第236話 霊峰

ゼルドから逃れ先行していた智弘たちに追いつくと休憩を取る事にした。

朝から比べると将太の体調が確実に悪化しているのが分かる。

将太自慢の・・・・・・本人は嫌っていたが、女子が羨ましく思うほどの白い肌もくすんだ色になり、呼吸も一段と荒く額の汗も多くなっている。

辛い。見ているのが辛い。

早く霊峰へ行かなくては。

霊峰へたどり着いても簡単に龍が見つかるとは限らない。

が、諦めるという選択肢は無い。


智弘が黙って手を出す。

マジックポーションの催促だ。

マジックランドセルから無言で取り出す。

智弘は封を切ると無言で飲み干す。

もう一度、俺に手を出す。

もう一本渡すと何も言わず飲み干した。


智弘も限界が近い。

ミリアと違い智弘は普通の人間だ。

俺のスキルでMPが増えているとしても、元のスペックが違いすぎる。

だが、そのミリアも辛そうな顔をしている。

ミリアの目の前に右手を突き出した。


「吸え!」


「お主、無理するでない。

 これ以上、血を吸ったら倒れてしまうぞ!」


「まだ大丈夫だ! いいから吸え」


ミリアは黙って腕に噛み付き血を吸った。

そして、食べたくもないレバーを齧る。


「よし!! さぁ~行くぞ!!」

立ち上がると智弘も黙って立ち上がるが、少しよろめ倒れないように体を支えると


「もう、無理しないで! トモ君も限界でしょ。

 僕をここにおいて行ってよ!」


「黙れ、将太! 男の覚悟に水を刺すな!

 まだ行けるだろ、智弘!」


「当たり前だ! くだらないこと聞くな!」

幼女姿の智弘は今までに無いくらい強く言い放った。

体力は確実に失われいるが目はギラギラと輝いていた。


「うわ~~~~~」

将太は女の子座りをしながら大泣きをした。


「ごめんね。ごめんね。僕のためにみんなに苦労をかけて・・・・・ごめんね・・・・・・ごめんね」


泣く将太を優しく抱きしめ子供をあやす様に言う。


「大丈夫だ。必ず日本へ帰ろうな。

 みんな一緒だ。 必ず帰ろう」


将太は黙って頷いた。


「さぁ、行くぞ!!」


俺たちは霊峰目指し空へ舞い上がった。






「あれが霊峰じゃ」

ミリアが目の間に広がる山々を指差す。


「霊峰って山の名前じゃないのかよ」


「この辺一体が霊峰と言われているのじゃ」


「おいおい、こんなに広いところから龍を一匹探すのか?

 こりゃ、大変だぞ」


「安心せい、龍はあの一番高い山頂を住処にしていた。

 多分、残りの一匹もその辺りにいるはずじゃ。

 智弘、妾に続け!」


ミリアは山頂を指差しながら言うと俺を吊り下げながら飛んだ。。

ミリアが先行すると智弘もその後を追う。


周りの山々は雪が積もっている。

多分、溶けることのない万年雪だろう。

気温も確実に下がってくる。

七海に頼んで全員分、作ってもらった魔素ネットが役に立っている。

魔素ネットを服に貼り付ける事によって寒さ、暑さに対する耐性を獲得できた。

魔素ネットをコーティングしたおかげで極端に寒いとは思わなかった。

役に立たない技術と言われていたが、なかなかどうして!

有用な技術だと思う!


最も高い山を目掛け飛び、たどり着くとガルデラになっていた。

ガルデラは巨大で直径1kmほどはあるのではなかろうか?

龍たちはここを根城にしていたのか、カルデラ内部は草木はほとんどなく人工的に綺麗に整地されていた。



グギャーーー!!

ギギャーーー



整地されている遠くから今までに聞いた事がない生物の声が聞こえる。

声の聞こえる方向へ恐る恐る近寄ると10mを超える数匹のモンスターが戦いを繰り広げていた。


「おいおい、ブタケロスなんてもんじゃないぞ!」


「ドラゴンじゃ! ひーふーみー 3匹もおるぞ」


うわーー! ドラゴン! どうみても絵に描いたような典型的なドラゴンがいた。

体はくすんだ朱色で翼も生えていた。

が、翼のサイズは体格と比べ明らかに小さい。

あれでは空を飛ぶのは難しいだろう。

その中の一匹は、他の2匹より明らかに大きかった。


「たくさん首の生えたやつがいるぞ、あれは何だ?」


「ヒドラじゃ!」


俺にはヒドラというより金色のヤマタノオロチというのが認識しやすかった。


「おいおい4匹もいるのかよ!! 怪獣大戦争じゃないんだぞ!」


よく見るとドラゴンたちとヒドラは同じ方向を向き威嚇している。

ドラゴンとヒドラが戦っているのではなく、その奥にいる何かと戦っていた。


グギャーーー

キシェーーーー!


ドラゴンたちの声がカルデラに響く。


ボーーーーー!


一際大きいドラゴンが火を噴く。


「スゲー火力だな」

「ドラゴンじゃからな。体色から言ってレッドドラゴンじゃな。

 大きさを考えると奴がこの群れのボスじゃろうな」


キエ キエン キキー キシェン キリキリ!


「ヒドラ、うるせーな! 近所迷惑な奴だ!!」


「仕方ないじゃろ、首が八つもあるのじゃから」


ボフ! ボワッ! ボフ! ボワッ! ボフ! ボワッ! ボフ! ボワッ!


ヒドラが一斉に液体を奥のほうへ向かって吐いた。


「あれは毒液じゃな」


「マジか! 8箇所から一斉に毒攻撃を浴びたら人間は一溜まりもないな!

 ミリアは毒耐性持っているか?」


「当然じゃろ! ヒドラ程度の毒は余裕じゃ!」


「さすが、未来のバンパイアの女王さま!」


「そちも毒耐性持っておるのじゃろ、その方が普通じゃないぞ」


「あぁ、女神さまさまだよな」


なおもドラゴンたちは奥にいる何かに向け炎を吐いている。

ドラゴンたちの隙間から表面が青銀の物体がチラチラ見える。

その物体は日の光が当たると反射していた。


「なぁ~ミリア、奥にいるのって・・・・・多分」


「まず間違いないじゃろ。

 ドラゴン3匹、ヒドラが1匹もいて押し切れないという事を考えると龍か高位の悪魔以外、考えられん!」


「もう少し近づいてくれないか?」


ミリアはドラゴンたちに気づかれないようにゆっくり上空から近づくと奥には明らかにドラゴンたちより3,4回り小さいサイズの手足の生えた蛇がいた。

その蛇のような生き物は体の半分を宙に起こしながら口から光る何かをドラゴンたちに向け吐き出していた。

光の玉が当たり爆発すると命中したドラゴンは怯む。

が、他のドラゴンたちから炎のブレスやヒドラの毒攻撃を受けていた。

蛇のような生物が動くたびにジャリジャリという金属音が聞こえた。

金属音の元を探すと左足に緑色の足枷が付いていた。


「あれが龍? 蛇じゃないのか?」


「いや、龍じゃ! まだ子供のようだが龍に間違いない」


「何だかヤバそうじゃないか?

 知っている人が龍から見ればドラゴンはトカゲとか言っていたけど、どう見ても押されているぞ!」


「まぁ子龍じゃから撃退する事は難しいかもしれんが、そう簡単に龍が死ぬことは無いと思うが・・・・」


「なに? あんだけボコられていても死なないの?

 どれだけM耐性を持っているんだよ!」


「これは仕置きかもしれんな」


「仕置き?お仕置きってことか?」


「そうじゃ。 以前話したとおり、龍たちが霊峰を後にしたとき龍王の命に反抗した龍が取り残されていると話したじゃろ。

 その反抗に対する刑なのかもしれんな」


「それこのリンチか。 酷い話だな」


「龍は誇り高く、龍王の権威は絶対じゃからの。

 龍王に背くという事は死を意味すると言われておるからの」


「死刑と言うことか・・・・・・」


バタン!!


その龍が大きな音をたて倒れ、とぐろを巻いた。


「これはマズイの~

 あの体勢は完全防御の体勢じゃ!

 死ぬかもしれんぞ!」


「さっき、簡単には死なないと言ったところだろう!!」


「多勢に無勢といったところか」


さらにドラゴンが火を噴き、ヒドラが毒液を吹きかける。


ヒィ~~~~ン! 

ヒィ~~~~~ン!


龍がとぐろを巻きながら悲しそうな声を上げる。


「うわ~! 龍といえども4対1では部が悪いか!」


「本来なら子龍だとしても負けるはずが無いが・・・・・・

 幾度と無くドラゴンたちに襲撃を受けているのかもしれんな。

 龍はドランゴン族の支配者だが力によって支配している。

 中には龍を良しと思ってはいないドラゴンもおるじゃろ。

 ようは弱肉強食の世界なのじゃ」


「このままドラゴンたちに龍を倒してもらうと言うのも手だな。

 ドラゴンがいなくなったら爪を剥ぎ、目玉をくり抜き涙腺から涙も手に入れられるんじゃないか?」


「お主、残酷じゃの~ 吸血鬼でもそんなこと考えんぞ!」


「そ、そうか? 将太を救うためなら悪逆非道と言われてもなんとも思わないぞ!」


「が、それは無理じゃろ。

 ドラゴンたちは龍を食べるぞ!」


「え!! マジか!! それを早く言え!!

 龍を助けるぞ!!」


「どうやって?」


一瞬どうしたものかと考えた。

あれしかない。

女神さまの言った言葉を信じよう。


「俺にはまぐろ君がある!」


と言いながらマジックランドセルからまぐろ君を天に向けるようにして取り出した。


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