第215話 侵略者を撃て


風が霧を吹き飛ばした後には

全高40mのワレトラマンと全高20mのズガーンダムがそこには立っていた。

が、ワレトラマンもズガーンダムも薄汚れているのだろうか?

灰色がかった黒になっていた。

本来ならワレトラマンはグレーの肌に赤いラインなのだがグレーの部分の肌は黒に近いグレーになっていた。

ズガーンダムも白をベースに青と赤の配色なのだが白の部分が明らかに黒ずんでいた。

幾度かの戦いで泥や汚れが付着したのだろうか?

それとは少し違うように思える。

汚れだったら所々付着していないところもあるはずだが、すべてが同じく黒に近いグレーだった。


ついにこの時が来たか!

何れ合間見える事は分かっていた。

が、いきなり2体か!

これはヤバイ状況だ。


冒険者ギルドから町に残っていた冒険者達がわらわらと出てくる。


「な、何だアレは!!」

「巨人だ!!」

「ゴーレム!」


「イズモニアを襲った魔物だ!!」

「終わりだー! ナミラーも終わりだ!!」



「ヤバイぞ! 碧!!」

智弘の叫び声も聞こえる!



「あーあー、ナミラーの町のゴミクズども! さっさと降伏しろよ。

 降伏さえすれば殺さないでいおいてやるからよ!

 とりあえず一発!

 ワレトラマンさん、一発噛ましてやってください!!」


ズガーンダムの外部スピーカーだろうか、ふざけた星野の声が聞こえた。


ワレトラマンがゆっくりとスッパシウム光線のポーズを取る。

そしてオリタリア軍の駐屯地である砦に向かって放った!


「止めろーーー!!」


ビーーーー!


ドッカーーーーーン!!


砦の一部が吹き飛んだ。


それは一瞬のことだった。

あそこにはアイゼー将軍を初め多くの軍人の人たちがいた。


嘘だろ!

嘘だろ!!

アイゼー将軍!!


嘘だろ!!

鈴木! お前はいきなり見ず知らずの人に対して、そんなにも惨いことが出来るのか!!

嘘だろ!!

鈴木! どうしたんだよ! 

いつからそんな残忍な人間になったんだよ!

どこにでもいる普通の高校生だろ!

ちょっと気の弱い高校生だろ。

そんな残酷なことが!!

あまりのことに俺は思わず嘔吐してしまった。


「アオ君、大丈夫」

隣にいた将太が俺の背中を摩ってくれた。


ワレトラマンの方へ向き直したとき、そこにはワレトラマンはいなくなっていた。

ワレトラマンのいた場所には素っ裸の鈴木が立っていた。

3分の時間切れになったのだろう鈴木は変身が解けたようだ。

遠くに見える鈴木に向かって叫んだ。


「鈴木!! お前!何やってるんだ!」


「白田か! まだ生きていたんだな」


「お前、いつからそんな残虐な人間になったんだよ!」


「お前!馬鹿か! ここは日本と違うんだよ! 弱肉強食なんだよ!」


「弱肉強食じゃねーよ! お前のやったのは一方的な虐殺だよ!」


「ハハハハハ! 弱いから虐殺されるんだよ!」


100mほど向こうにいる鈴木の目は遠くからでも分かるくらい目だけが鈍く赤く光っていた。

もう人間ではないのだろうか?

鈴木に向けマシンガンを構えた。


「おいおい、白田!お前こそ丸腰の俺を撃つのか? ホラホラ!」


と腰に手を当て腰を前後に振り股間の物をプラプラさせた。

今なら鈴木を簡単に殺せる。

ワレトラマンにさえならなければ鈴木を廃除する事は難しくは無い。


「ホラホラ!」


鈴木は先ほどより大袈裟に腰を振り俺を挑発する。

マシンガンを力強く握り、トリガーに掛ける指にも力が入る。


「ホラホラ! 撃って来いよ!!」


俺はマシンガンを構えるのを止めた。


「ヘタレが! そんなことだからお前は追い出されるんだよ!」


鈴木はなおも言葉で挑発をしてくる。


「鈴木! こんな事は終わりにしよう!

 お前は日本に帰りたくないのか?

 普通の高校生活を送りたくは無いのか?」


「嫌だね! あんな退屈な毎日はゴメンだよ!

 ハルフェルナの方が楽しいだろ!

 ワレトラマンになれる毎日の方がどれだけ楽しいか!」


「お前は楽しくて人を殺すのか?」


「あぁ! 楽しいね。スッパシウム光線で人がぶっ飛んでいくところは快感だぜ!

 お前もやってみろよ!

 アッ! キッチンセットじゃ、そんな事出来ないか! ハハハハハハ

 白田、お前は馬鹿だよ! そんなゴミの祝福を貰うなんて」


「キッチンセットの話しをしているんじゃない!

 お前は一体何人、人を殺したんだよ!

 そんな事をして何が楽しいんだ!」


「楽しいよ、楽しくて仕方が無い」


「フェルナンドに操られているんだろ!

 正気になれ!」


「ハン! そんな事は関係無い!

 俺はこの力を思う存分に発揮したいだけだ!」


「鈴木君、止めなよ! 

 そんなことする人じゃなかったでしょ!」


将太が俺のボロボロの学生服の裾を掴みながら言った。


「誰だよお前! なぜ、俺の名前を知っている!」


「僕だよ! 緑山将太だよ!」


「え?お前があの軟弱か! 

 聖女になったんだな。

 俺好みの美少女じゃんか!

 俺の女にしてやるよ!

 使えねー白田じゃなく俺について来いよ!


「酔っているんだね、鈴木君!

 君はそんなこと言う人じゃなかったのに。

 それだけの力を持ちながら人のために役立てようとは思わなかったの?」


「思わないね! 俺は俺のためにこの力を使う!」


「鈴木! お前!馬鹿か!! フェルナンドに利用されているだけってのが分からないのか?

 アイツは魔王になったんだろ!

 魔王なんかに与してどうするんだよ!

 正義のワレトラマンが泣いているぞ!」


と俺が叫んだとき


「ファイヤーボール!!」


の声が鈴木のいる方角から聞こえた。

咄嗟に将太より前にでて焼肉プレートを構え魔法が直撃したがプレートの当たった瞬間ファイヤーボールは霧散した。


「僕! 用事が済んだから撤退よ!」


空から明らかに魔道師と分かる杖にマント、帽子を被った20代中ごろと思われる女が降りてきた。


「イシスか! 『僕』扱いするなよ!」


「二十歳にもなってないガキが偉そうなこと言わないの!

 ほら、帰るわよ!

 そっちの僕とお譲ちゃんもバイバーーイ!」


「白田! お前は死んでもいいが緑山は死ぬんじゃないぞ!

 俺のハーレム要員だからな! ハハハハ」


「ほら、バカ言ってないで行くわよ」


と言うと女魔法使いは鈴木を抱え空を飛んでいった。



撃てなかった。撃つことは出来なかった。

鈴木を倒す千載一遇のチャンスだった!

巨大化したワレトラマンを倒すことは難しいが変身が解けたときなら倒すことも可能だっただろう。

智弘の対ワレトラマン・プランも変身が解けたときに攻略する事になっていた。

が、トリガーを引く事は出来なかった。

トリガーを引ければ鈴木を倒す・・・・いや、殺すことが出来ただろう。

イフリートになりかかっていた西原のときみたいに。


「碧!!」

「碧殿!!」


智弘たちがやってきた。


「ヤッパリ、撃てなかったか」


両手を下げ下を向いている俺の隣に智弘はやってきた。

俺は何も言えず頷くことしか出来なかった。


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