第256話 勇者・茜!! 召喚!!
コンコン!
ドアを叩く音が響き、ゆっくりとドアが開いた。
「会長、大統領をお連れ致しました」
ジーコーさんは、さっと立ち上がりドアの方へ向かう。
大統領の後ろには前にも見た女性秘書官さんと見たことの無い50代前くらいの男、その後に衛兵らしい騎士が二人いた。
俺、智弘、将太も立ち上がり礼をする。
ミリアと龍之介は知らん顔をして座ったままだった。
「ミリア、龍之介! お前たちも起立しろ!」
龍之介は、「うん」と言うとすぐに立ち上がった。
「なぜ、妾が起立しなければいけないのじゃ!」
「いや、お前、そういうこと言うなよ! 空気を読め!
いくらお前がお姫様と言ってものな、いい女は空気を読んで、周りに合わせるんだぞ!
そんなことじゃジルドに恥をかかすぞ!」
と言うとサッと起立し礼をした。
ふっ!ちょろいヤツだ!
ジーコさんは、「こちらへ」と急遽作った上座に大統領を案内し全員に着席を促した。
「お帰りと言うべきかな?」
大統領は俺たち全員の顔を見ながら言った。
『お帰り』の言葉は優しく、暖かかった。
俺たちを同胞と思ってくれているのだろう。
大統領を代表とするオリタリア政府にも色々と打算はあるだろうが、少なくとも命を狙われる心配は無さそうだ。
「黒木殿と七海殿が見当たらないのだが?
それに二人、お子さんがいるのだが?」
と大統領は疑問を投げかけてきた。
「今、あの二人とは別行動を取っているのですよ。
リーパスで合流する事になっているので、何れやって来ると思います。
そして、この子供二人なんですが・・・・・」
俺は智弘の顔を伺うと、一瞬躊躇しながらも頷いた。
「驚かないでくださいね。いいですね。危険はありませんからね!」
一呼吸置いて
「この男の子は龍の子供で、女の子はヴァンパイアです」
といった瞬間、立ってい女性秘書官が大統領の腕を無理やり引っ張り椅子から引き摺り下ろし。お付きの騎士が大統領の前に立ちはだかり抜刀した。
俺は両手の平を前に出し
「大丈夫です!! こいつらは俺たちの協力者です!! 危険な事はしませんから! 大丈夫です!!」
「止め止め!! 痛いな~ 秘書官、もっと丁寧に出来ないのかね?」
大統領がお尻を押さえながら言った。
「も、申し訳ございません」
この秘書官さん、只者じゃないぞ!
女で大の男を一瞬で引き摺ることが出来る馬鹿力!
秘書兼ボディーガードといったところだろう。
「君たち、前にも言っただろ! 白田殿は勇者・茜さまの兄なんだよ!
私に危害を加えても何一つ得なんて無いだろ!
彼らが、どれくらいオリタリアに協力してくれているのか知っているだろ」
と後ろを振り向き、秘書官、騎士に注意を促した。
そして、俺たちの方へ向き直し
「いやいや、すまないね~ 君たちに剣を向けてしまい」
「いえ、護衛のみなさんも、これが仕事なのですから」
智弘が答える。
「で、一体、なぜ、龍とヴァンパイアと旅することになったのだい?」
大統領の問いかけに、一連の経緯を説明した。
「緑山殿がそのようなことに・・・・大変だったね。
クラスメイトと再会できたのは喜ばしいことだね。うんうん、良かった。
それにしても、なんだか凄いパーティだね。
転移者にリッチに龍にヴァンパイアか・・・・・
我が国とだけは敵対しないで欲しいものだね」
と笑いながら大統領は言うものの、半分は本気なのだろう。
「しませんよ~
大統領閣下は茜ちゃんのために、紅姫打倒に力を貸してくださるのですから!
ジーコさんを初めアルファンブラ家、マイソール家のみなさんからも良くして頂いているのですから。
僕ら日本人は『恩を仇で返す』ような恥ずかしい教育はされていませんから。
恩は倍にして返さないと罰が当たりますからね」
「嬉しい言葉だね!
我々オリタリア人も諸君らの情に報いないといけないね」
と大統領はジーコさんの方を見るとジーコさんも「うんうん」と黙って頷いた。
「それで、今日ここにきたのは」
と言うと大統領は真剣な眼差しに変わった。
「諸君らも知っていると思うが、ワイハルト帝国が勇者・茜さまを召喚したそうだ」
やっぱり、この話か。
それ以外に急用など無い事は想像に難しくは無い。
「白田殿にワイハルト帝国への使節団の一員になって欲しいのだ」
「え!! 俺がですか? なぜ?」
あまりの事に驚いた。
「大統領」
智弘が右手を上げ発言をした。
「大統領も『勇者・茜』に疑問を抱いておられるのでしょうか?」
大統領は頷くと
「茜さまが、ハルフェルナに来て2000年。
500年前に紅姫に倒されるまでは、ほぼ100年に一度くらいの頻度で、こちらにいらした。
それがいきなり、降臨されたというのも・・・・・解せんのでね。
実際は倒されていなくて負傷を癒すのに500年掛かったのか・・・・それとも偽物か。
過去にも何度か偽物の茜さまも居たことだし政府や議会でも意見が割れていてね」
「なぜ、そんなに勇者・茜の件が重要なのですか?」
「国と国との同盟に関わることなのだよ。
先にも言ったけど今まで偽物の茜さまは数名いてね。
勇者・茜を擁する国家と言うのはハルフェルナでは大きな意味合いを持つんだよ。
『勇者・茜に認められた国』それは正義の旗印を持つということだからね。
ガルメニアと争っている今、後顧の憂いをたつためにも一刻も早くワイハルトと同盟を結ぶ派、今少し慎重に審議をしてから同盟を結ぶ派の二つに分かれていてね」
「なるほど」
智弘が話しに入ってくる・・・・・
「おい、何が、なるほどなんだよ!」
「大統領は、今回召喚された『勇者・茜さま』が偽物と思ってらっしゃるのでしょ」
と言うと黙って頷いた。それを見た智弘は続けるのであった。
「偽物を擁し奉る国と同盟を組むことは出来ない! ということなのでは無いでしょうか」
「おお、流石だね! どうも今回の茜さまには不自然さを感じるのだよ」
「それで、勇者・茜さまの兄である碧に見てきて欲しい、という依頼だと推測するのですが」
「おお! 察しがいい。 さすが、BLパーティーの頭脳だね」
ぐは!大統領までBLパーティー呼ばわりですか!
「至急、ここにいる外務大臣のチーフテンと一緒にワイハルトへ行って勇者・茜さまが本人か確かめに行ってもらいたいのだ!」
「至急ですか・・・・・」
俺は少し渋った。
則之と七海のことが気になっていた。
「大統領、実は則之たちとリーパスで合流する事になっているのです。
合流してからではダメでしょうか?」
「すまないが急を要することなので、一刻も早く向かって欲しいのだ」
『勇者・茜』のことも気になるが、将太のことが解決した今、則之と七海たちのことが気になって仕方なかった。
今、どこにいるのかも分からない。
何も無ければナミラーを出てリーパスへ向かっている途中なのでは無いだろうか?
則之がいればたいていの魔物や夜盗などは問題ないはずだ。
が、あの魔族たちに襲われたら一溜まりもない。
一匹はマジックランドセルに捕らえたとしても老人の魔族、おっぱいお化け、ガリガリ悪魔。
他にも魔族の女たちもいる・・・・・・
早く、合流するべきではないか?
七海を最優先するべきなのでは無いか?
と考えていると幼女・智弘が俺の袖を引っ張りながら言った。
「この依頼、受けよう」
「え!?」
「どのみち茜さまを確かめないとダメだろう。
俺たちが、どかどかとワイハルトへ行っても茜さまに会うことはできないが、オリタリア政府の使節団の一員なら直接、合間見えることが出来るだろう?
良い申し出たと思う。
碧が何を心配しているか分かるけど則之がいれば何とかなると思う。
それに井原もいれば・・・・あいつは頭がいいから色々と機転もきくはずだ」
「だが・・・・・」
「俺たちでないと茜様が本物か確かめられないぞ。
碧だって気になるだろ!」
「確かにそうだが・・・・・」
「白田殿の友人たちはオリタリアで責任を持って保護しよう。
そうすれば安心してワイハルトへ向かうことが出来るのでは?」
大統領からありがたい申し出があった。
一瞬、間を置き
「分かりました。
クラスメイトたちの事をよろしくお願いします」
と大統領に頭を下げてお願いをした。
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