第242話 チェガーデ


装甲車で揺られること一日、チェガーデという中規模の町で休みを取る事になった。

チェガーデはガルメニアとイズモニアの境に位置し、どちらの国にも属さない中立の町だったそうだ。

が、今はガルメニアが次の侵攻作戦のための中継地点&物資の集積地として占拠している。

中立の町を占領するなんて・・・・・やっぱりガルメニアは悪の大国と考えても良さそうだ。


装甲車から降り最初に目に飛び込んできたのは、町の至るところには争い合った後が残されていた。

石で出来た家々は大小の穴が、教会は崩れ落ち、激戦、いや、一方的な蹂躙だったのではないだろうか?

そして鎖で繋がれている男の亜人たちが連行されていた。

犬や猫の獣人は無論、エルフ、ドワーフの人たちが一列になり連行されていた。

亜人たちは一様に下を向き、目には生気が無く、体には多くの傷跡があった。



キャー、止めて!

誰か助けて!

止めて、止めて!


うるさい!!


ピシャン、ピシャン!


と頬を叩く音が響く。


声の方を見るとコリレシア兵が嫌がる女性を引き摺り家の中へと消えていった。


「兵隊さん! 乱暴を止めさせたください」


「小僧、何言ってるんだよ! これから俺も楽しむんだよ! へへへへ」


コリレシア兵が下卑た笑いを浮かべる。


「市民を守るのが兵士の役目じゃないんですか?」


「なぜ、敵国の市民を守らないといけないのだ!

 男は奴隷か処刑! 女は犯す!」


「そんなことを言わないでください! チェガーデは中立の町ですよ。

 民間人は関係無いじゃないですか!

 軍隊は弱者を守るためのものではないのですか?」


「なに青臭い事を言っているんだ!

 これが戦争だ! 弱いから、こういう目に会うんだよ!

 それが嫌なら占領されないようにすればいいだけだ。

 戦いに負けるという事は、こういうことだ」


コリレシア軍人が冷たく言い放つ。

なんて酷い軍隊なんだ!

女性が連れ込まれた家ヘ向かいドアを開けようとした瞬間、話しをしていた兵士に襟を掴まれドアから引き離し投げ飛ばされ腰に付けていた銃を抜き言い放った。


「小僧! 殺すぞ!!」


「それでも軍人ですか! 丸腰の民間人に銃を向けて」

(こ、こ、怖い)

震えながら精一杯の虚勢を張った。


パーン!!


僕の足と足の間の地面に銃弾がめり込んだ。

火薬の臭いが辺りに漂う。


「小僧! 貴様が召喚者じゃなかったら、この銃弾はお前の眉間を打ち抜いていたぞ!」


どこの軍隊でも、こんなものなのだろうか?

コリレシア軍人が酷いのか、この世界の人間が酷いのか?

いや、どちらの正解なのかもしれない。

僕らがハルフェルナに来て2000年、ハルフェルナ人はことを繰り返している。

強者は弱い者から奪い、虐げる。

人間とはそういう生き物なのかもしれない。

この世界は人間と悪魔が僕らの世界と逆転しているのだろうか?

クリムゾン魔国にいる魔族の人たちの方に好感が持てるのは何故なのだろうか?

あの人たちは悪魔と言われる恐怖の対象であるはずなのに。


いや、僕らの住んでいる地球も悪魔と言われる種族がいないだけで同じかもしれない。

それは歴史が証明している。

人類は覇権を求め、己の欲望を求め自己の勢力、生存圏を伸ばすために幾度と無く争いを繰り返してきた。

残酷、残虐な事を繰り返してきた。

厭きることなく同じ過ちを永遠に永遠に。





町の北側から装甲車が驚くくらいのスピードで入ってきた。

ハッチが開くと


「敵襲!! 襲撃を喰らった! 空からの攻撃だ!

 トラックが数台やられた!

 敵がこっちへ来るかもしれない」


と一人の兵士が大声を上げた。

続いて2台目3台目の装甲車が町に入ってくる。

装甲車は砂埃を被りカーキー色の車体が灰色になっていた。


「空と言うのはどういうことだ!? 飛行機があるのか? どこの軍だ? オリタリアか?」


辺りにいた上級指揮官らしき人物が装甲車から降りてきた男に尋ねる。


「上空から空襲を受け、一撃の後に飛び去って行きました」


「飛行機だったのか?」


装甲車から降りてきた兵士が答えると矢継ぎ早に指揮官らしき男が尋ねる。


「突然の奇襲で正確な事は分からないのですが蛇のような生物が上空を飛び去っていきました」


「蛇? 蛇だと言うのか!! この世界は蛇が空を飛ぶのか!!」


「そこまでは分かりかねます。 

 ただその生物らしき物体は翼があるようには見えませんでした!」


「う~~む」

と指揮官らしき男はしばらく考え込むと。


「こちらに向かってくる可能性はあるのか?」


「西へ、オリタリア方面へ向かったのは確認しました!」


「オリタリア軍の仕業か・・・・・」


ドゴーーーン!! 


そのとき、町の西側ぁら爆発音とともに火柱があがった。


「侵入者です!」


一人の兵士が走りながら指揮官らしき男に伝えると銃声が響き、再度、ドゴーンという爆発音が聞こえてきた。


「敵は何人だ! どこの軍だ! オリタリアか!?」


「一人です! たった一人であります!!」


ダダダダダン!

ダンダンダン!


爆発音のあった方向から銃声がなる。


「何者だ!!」


「黒い執事のような格好をしている男がたった一人で侵入してきました!

 魔法を使い攻撃してきました!」


「たった一人だと!! 何者だ!! 撃退しろ!!」


指揮官の周りにいた兵士達が西側に銃器を手にし走っていく。


ダダダン


と銃声の音が響き


ドカーン! ドガーン! ドドーン!


という爆発音が響く。

戦闘音は少しずつ確実にと近づいてくる。

遠くに黒い服を着た男の姿を目視できる距離まで近づいてきた。

男はファイヤーボールらしき火球をコリレシア兵へ向け次々と放つと命中した兵士は黒焦げになり絶命した。

コリレシア兵が男の前方に立ちはだかりマシンガンを構え発射するが男に当たる直前に魔法障壁に阻まれ弾丸は足元へボロボロと落ちてゆく。

男はコリレシア兵の攻撃を気にすることなく、ゆっくりゆっくりこちらへ歩いてくる。


「異世界の醜き豚ども! 貴様達の罪は死を持って償え!! ファイヤーボール!」


聞き覚えのある怒声が耳に届いた。

(は、伯爵さん!?)


なおもコリレシアの兵士たちは応戦するが伯爵は魔法障壁を張り銃弾が伯爵の元に届く事は一切無かった。

例え銃弾が届いても『強欲の魔王』の二つ名を持ち、不死身の再生力を持つ伯爵に致命傷を与えることは不可能だった。


「化け物だ! 逃げろー!」


コリレシア兵もそれに気づき伯爵さんに背を向け逃げ出し始めた。



「ファイヤーボール! ファイヤーボール!!」


伯爵さんは逃げるコリレシア兵に情け容赦なく矢継ぎ早に魔法を撃ちまくる。

伯爵さんらしくない!

どうしたんだろう。

背を向けて逃げる相手を後から撃つなんて。


「伯爵さん!! 止めてください! 相手は逃げていますよ!」


僕の声を聞いた伯爵さんの顔は一瞬『?』が浮かんでいた。

そして、僕を探し当て歩きながらやってくると


「博士? 博士ではないですか!! 何故、ここに? 姫様は?」


「僕だけ再度ハルフェルナに召喚されてしまったんですよ。

 多分、今頃、元の世界では大騒ぎになっているかと・・・・

 ひょっとすると、僕を探すために、こちらの世界に来るのを躊躇っているかもしれません」


「再度、召喚されるとは博士は何か特別なモノを持っているのかもしれませんね」


と伯爵さんは優しい笑みを浮かべた。


「僕がですか? ただの錬金術師ですし、特別な力を持っているわけでもありませんから、運が悪いだけだと思いますよ。 

 何よりも白田さんを初めみんなに心配をかけてしまったのが・・・・・」


「積もる話は後にして、この町の異世界人を排除しておきましょう」


伯爵さんはその後も情け容赦なくコリレシアの兵士を一方的に嬲り続けた。

そして死体を一体残らず焼却していった。


「伯爵さん! 何故、そんなにもコリレシア兵士に拘るのですか?

 何かあったのですか?」


魔族の中でも温厚で紳士で知られる伯爵さんがこんなにも殲滅に拘ったのが不思議でならなかった。

けして残虐な事を好まない伯爵さんが何故こんなにも拘ったのか。


「この兵士たちの心はどこまでも醜いのですよ。

 チェガーデの町で何をしたか?

 いや、チェガーデ以外の町でも婦女暴行、快楽のために罪のない者を殺していたのですよ」


ついさっきコリレシア兵が行っていた行為を思い出していた。


「私としては見過ごすことが出来ないのでね。

 こやつらは放っておくとたちの邪悪なオークになり、死んだらゾンビ、そしてゴーストになるのでね。

 心優しい姫様の手を煩わせることなく処分しておこうと思いましてね」


確かに伯爵さんの言うとおりだ。

あの人は優しすぎるところがあるからな~ と顔を思い浮かべていた。

程なくして伯爵さんはコリレシア兵を一人残らず排除した。

捕らわれたチェガーデの人たちを解放し、怪我をしている人のために回復ポーションを慌てて作った。

大魔王さんから貰ったマジックバッグに素材を山のように入れておいたのが役立った。


「回復ポーションを作りました! みなさん、これを使ってください」


「ありがとう!」

「ありがとう、お兄ちゃん!」

「もっとあるかい?」

「こっちにも頼む!!」


あっという間に人だかりになった。

僕が生産し伯爵さんがみんなに配った。

配り終えようとした頃、小太りの男性が屈強そうな男を数人連れやって来た。

周りの男達はこの男の護衛のようだ。


僕が挨拶をしようとしたとき、伯爵さんが僕の腕を取り装甲車に向け走り出した。


「伯爵さん! 挨拶が・・・・・」


「私は魔族なので、これ以上目立つ事は控えておいた方が良いかと」


伯爵さんはエンジンの掛かっている装甲車に飛びのり、僕を引っ張り上げ中に入った。


「博士、運転は出来ますか?」


計器類は沢山付いているがハンドル、アクセル、ブレーキなどがあり普通の車と変わりは無いようだ。


「何とかなりそうです」


運転席に座り、伯爵さんの指差す方向へ急いで装甲車を走らせチェガーデの町を後にした。


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