第255話 召喚! 勇者・茜!
「何か久しぶりに感じるな~ 以前、リーパースに来たのは10日も経っていないのに半年振りくらいに感じるよ」
リーパスの街の入り口で背の低い幼女・智弘に話しかける。
「そうだな~魔族の襲撃、ガルメニアに行って、女子たちと合流して、ゾンビ事件があって、龍の霊峰でまた襲撃」
「お主たち、妾との出会いを忘れていないか?」
「そうだよ、僕との出会いも省略しないで欲しいな~」
もっと背の低い幼女と幼男が見上げながら言う。
「大丈夫だ、二人のことも忘れていないから!」
龍之介が加わってからと言うもの移動が恐ろしく速くなった。
龍に変化してもらって人目につきにくい高度を飛んでもらえる。
が、弱点はある。
人目につきにくい高度は非常に寒いのだ。
七海に作ってもらった魔素ネットコーティングをボロボロになった制服にしてあるといっても限度があった。
しかもミリアの分は無いので寒さに震え鼻水をたらしながら耐えていた。
その龍之介なのだが・・・・・・ドラゴンではなく龍。
龍というのは翼など生えていない。
・・・・・が、空を飛べる。
なぜ?翼も無く空を飛べるんだ!!
龍之介に尋ねてみたが
「え? 不思議なの? 僕、昔から飛んでいるよ」
と。なんだか話が噛み合っているようで噛み合っていない。
執拗に智弘が
「翼も無く空を飛ぶと言うのは可笑しいだろ!!
物理の法則に反するんだよ!!
魔法で空を飛んでいるのか!?」
と聞いてみたが
「僕、魔法なんて使えないよ」
と。
智弘は納得がいかずブツクサと色々言っていたが
「ハルフェルナには魔法だってあるんだから、最強種の龍ちゃんが空を飛んでも不思議じゃないんじゃない?」
と将太の一言で『そういうもの』と髪の毛を掻き毟りながら無理やり自分を納得させていた。
そして、今、リーパスの商業区を歩きながらアルファンブラ商会へと向かっている。
が、リーパスに到着してからというもの町のすべての区画が騒々しいのだ。
静かなはずの学術区も以前に来たときの静寂感はなりを潜めていた。
商業区は人通りが多く活気は相変わらずなのだが、町全体に落ち着きが無くそわそわしていた。
紺色の建物に金の縁取りがされたアルファンブラ商会の建物にも以前にも増して多くの人が出入りをしていた。
俺たちがアルファンブラ商会に来たのはお世話になった会長のジーコさんに帰還の挨拶と数日後に合流するであろうクラスの女子たちの保護、それに霊峰で倒したドラゴンとヒドラの素材を引き取ってもらおうと思ったからだ。
本来なら素材などは冒険者ギルドに引き取ってもらうのだが、ジーコさんには色々とお世話になったし、これからもお世話になるので半分ワイロを含めて・・・・・・あぁ~これは勿論、智弘の考えたことであって俺の考えたことでは無い。
商会の内部に入ると、やはり以前よりも騒々しい。
受付の女性に「白田」と名乗ると慌てて立ち上がり会長室へと走っていった。
しばらくするとジーコさんが大きいお腹を揺すりながらやって来た。
「碧さ~~~ん! 大変!大変!! 聞きました??」
「どうしたんですか!!」
「勇者・茜様が召喚されたのですよ!!」
「「「エーー!!」」」
俺と智弘、将太は同時に驚きの声を上げた。
俺たち3人は交互に顔を見合った。
「だ、だって、茜ちゃんは殺されたはずでは!?」
「ワイハルト帝国が召喚したそうですよ!!
町はその話で持ち切りですよ! 立ち話も何なんで、私の部屋へ」
部屋に着くと例によって大きくゆったりとしたソファーを勧められた。
着席をすると秘書らしき女性が飲み物とお菓子をテーブルに用意をしてくれた。
「碧さん! 茜様がご無事で何よりです!!」
ジーコさんが対面に座っているのだが身を乗り出して語りかけてくる。
「確かな情報なんですか!!
本当に茜ちゃんなんですね!!」
「リーパスもこの話で持ちきりですよ!!
多分、世界中がこの話で賑わっていますよ!」
本当なのか! 本当なのか!! 嬉しい!嬉しい!!
嬉しくない訳が無い!!
心の中に覆われていた黒い霧が一気に晴れた気分だ。
死んだと思った茜ちゃんが生きていたのだから。
が、その話しを信じて良いのだろうか?
ハルフェルナに召還されてからと言うもの、どうも疑り深くなってしまっている。
「ご存知だと思いますが、今、ワイハルトはクリムゾン魔国と戦争中なのです。
クリムゾンに押されている今、茜様の力を借りてクリムゾンを倒そうとしているのでしょうね。
他にも異世界から何人か召喚したようですし、茜様を軸に決戦になるかと思います」
「また召喚か・・・・・・・」
思わずつぶやいてしまった。
また、どこかで100人単位の人間が生贄にされたと言うことだ。
ハルフェルナでは人間の命は、どこまでも安い。
いや、俺たちの世界も人の命ほど安い物は無いのかもしれない。
かつて多くの為政者たちは『人間の命は地球よりも重い』と言ったが、人類の歴史は戦争の歴史、虐殺の歴史だということは誰もが知っていることだ。
斯く言う俺も自分達が生き残るために平然と多くの人間を殺めてきた。
言えた義理ではないな。
「先ほどから気になっていたのですが、こちらのお二人は、どういった間柄なのでしょうか?」
とミリアと龍之介の方に向け手の平を上にした。
「背の高い騎士様と魔道師様は、いかがされたのでしょうか?」
ジーコさんは不思議そうな顔をしながら尋ねてきた。
やはり、則之たちより俺たちの方が先にリーパスに着いたようだ。
則之、七海には合流地であるリーパスに着いたらジーコさんを頼るように言っておいたのだが二人の事を尋ねてくるという事は、まだ到着していないということだ。
「あっ、それは将太がゾンビに為りかけたので俺たちは霊峰へ向かうことになったので二人とは別行動を取りました。
多分、数日すれば彼らもリーパスに到着するかと」
「聖女様がゾンビに?」
「もう、今は大丈夫ですよ。
龍の爪と龍の涙を手に入れましたから」
「エ!!どうやって手に入れたんですか!!
龍なんて、その辺にいるはずが無いので手に入らないですよ!!」
一瞬、部屋に妙な空気が流れた。
「実は、こいつ・・・・・龍なんですよ」
と龍之介を指差す。
「エーーーー!! そんな馬鹿な!!」
身を乗り出していたジーコさんが大袈裟にソファーに飛び下がる。
「り、り、龍はクリムゾン魔国に数頭しかいないと聞いていますが・・・・・・」
ジーコさんは目を大きく見開き龍之介を眺める。
「おじさん、僕、龍だよ。ここで龍の姿に戻ろうか?」
「止めろ! 部屋が壊れる!」
龍之介に素っ気無く言う。
「あ、あ、碧さん、本当なのですか?」
やはり信じられないようだ。
マジックランドセルから将太を助けたときに余った龍の爪を取り出しテーブルの上に置く。
「これが龍の爪ですよ」
「エ!! こ、これが!」
ジーコさんは爪を手に取りしげしげと見る。
「私も実物を見るの初めてなので、分かりかねますが、碧さんがおっしゃるなら本物なのでしょうね。
ロッシ兄さんなら、分かるかも・・・・・いや、喜んで研究しそうですね。
これ、売って頂けますか? 言い値で買い取りますよ」
「申し訳ないですが、ゾンビ化を防ぐ希少アイテムなので譲る事は出来ないです。申し訳ございません」
智弘が会話に割り込んできた。
「そうですか~」
ジーコさんがガックリと肩を落とす。
「なぁ~龍之介! お前の爪、伸びるんだろ?
俺たちに提供してくれないか?」
「エ!? でも、父ちゃんから『むやみに部位を人間に渡すな!』って言われているから・・・・・」
「そうか・・・・・ お前が食べたことの無いカレーを食わせてやろうと思ったんだけどな~
『本格インドカレー』とか『タイ式グリーンカレー』とか『スープカレー』というのもあったな~」
ごっくん!
龍之介の生唾を飲み込む音が聞こえた。
そして、口の周りを袖で拭きながら
「ホント? ホント? お兄ちゃん!!」
目を輝かせながら俺を見つめる。
「龍之介が食べたいなら作ってもいいんだけどな~」
「うん、分かった。爪なら伸びるからお兄ちゃん切って!!」
「おお、そうかそうか! いくらでも作ってやるぞ! 牛丼ってのもあるぞ!!」
「ホントホント!! やったーーー!」
ふっ! ガキはちょろいぜ!!
「お主、『悪』じゃな~~」
とミリアが冷たい目で俺を上げる。
「そんなこと言っていいのかな~ ミリアさん!
俺のスキルで異世界からの食料品を取り寄せることが出来るんだぜ!
特に俺たちの世界の『甘味』はハルフェルナでは味わえない物ばかりなんですが・・・・
お取り寄せしなくて良いということですね」
「すまんかった! 妾が悪かったのじゃ!」
と俺に縋ってくる。
ふっ! 女もちょろいもんだぜ!
俺のスキルに掛かれば女でもガキでもイチコロですぜ!
「アオくん・・・・・」
と調子に乗っていたとき将太の憐れむ声が聞こえた。
コンコン!
ドアを叩く音が響き、ゆっくりとドアが開き受付の女性が入ってきた。
「会長! 大統領がお見えになりました。
なんでも白田様に急な用件ががるそうです」
「え!?俺に?」
俺たちは思わず顔を見合わせた。
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