第216話 光るナミラー



「ハーーイ! みなさん!時間切れーーー

 最初から降伏を認める気なんて無いんだけどね!ハハハハ!!」


ズガーンダムの外部スピーカーから星野の人を嘲笑った声が聞こえてくる。


こっちも残っていた!

ワレトラマンよりズガーンダムの方が攻略方法がない分、始末が悪い。

ビームライフルをゆっくり構え、ナミラーの町の中心に向け放った!


ズキューン!


ドダーーーン!


町の中心近くにある一番大きな建物である教会を射抜いた。

教会が歪んでいくように消えた。

いや違う! 蒸発した。

教会の周りにいた人も一瞬にして蒸発していくのであった。


「やめろーーー!! 星野!」


冒険者たちが一斉に攻撃を始めた。

ある者は槍を投げ

ある者は弓を引き

ある者は魔法を


「ハハハハ! ゴミクズども!! ズガーンダムにそんなもの効かねーよ!!」


冒険者のいるところへビームライフルを放つ。

一瞬にして、そこにいた人たちが蒸発する。


「やめろ! 止めるんだ! 星野!」


ポーーン!  ガシャン!

ポーーン!  ガッシャン

ポーーン!  ガシャン!


ズガーンダムの方へ駆け寄りマシンガンをグレネードに切り替えズガーンダムの顔面へ目掛け撃つ。

一発撃つごとにトリガーを再起動させる。


ダーーン!

ダーーーン! ダダーーーン!


3発のグレネードがズガーンダムの顔面に命中する。

が、何ごとも無かったようにズガーンダムはゆっくり右左と頭部を動かし俺を探す。

ズガーンダムの両目と合う。


ジージー

とカメラが視点を合わせるような音が聞こえる。


「白田! お前か! 生きていたのか!! うぜーよ! 死ねー!!」


ズガーンダムのビームライフルが俺にゆっくりと照準を合わせる。


マズイ!

いや、マズイなんてものじゃない!

直撃しなくても近くに着弾した時点で教会のように一瞬でケシズミだ!


ビームライフルが俺にロック・オンしたとき


「ファイヤーボール!」

「サンダーブレード!!」


智弘と七海が魔法を詠唱した。

ファイヤーボールが当たると一瞬だけ表面が燃える。

サンダーブレイドが当たるとズガーンダムの全体に一瞬光が走ったが何事も無かったようにズガーンダムは魔法の飛んできた方向へズガーンダムの顔を向けた。


智弘は空に舞い上がりズガーンダムの目の前を囮になるように横切りながらファイヤーボールを連発した。

が、ファイヤーボールをいくら撃ってもズガーンダムにダメージ一つ与えることはできなかった。


「落ちろ! ガガンボ!」


スピーカーから星野の怒声が町に響く。


ズギューン! 

ズギューン!!


と2発ビームライフルを空へ発射した。


智弘は難なく2発とも避けた。

近距離を飛ぶ者に対してビームライフルはいささか効率が悪い。

空を飛ぶ敵や小さい敵を撃つにはズガーンダムの頭部に搭載されているバルカン砲を使うべきなのだが撃つ事はなかった。

多分、補給することが出来ずに玉切れになっているのだろう。


ポーーン!  ガシャン!

ポーーン!  ガッシャン

ポーーン!  ガシャン!


空を舞う智弘を援護するために、今度は足を狙いグレネードのトリガーを引いた。

グレネードもさしたるダメージを与えることは出来ない。

智弘はズガーンダムの額の辺りにあるメインカメラに向けマジカルなんちゃらを伸ばし目いっぱいの力で突き刺した。


バッリーン!


分厚そうなガラスが割れる音がする。


「ククッ!! メインカメラをやられただけだ!!」


星野の声が外部スピーカーから聞こえてくる。



「碧! 照明弾を顔目掛け撃て!」


俺は智弘に言われたとおり照明弾に切り替え顔面目掛け発射した。


ポーーーン!


パッシャン!


「うわ~~目が!目がーーー!!」


星野の叫び声が聞こえる。

照明弾が弾けると回りは一瞬まばゆいばかりの光に包まれ、ゆっくりとズガーンダムの足元に落ちていった。


ズガーンダムが怒り狂ったようにビームライフルを発射する。


ズギューン! ズギューーン! ズギューン!!


町に3発の発射音が木霊する。

1発は遥か上空へ、1発は地平線へ、最後の1発は町の真ん中に命中した。

建物が一瞬で蒸発していく。

今の一撃で、また何人死んだのだろうか。


「やめるでゴザル!!」


則之がくじら君を抜き俊足を使いズガーンダムの足元へ駆け寄る。


「やめろ!! 則之! 踏み潰されるぞ!!」


俺の叫び声は則之に届く事はなく歩みを止めることはなかった。


「やめろ! 則之!危ない!!」


智弘も叫びファイヤーボールを顔面目掛け唱えた。

それでも則之は足を止めることは無くズガーンダムへ駆け寄った。

そして、くじら君でズガーンダムの踝の上辺りを斜めに斬りつけた。


ガキーーーン!


金属同士がぶつかり合う音が響いた。

斬りつけた場所から火花が飛ぶ。

魔法やグレネードを受け付けなかったズガーンダムのズガンダリウム合金を斬った。


嘘だろ!

いくら則之の剣の腕があったとしても!

まぐろ君は○鉄剣ではあるまい・・・・



いや、女神様からの最後のメモに包丁類は『何でも切れる包丁』なったと書いてあったが!!

これが『何でも切れる包丁』の恩恵か!

TVではズガーンダムはほぼ無傷だったのに。

『何でも切れる包丁』と言っても限度があるだろ!!

ズガンダリウム合金さえも切断してしまう女神の祝福!! 恐ろしや!!


ズガーンダムの足は切断され自重に耐えることが出来ずバランスを崩し跪いた。


「クソー! よくもやったな! ナミラーはすべて破壊してやる!!」


俺はまた役に立たないがグレネードを打ち込む。


「白田! お前、うざ過ぎるぞ! 街の前にお前を片付けてやる!!」


ズガーンダムは右足首から下がが無い状態で立ち上がり俺の元へ歩みを進める。

星野は足を折られたことに激情し冷静さを失っているようだった。


ドスン!

ドスン!!


と一歩ずつ近寄ってくる。

俺も当然逃げるがズガーンダムの一歩はあまりにも大きい。

ペチャンコになるのも時間の問題だ。

俺は振り向き照明弾をズガーンダムの顔面目掛け発射する。




「土魔法! 穴!!」


七海は声を張り上げ両手を広げ、ありったけの魔法を唱えた。


ドシャーーン


七海さん、うら若き乙女が『穴!!』ってヤバクないですか?

が、俺はその『穴』に救われた。


ズガーンダムの全身が埋まるほどの巨大な落とし穴に落ち、落ちた衝撃で周りの土がどんどん崩れ見る見るうちに土砂に埋まっていく。

ズガーンダムは立ち上がるために穴の淵に手をかけた。

が、その瞬間、淵が崩れ穴に再度落ちてしまった。


「ズガーンダム・・・動け! ズガーンダム・・・・なぜ動かん!!」


スピーカーから星野の焦る声が聞こえる。

落ちた衝撃で土砂が落ちてくる。


穴に落ちた衝撃で機械系等が壊れてしまったのだろうか?

所詮、機械だ。

限度を越えた衝撃を与えれば壊れてしまうと言うことだろうか。


俺には星野の操縦能力値が0になったことなど知るよしも無かった。



「ズガーンダム・・・動け! ズガーンダム! 俺のズガーンダム!!俺のズガーンダム!!・・・・なぜ動かん!!」


土砂に埋まるとともに星野の声は徐々に小さくなっていった。

そして、『星野のズガーンダム』はもう二度と動く事は無かった。




「七海、助かったよ」


と振り向き七海のほうを見ると、七海がうつぶせに倒れているではないか!


「七海ーーー!!」


俺は叫びながら七海に寄り添い体を起こす。


「大丈夫か! 七海!七海!!」


意識が無い。


「将太!! 将太ーーーー!!」


将太が駆け寄り慌ててヒールを掛ける。


「七海さん! 七海さん!」


将太もヒールを掛け終わると声を掛けるが七海の意識は戻ってこない。

七海を抱え町の中へ、冒険者ギルドの方へ走る。


「碧! 七海はどうした?」

「碧殿、七海殿は大丈夫でゴザルか?」


智弘は空から、則之は走り、駆け寄ってくる。


「意識が無い!」


「七海!七海! しっかりしろ!」

「七海殿! 七海殿! 大丈夫でゴザルか?」


智弘と則之も心配そうに声を掛ける。


「とにかく救護室のある冒険者ギルドへ行く!」


俺は自分の血の気が引いていくことが分かった。

生きた心地がしない。

悪魔に心臓を掴まれているような気分だった。


町中は至るところ瓦礫だらけだった。

瓦礫を飛び越えながら冒険者ギルドの救護室へ飛び込むとベッドは怪我人だらけだった。


「誰か、この子を見てくれませんか! お願いです。

 魔法を使って倒れてしまったのです。 誰か助けてください」


俺は七海を抱きかかえながら大声をあげ懇願した。


「カレー屋か! おい、誰か見てやってくれ!」

「おーーい、カレー屋を優先してやれ!」

「犬の魔道師さんが倒れたぞ! 俺よりも先に見てやってくれ!」


冒険者ギルドの中には怪我人が多くいた。

包帯を巻いている者、多量の血を流している者、床に寝かせられながらタオルを掛けられている者。


「カレー屋さん、どうしたのですか?」

そこへ馴染みの女性パーティーの神官・ミリアさんがやってきた。


「うちの七海が倒れたんです。

 巨大な穴を空けたら、急に倒れてしまったんです」


ミリアさんは左手を自分の胸にあて、右手を寝ている七海の上に置き何やら呪文を唱えた。


二人の体が光、七海の体だけ光が消えた。


「これは魔力切れですね。

 しばらく休んでいれば大丈夫ですよ」


へ?

俺は体の力が抜け崩れるようにヘナヘナと腰砕けの状態になった。

あの時のアレックスさんと同じか。

俺には魔力が無いから分からなかった。


「おかしいですね。以前は魔力が溢れるくらいあったはずなのに。

 魔道師様はどうなさったのですか?」


「色々とあって・・・・俺たちのパーティは色々と訳ありなんですよ」


「そうなのですか。

 失礼な事を聞いて申し訳ございません」


ミリアさんは深く詮索するのを止めてくれた。


七海が言っていた通り、人間に近づくにつれて魔力量が少なくなっているのだろう。

の町の周りを土壁で覆ったときは魔力切れなど起こすことは無かった。

やはり人間に戻るのが近づいているのだろう。


リッチから人間に戻ることによるパーティの戦力ダウンを恐れ、七海は人間に戻るのを遠慮しているが、俺が今すぐにでも戻るべきだと思っている。

体は戻ったが顔だけは今だ骨のままだ。

当人は気にしていないというが以前の姿に戻ってほしいと思う。




「お前たち、またナミラーを救ってくれたんだな。感謝する」


そこへナミラーの冒険者ギルド支部長のテッド・ドリスタンがやってきた。

そして


「聖女様の力を借りたい。怪我人の治療を頼む」


「はい。僕もそのつもりですから」


将太が立ち上がる。


「砦の方が心配だ。アイゼー将軍を含め騎士団もそうとう怪我人が出ていると思う」


「分かりました。砦のほうへ行ってきます」


と将太が言うと


「拙者も将太ほどではないがヒールを使えるでゴザルよ!

 拙者も砦に向かうでゴザル」


「じゃ、俺もアイゼー将軍が心配だ。砦に行こう」


と立ち上がると


「碧、ちょっと待て!

 お前はここに残れ。

 七海を一人にするのも心配だろ。

 それにガルメニア軍の第2陣が来るかもしれない。

 と言うより俺なら騎士団か歩兵部隊を送ってナミラーを制圧する。

 ズガーンダムとワレトラマンでダメージを与えた今を逃すとは思えない。

 でしょ?ドリスタンさん!?」


と智弘はドリスタンさんの方へ顔を向ける。


「あぁ、そうだな。今がチャンスだ。

 ガルメニア兵が進軍してくる可能性は高いな」


とドリスタンが話し終わると鎧姿の男が冒険者ギルドに飛び込んでくるなり叫んだ。


「大変です!ギルマス!

 ガルメニア騎士団が砦を襲撃しています!!」


智弘の予想通りガルメニア騎士団がナミラー制圧のために進軍してきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る