第243話 反省会と新兵器


「失敗だったな~! 石が小さすぎたか」


「仕方がないだろ。

 まず、量が少なすぎた。

 上空2000mから地上の標的を自由落下で狙うなんて無茶だったな。

 それに装甲車などの現代兵器ではなく騎兵を狙っての物だったからな」


智弘はマジカルなんちゃらを弄りながら答えた。

片手で掴み、もう一方の手でUの字に折り曲げる。

そして押さえている指を離すと勢いよく元に戻ろうとする。

それを何度も繰り返していた。


霊峰から龍之介が龍の姿に戻り全員を背中に乗せてもらい、オリタリアへ戻る道中に遭遇したコリレシア軍の装甲車とトラック部隊に奇襲を仕掛けた。

則之が剣の練習のときに砕きまくった石を拾い集めていた物を使ったのだが、今回はあまり成果を上げることは出来なかった。

トラックに命中すればある程度は有効だったが装甲車を貫くほどの威力はなかった。

と、街道沿いに小さな丘で食事を取るための休憩がてらに反省会を開いていた。


「やっぱり、1mサイズのものでないと十分な威力は発揮できないかもしれないな」


「高度がありすぎたのも原因かもしれないな」


今度はマジカルなんちゃらを使い地面に数字を書きながら何やらと計算をしながら話した。


「うん? 高度があれば威力は増すと計算していたじゃないか」


「高度があまりにも高すぎて横風を受ける影響を考慮していなかったよ。

 横風によって自由落下のエネルギーを100%有効に利用できなかったんだよ」


「なるほど、横風か・・・・・・

 何にしても小石では歩兵や騎兵の牽制ぐらいにしかならないのだろうな」


「高度1,2000mから人間に直撃させるのは困難だからな。

 しかも飛行しながら当てるなんて神業だ!

 よほど大量にばら撒かなければたいした戦果は期待出来ないな」


「これからは1mサイズの岩をコレクションしておくよ」


「ねぇ~お兄ちゃん、小さいお姉ちゃん! ご飯にしようよ! カレー!カレーーー!!」


振り返ると龍之介がテーブルに用意しておいた食事の催促をしていた。

龍之介はあれ以来カレーが大のお気に入りになり、食卓には常にカレーを出すようになった。


「アオ君、トモ君も早くご飯にしよう」


龍之介の隣にはすっかり体調が良くなった将太が座っていた。

将太の反対側にミリアが座り、その正面に俺が。その隣に智弘が座った。

将太は以前よりも明るくなったのでは無いだろうか?

ゾンビ化の恐怖から逃れた安堵なのか、人として生きている事を諦め、何かが見えたのかもしれない。

それは本人しか分からない、いや、本人さえも分かってはいないのかもしれないが、俺には将太が無事であったことが何より嬉しかった。




「もう二人はすぐにあこぎな商売の話か物騒な話ししかしないんだから」


将太が少し笑いながら言う。


「そうは言うが、これから本格的なドンパチをするしな~ 智弘」


智弘に目で合図を送ると。


「そうだな。

 フェルナンドの後に紅姫という超大物が控えているから、少しでも戦いを有利に進める方法を探しておかないとな。

 ということで、これから食事のたびにペカーラを飲んでもらう」


「え?何故? ペカーラを飲まないといけないの?」


と将太は聞き返した。

ペカーラとは謎の異世界人・ゲンガーヒ・ラーチがハルフェルナで生産した炭酸で作った飲料水だ。

智弘は現代世界で誰もが知っているペカーラのネーミングでラーチを自分たちと同じ世界、しかも近い世代の地球人と推測をしていた。


「ペカーラじゃなくて空になったペットボトルが必要なのさ」


「空のペットボトル?」


「そう。ペットボトルにガソリンを詰めて爆弾代わりに使うのさ」


「あ~そうか、ガソリンを大量に詰めて火炎瓶にするんだね」


「いや、違う。

 ガソリンで火炎瓶には向かないんだよ。

 火炎瓶みたいに口に布を詰めて火を点けるとする。

 点けた瞬間、燃え上がって投げる前にこっちがお陀仏になる。

 火炎瓶を作るとしたら灯油でないと危険なんだよ」


「それなら灯油を入れておくの?」


「いや、ガソリンさ!」


「え?だって、火を点けた瞬間に燃えて危険なんでしょ!?」


「そう。だから火を点けなければいいのさ」


「え?どういうこと?」


「ペットボトルにガソリンを入れて燃えてるところに投げ込めばいいのさ」


「なるほど~ トモ君は頭がいいね~」


「こういう風に作るんだ」


と言うと智弘は一つ製作に取り掛かる。

俺はガソリン入りのドラム缶と灯油ポンプを取り出した。

空のペットボトルの底にガソリンを少量入ただけだった。


「え?たったそれだけ? 沢山入れないと爆発力ないんじゃない?」


「いや、そうじゃないんだよ。

 量が多い方が燃えるが爆発力は少量の方が有効なんだよ。

 こういう風にしてな」


と言うと智弘はキャップを閉め振り出した。


「ガソリンは気化させたほうが爆発力は高いんだよ。

 そして、こうすると、碧、石ころ残ってるか?」


マジックランドセルを逆さにし少し残っていた石ころを出す。

智弘はペットボトルのキャップを空け、小石を入れキャップを閉めると再度振った。


「こうすると火の中に投げ入れた瞬間、爆発を起こしまわりに石が飛び散る。

 重武装の騎士相手には、どこまで有効か分からないが歩兵やコリレシア兵に対しては期待出来ると思う」


「うわ~トモ君、極悪~」


「だからこれから食事のたびにペカーラを飲んでもらう事になる」


智弘はリーパスでペカーラを見たときに思いついたようでアルファンブラ商会のジーコさんに都合してもらっていた。


「え~~僕あまり好きじゃないんだよな~

 武器として使うなら中身を捨てちゃえば?」


「中身を無駄に捨てると『食べ物を粗末にするんじゃない!』って碧が怒る!!」


「あ~なるほど~」


「お姉ちゃん、この黒い水、美味しいね~ お姉ちゃんの分まで僕が飲んでもいいよ~」


と言うと龍之介はペットボトルを両手で持ちながらゴブゴブと一気に飲んだ。


「おい、龍之介! 炭酸が入っているんだぞ! 大丈夫か?」


と聞くと満面の笑みで


「うん? このシュワシュワするヤツ? 喉が刺激されて気持ちいいよ」


さすが種の頂点に君臨する龍ということなのだろうか? 

炭酸くらいではビクともしない喉を持っているようだった。


そのとき、街道のオリタリア方向から4人ほど馬に跨りやって来た。

街道沿いの丘は休憩するのに都合が良い。

周りに何もないと魔法攻撃でもなければ襲撃されにくい。

魔法も距離があるほど威力も命中精度も低くなる。

数人のパーティーを襲うのに極大魔法を打ち込む物好きはいないので休憩するのにうってつけのポイントだった。


馬に跨った4人が近づいてくると騎士という出で立ちではなく、マントを羽織った旅人のような女性ばかりのパーティーだった。

先頭に色気たっぷりのバインバインのお姉さんが。

その後にはセミロングと片目を隠したボブのこれまたバインバインの美しいお姉さんが並び。

最後尾には小柄であどけないショートカットの少女が付き従っていた。

4人はこちらにやって来ると先頭の女性が馬から折りた。


「隣でご一緒させていただいてもよろしいでしょうか?」


と、その仕草は上流階級の貴婦人のようだった。


「どうぞ、どうぞ」


と将太が笑顔で返答する。


おい、将太、自分の体調が良くなって嬉しくて仕方ないのは分かるが、いくらなんでも無防備すぎるだろ。


あまりにも軽装で帯剣しているような雰囲気ではなかった。

魔道師にしても杖やロッドを持っているようには見えなかった。


女性4人の旅にしては、あまりにも軽装過ぎる。

その4人を見たとき、違和感しかなかった。

腕に自信があったとしても無用心すぎるのでは無いだろうか?

全員が格闘家なのかもしれないが、その腕はどうみても細い。

雰囲気から前衛に出て戦う戦闘職には思えなかった。



智弘が俺の脚を幼女の短い足で蹴る。

智弘からの合図だ。やはり不審に思ったのだろう。


「お姉さんたちは、どちらに行かれるのですか?」


将太が笑顔で尋ねると年長と思われる女性が


「チェガーデを経由してナミラーへ向かう予定です」


チェガーデというのはオリタリアの首都リーパスの南東に位置し、オリタリアと旧イズモニア皇国の国境に接し、どちらの国にも属さない独立した町であった。


「僕たちもナミラーへ向かっている途中ですよ」

と将太が笑顔で答えると龍之介が・・・・・


「お姉さんたち、良かったら僕らと一緒にご飯にしようよ~~」


おい、龍之介! お前、無邪気すぎるだろ!! 俺と智弘の緊張感が分からないのか!!


「あら~~僕、いいの?」


と一番年長に見えるお姉さんが俺の顔を見る。


幼女・智弘、ジャリのミリア、ガキンチョの龍之介、緑髪の美少女の将太。

・・・・・・どう考えても俺がリーダーに見えるよな~

龍之介が「ダメなの?」という目で見る。

将太も「いいよね!」という目で俺を見る。

うう!『ダメです!』とは言えない雰囲気になってしまった。


「あ、はい・・・・ど、どうぞ」

龍之介と将太の哀願する瞳に負けてしまった。


「うぐっ!」

そのとき、となりの幼女が俺の爪先を思いっきり踏んだ。


「お姉さん、カレーって知ってる? 僕、昨日、初めて食べたんだけど、こんなに美味しいものがあるんだね。

 ビックリしたよ~~」


「あら~ そんなに小さいのに。辛くないの? それとも甘口なのかな?」


「違うよ~ ピリッと辛いのがいいんだよ~~」


「お姉さんもカレー、大好きよ。

 ナミラーに美味しいカレー屋さんがあるって聞いて、みんなで行ってみようという事になったのよ」


智弘の表情が曇る。


「ア! そのカレー、アオ君の作るカレーの事じゃないかな?

 ナミラーではBLカレーと言われて大人気だったんですよ」


と将太が言い終わった瞬間、穏やかな雰囲気だったのが殺意を含んだ空気に一変した。



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