗るようになったんだ。
トリフェーン皇帝陛下もハルフェルナの歴史に残る偉人の一人で武芸に秀でた方で自ら戦場に赴き勝利を重ねてきた英雄でね。
その後の皇帝も拡張政策は止まることなかったそうだ。
現皇帝はアクアオーラ陛下と言って『トリフェーン皇帝陛下の再来』と呼ばれていて大きな戦いでは必ず自分が陣頭指揮を執り必ず勝ってきた名将であり、魔法の才能にも恵まれていて高位の火と水と回復魔法を習得しているそうだ。
今ではハルフェルナの人間が治める地の西側半分は、ほぼワイハルト帝国の領地になっってしまった。
私も何度かアクアオーラ皇帝陛下に謁見したことはあるのだが・・・・・もう40は越えているはずなのだが、20歳くらいにしか見えないんだ。
しかも長い金髪に名前の通り美しい青い瞳が印象的でね。
どうみても美しい姫君くらいにし見えないのだ・・・・・・・」
早い話、『アクアオーラ皇帝に率いられたワイハルト帝国はヤバイ!!』ということだ。
「女皇帝だったんですか・・・・
俺はガルメニアのフェルナンドのような暑苦しい顔が浮かんでいたんですけど」
と智弘の声が聞こえてきた。
「ワイハルトとはどうされるのですか?」
「ガルメニアと戦っている今、ワイハルトと争う理由も無いからね。
同盟を結ぶかどうかまでは分からないが領土不可侵条約は結びたいところだね」
「このアウスベ山脈でしたっけ?
この山脈があるからワイハルトはオリタリアへ侵入して来れなかったのですね」
「そうだね。この山脈がワイハルトと国境を隔てているからね。
もし、アウスベ山脈が無ければ我が国はとっくに侵略にあっていたかもしれないね。
現にアウスベ山脈までがワイハルトの勢力圏だからね。
が、ワイハルト帝国が南まで領土を広げたのが10年前、南から迂回すればナミラーへの侵攻も可能なんだ。
今後はどうなるか分からない。
ナミラーはハルフェルナの交通の要所。
世界から色々な人、物が集まる。故に交流・物流の中心だ。
ワイハルトもガルメニアも喉から手が出るほど欲しいだろう」
「オリタリアは重要な都市を押さえているんですね」
「ナミラーあってのオリタリアなんだよ」
リーパスがハルフェルナで最も栄えている都市と言われているが、その繁栄もナミラーあってのことのようだ。
と、智弘とチーフテン外務大臣が難しい話をしている前の座席で将太が龍之介に話しかけていた。
「もうすぐオリタリアのヨーク砦が見えてくるよ」
「碧! あの森の奥に止めて装甲車から馬車に乗り換えよう!」
智弘が運転席へ身を乗り出し森を指差しながら言った。
オリタリアに装甲車を見せたくない。
装甲車がばれると難癖つけられて拉致されかねない。
取り上げられるかもしれない。
何れ露見するとしても出来る限り秘匿するに越したことは無い。
装甲車を森の片隅に止めようとしたとき、将太が龍之介に話しかけていた。
「龍ちゃん。茜ちゃんに会ったらどうするつもり?」
将太が龍之介に小声で尋ねた。
「エッ!?・・・・・・」
しばらく間を空け
「ど、どうもしないよ」
と悲しそうな声で言った。
「分かっているよ。僕も子供じゃないから。
お兄ちゃんの妹が悪いわけじゃない事ぐらい、分かっているから」
「茜ちゃんは優しい子だから、龍ちゃんのお兄さんを殺めたとき辛かったと思うよ。
時に力を持つものは、力に相応しい責任を果たさないといけないときがあるから・・・・・苦しかったと思うよ」
「うん、分かってる」
龍之介は頷きながら小さい声で答えた。
俺は聞こえないふりをしながら装甲車を運転した。
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