第237話 怪獣大戦争


則之のくじら君の影に隠れがちだが、まぐろ君も名刀のはずだ!!


「そんな直刀でドラゴンの鱗を貫けるのか? 

 並みの剣ではドラゴンに傷つけることさえ叶わぬ!」


「このまぐろ君の兄弟刀は異世界のアニメにしか出てこないズガンダリウム合金を切断したんだぜ!

 女神さま曰く『何でも斬れる』そうだ!

 『何でも斬れる』のだったらドラゴンの鱗くらい楽勝に斬ってくれるはず!!

 俺は女神さまを信じるぜ!」

 、

「アニメというのは分からんが、で、どうするのじゃ?」


「ミリア、全速力で俺をあの一番でかいドラゴンの首の少し横に目掛けぶつけてくれ!」


「お主!何を考えておるのじゃ! 無茶じゃ!」


「アオくん、もういいよ。無理だよ!

 あんな巨大な生物に勝てるわけないよ。

 僕を置いて早く逃げて。

 アオくんたちまで危険な目に合わせるわけには行かないよ!

 僕を置いて逃げて! 思い残すことなんてないから逃げて!

 お願い!! 逃げて!! 」


声の方を振り向くと智弘たちも寄ってきていた。

将太は体力が少なくなってきたのか辛そうに声に出した。


「ここで将太を置いて逃げたら、俺の人生は思い残すことばかりになっちまう!!

 逃げ出わけがないだろ!!」


ううん と首を振りながら将太は続けた。


「もう十分だよ!

 アオくんたちから沢山色々のモノを貰ったから、僕は幸せだったよ。

 だからお願い! 僕を置いてみんなで逃げて!

 お願いだから! 逃げて! 逃げて!! 逃げて!!

 お願いだから!! 僕を置いて逃げて!!」


将太の声は徐々に大きくなり最後は叫びに変わろうとした時


ガブ!


「眷属化!」


ミリアが将太の腕にいきなり噛み付き血を吸い魔法を掛けた。


「将太! 少し静かにしておれ!」


一瞬、何がおきたか分からなかったが、将太は以後、大声を出すことはなかった。


「ナイスだ! ミリア!! 気がきく吸血鬼だ!」


「龍の爪と涙を飲ませれば眷属化も消えるから安心せい」


「さすが未来のバンパイアの女王さま!! アフターケアも万全だな!」


とサムアップをするとミリアもサムアップで答えてくれた。



「で、お主、先ほどの作戦を実行するのか?」


「あのデカイのを倒したら他の奴らも引くんじゃないか?

 一発、奇襲をかける。

 それしか俺たちがドラゴンを倒せる方法は無い」


「無茶じゃ!」


「ミリアが俺をドラゴンの首の少し横を外さなければ切断で斬るはずだ」


「そんな簡単にいくわけ無かろう!」」


「問題ない! 大丈夫だ!」


「大丈夫なものか!!」


「俺はミリアを信じている!

 いいからやってくれ! 時間が無い!」

 

「お主・・・・・・・・」


「もし、俺に何かあったら将太たちを頼む」


ミリアは少しだけ目を瞑ると少し躊躇しながら答えた。


「・・・・・・・分かったのじゃ」


「行くぞ! 頼む! ミリア!」


「お、おう!」


智弘と将太を残しミリアにぶら下がりながらドラゴンたちの元へ向かう。

なおもドラゴンたちは子龍に容赦なく攻撃を加えている。


惨い。

いじめ、リンチだ。

とある光景を思い出していた。

将太が小学校の頃にいじめを受けている光景だ。

複数のいじめっ子が将太を殴りつけ、蹴飛ばし、倒れたら全員で踏みつけるように嬲っている光景を。

将太は亀のように体を丸め抵抗せずに嵐が過ぎるのを待っている光景だ。

幼稚園から一緒にいたと言っても、常にクラスも一緒だったわけではない。

将太のクラスの女子が俺を呼び、駆けつけるまでリンチは続いた。

駆けつけたといっても俺は特別ケンカが強いわけでもない。

多勢に無勢。奴らからしたらもう一羽カモが増えたにしか過ぎない。

俺も殴られ散々踏みつけられた。

俺に出来た事は将太がそれ以上、踏みつけられないように上に被さるだけだった。


その時、俺たちの世界には神がいない事を知った。


ヒェ~~~ン!

ヒェ~~~~~~ン!!


子龍の鳴き声がカルデラに響く。


「吐き気がする!」


ミリアにぶら下がりながら声にしていた。


「遠慮するな! 全速力でぶつけてくれ!」


ミリアは加速し最も大きいドラゴン目掛け速度を上げた。

まぐろ君を水平に持ち変え両手で強く握った。


「行くぞ!!」


ミリアが急降下をはじめた。


ヒューーーーーー


という風切り音が聞こえる。


「離すぞ!」


ミリアが手を離した。

いい角度で俺は飛んで行く!

ドラゴンどもは俺に気づくことなく子龍を嬲っている。


「往生せいやーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」



綺麗に大きなドラゴンの首に斜め上からヒットすると


シューーーーーーーーーーッ!

ドバッ!


と言う音とともに血が噴出す音が聞こえる。

ゼリーを切っているかのように手応えもなく、ドラゴンが首から脇の下に掛け切れ目が入っていく。

そこで勢いが無くなり切断する事は叶わなかったが3分の2以上は切断に成功し首が切れ絶命した。


ドダン!


最も巨大なドラゴンは大きな音をたて倒れた。

他のドラゴンたちは何が起こったか分からず動きを止めた。


その後、


グエーーーン! グエーーーン!


とドラゴンたちが叫び声を上げると


キエン ケンケン キシャン キエーーーン


とヒドラたちの各頭が鳴き声を上げた。


ドラゴンたちは俺を見る。

その目にははっきりとした敵意を感じ取ることができる。


チッ! 逃げてくれなかったか!


舌打ちをしながらマシンガンと焼肉プレートを取り出し構える。

一匹のドラゴン目掛けバルカンモードでマシンガンを乱射する。


ダダダダダダダダーン


ドラゴンに全弾命中する。


ギエーン! ギエーーーン


と叫び声を上げるが思いのほか鱗は頑丈で貫通する事は叶わず表面で破裂するだけだったが、あの叫び声のトーンからすると不快ではあるようだ。


一匹のドラゴンが上半身を後ろに反らす。


「ブレスじゃ! ブレスが来るぞ!」

ミリアが叫ぶ。

プレートを前に構える。


ブヲーーーーー!!

ドラゴンが火を噴いた。



焼肉プレートで炎を受ける。


「あちあちあち」


プレートのある前面は熱を感じることは無いが熱風が巻き込んでくる。

が、魔素ネットコーティングのおかげもあるのだろう「あちあち」とか言う余裕がある。

炎のブレスが止んだ!


フフフフ、待ってましたこの時を!!


ポン!ガシャン!


ブレスを吐いたドラゴンの口目掛けグレネードを発射する。

見事に口の中に入ると


ボム! 


という音と共に爆発した!


が、歯と歯の隙間から黒煙が吹き出た。


チッ! 予定では頭ごと吹き飛ぶはずだったのだけどな~

さすがハルフェルナの食物連鎖の頂点に君臨する生物の一角といったところか。


また体を反らせブレスを吐こうとする。


「吐かせないよ!」


ポン!ガシャン! ポン!ガシャン! ポン!ガシャン!


今度はグレネードを数発、口目掛け発射する。


ドゴン!


何発かが口の中で爆発し、何発かがドラゴンの顔面で爆発した。


ギエーーーーン!


グレネードの破片が両目に刺さり激しく出血をした。


ギエーーーン! ギエーーーーン!!


ドラゴンは雄たけびを上げると辺り構わず狂ったようにブレスを吐いた。

そのブレスは子龍に直撃し、将太たちの方へも構わず吐き出される。


こりゃ、マズイ!


マジックランドセルを肩から下ろしバケツで水を撒くようにドラゴンたち目掛け放流した。


ザッパーン!


ドラゴンは数10m水に流され転がった。

立ち上がると背を向け逃げ出していった。

よし!!二匹目撃退!!



今度はヒドラが俺目掛け毒液を吐いてきた。

八つの首から吐き出される毒液は少々厄介だった。

被っても毒のダメージは受けることは無いのだが・・・・・・臭い。

凄く臭い。

お前、何食っているんだよ!

と言いたくなるくらい臭い。

思わず『うッぷ』となってしまう。


サックブラッドナイフを手元の呼び出しヒドラに投げつける。

的がでかいので楽勝だ。

が、サックブラッドナイフが血を吸うといってもヒドラは巨大だ。

瞬殺とはいかないだろう。


「フレイムアロー!!」


ミリアがヒドラへ攻撃を開始し始めた。

無数の矢がヒドラの体に刺さり燃え上がるが、まだ、体力はありそうだ。


「ウインドスライサー」


今度はウインドカッターより大きい光の輪がヒドラの首を切断する。

落ちた首は陸に釣り上げられた魚のようにビタビタと暴れながら、やがて動かなくなった。

そして、切断した側から首が再生する。


「キモーーー!! なんて野郎だ!」


続けてミリアが炎の魔法でヒドラに攻撃を仕掛ける。

サックブラッドナイフの効力か、心なしかヒドラの動きも鈍くなっている。


「ギエーーーーン!!」


無傷のドラゴンが俺に狙いを定め近づいてきた。


ダダダダダダーン


バルカンモードで顔面を狙うが嫌がるぞぶりをするだけでたいしたダメージを与える事は出来なかった。

そして、体を反らせブレスを履こうと口をあけた瞬間にグレネードを数発叩き込んだ。


ボンボンボン!


と次々破裂するが深刻なダメージを与えられない。


「チッ! 硬いな! 近代兵器が通じないのかよ!」


さっき撃退したドラゴンと同じく狂ったようにブレスを吐いた。


学習能力ゼロ!!

ロッシさんの言とおり、所詮、トカゲだ!

ランドセルの水流攻撃で退治してやんよ!!


再度、マジカルランドセルを手に持ちバケツで水を掛ける仕草をすると


大量の水がランドセルから放出される・・・・・・はずが。


ジョボジョボ・・・・


少量の水がドラゴンの顔に掛かっただけだった。

きれたーーーーーー!

水がきれたーーーー!


マジックランドセルは無限に水が出るのではなく補給しなくてはいけない!!

あの4人組との戦い以降、大量に水を補給する機会が無かった。

その後もゼルドにぶっ掛け、2頭目のドラゴンにもぶっ掛け。


ドン! ドン! ドン!!


放水で再度ブレスを吐くことは封じることが出来たが怒り狂って俺を踏みつけようと近づいてくる。

炎のブレス攻撃は焼肉プレートと魔素ネットコーティングのおかげである程度防ぐ事は出来るかもしれないが、踏みつけ、噛みつきなどの物理攻撃は防げないかもしれない。


ギャーーーン! ギャーーーーン!!


と殺意のこもったドラゴンの声がガルデラ内に響く。

完全に標的を俺に絞って迫ってくる。

必死の形相でドラゴンから距離を取ろうとするが確実に距離が縮まる。


ヤバイ! 時間の問題だ!!


ドラゴンが一歩ずつ踏み出すたびに死への距離が近づく。


「碧!! こっちだ!! こっちへ来い!!」


智弘が声を上げる。

こっちへ来い!と手を大袈裟に振っていた。

よくみると隣には100mを楽に越えそうな棒が立っていた。


(あれはマジカルなんちゃら!!)


あんな細い棒で何をするんだ? 智弘なら何か策があるはずだ!

難しい事は考えず智弘の言うとおりにすればいい!!


智弘の方へ向きを変え全力で走る。


「碧! 避けろ!!」


と言うと智弘はマジカルなんちゃらを思いっきり踏み付け俺の方へ倒した。


ヒューー

ヒィュー

ヒーーーー

ヒーーーーーン


とマジカルなんちゃらが倒れる音が高くなっていくのが分かる。


ギリギリだ! ギリギリまで引き付けるんだ!

目の前に伸びたマジカルなんちゃらが迫る!


今だ!


渾身の力を込め右方向へ地面を蹴った!!


ダダーーーン!!


マジカルなんちゃらが地面を叩いた音がカルデラに響く。

後ろを振り向くと頭部が潰れ、体も陥没しているドラゴンが倒れていた。

さすが 智弘だ!

最低限の力でドラゴンを葬った。



「ウインドカッター」

ミリアの魔法がヒドラの首を切断した。

が、今度は首が再生する事は無かった。


「サンダーブーレード!! サンダーアロー!!」


続けざまに雷撃魔法を撃つとヒドラも倒れた。


「ふぅー こっちも何とか終わったぞ!

 お主のナイフのおかげじゃ!

 ヒドラの再生能力が厄介なのじゃが血液を失ったせいで再生能力も弱ったようじゃ」


俺たちは何とか『怪獣大戦争』に勝利した。

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