第212話 急襲


「みなさんはどちらの方へ行かれるのですか?」

ガキではない俺はお姉さんの軽蔑の眼差しを華麗にスルーして聞くと


「これからリーパスへ向かう予定じゃよ」

老人が答える。


????2,3日でリーパスからナミラーまで来ることが出来るのか?

馬車を使ったとしても1週間くらいかかるはずだ。

和服姿の旅人は、あまり見かけることはないが・・・・

いないわけではない。

リーパスで見た人たちとは別人なのかもしれない。


「それは大変ですね~ 次の町まで徒歩ですか?」


「もう少し北へ行ったところに小さい村があるからそこで馬車を待つつもりじゃよ」


「もし宜しければ僕たち、これから昼食を取ろうと思っているので、粗末な物ですけど一緒しませんか?」


と俺は食事を勧めた。


「そうしませんか?みなさん。アオ君の作るカレーはとても美味しいんですよ。

 ナミラーでは『BLカレー』と言われていて大評判なんですから。

 ねぇ~アオ君」

と将太が隣に来て見上げるように言った。


将太が言い終わると4人の雰囲気が一瞬にして変わった。

空気が凍りつくような恐怖。

時間が停止するような恐怖に見舞われた。

体中のすべてが『逃げろ!!』と叫んでいる!

あの時と同じ恐怖。

そう、セキジョー・ダンジョンで出会った吸血鬼と同じ恐怖だ!

ジルド・ブラドー!

クリムゾン魔国の外務大臣。5人いると言われている『四天王』の一人!

アイツと同じ恐怖だ!


痩せた男が人間とは思えないほど爪を伸ばし、太った男は両手を巨大化させ指先は金属のように鈍く光る。

バインバインのお姉さんは虚空庫から薔薇のムチを取り出し構えた。

バインバインのお姉さんにムチでしばかれるのも悪くは無いかもしれないが、薔薇のムチは至るところにトゲがあり叩かれようなものなら洒落にならない事は明白だった。

おじいさんは曲がっていた腰がしゃんと伸び杖をこちらに向けた。



「死ねヤー!」

太ったおじさんが巨大化した右手を広げ俺を切り裂こうと振り下ろした。


ゴン!


辛くもタナニウムの焼肉プレートで受け止めた。


「死にさらせー!」

痩せたおじさんが俺の右脇腹目掛け爪を鋭く伸ばし突き刺そうと飛び込んできた。

あ~~これは避けられない!!


バキン!!


則之が長く伸びた爪を切り落とした。


「何をするでゴザルか!! 恩知らずどもが!」


ヒュ!

ヒュン!!

ガシンッ!


則之が俺と二人のおじさんたちの間に割り込みまぐろ君で斬りつける!


「許さんでゴザルよ! 

 拙者の大切な人を殺そうとしたでゴザルな!!」


痩せたおじさんが再度、爪を伸ばし、則之はまぐろ君を構える。


シュッ!

ガキン!

シュシュ!

ガキンガキン!


また、痩せたおっさんの長く伸びた爪を則之が切り落とす。


「女!  やるな!

 俺の爪をよくも切り落としたな」


今度は太ったおっちゃんが巨大化した手の指を広げ則之に飛びかかる!


ガン!


巨大化した手とまぐろ君がぶつかり合う音が響く。

痩せたおっさんが則之の左脇腹目掛け右手を突き出し爪を伸ばす!


「危ない!!」


ガン!

バキバキ!


俺は咄嗟に則之の左に飛び出しタナニウムの焼肉プレートで爪を防ぐと痩せたおっさんの爪が折れる。


「チッ! 小僧、お前の盾は何で出来ているんだ!! 

 俺の爪はアダマンタイトも突き刺すんだぞ! クソが!」


則之が太ったオヤジを鍔迫り合いでブッ飛ばし、向きを変え痩せたオヤジに斬りかかる。


ヒュン!

ヒュー


痩せたクソ親父が則之の一撃を宙に舞い上がりかわす。

そこを狙ったように二撃目が襲う。


ヒラリ!


宙に舞い上がった後に直角に回転しながら避けた!

完全に物理の法則を無視してやがる。


ヒュンヒュン!


ドン!


「いてーー!!」


ビシューーー!!


将太がアダマンタイト製のフレイルを痩せたクソ親父に投げつけ見事に激突し血が凄い勢いで噴出した。

しかもその血は紫色をしていた。


「クソ女! いてーだろうが!  ファイヤーボール!!」


痩せたクソ親父が俺を目掛け魔法を撃ちこむ!

ヤバイ、完全に裏をかかれた。

普通、こういうときは将太を狙うだろう!!

痩せたクソ親父は完全に俺を狙っていた。


「魔法障壁!!」


将太が俺の前に出て魔法を唱える。

ファイヤーボールが魔法障壁に当たると霧散した。


「やらせはしないよ、アオ君を!」


あぁ~将太!ありがとう! 

将太がいなかったら、俺、ケシズミになっていたかもしれない。


「ウォリャー」


デブな親父が巨大な手を拳にして魔法障壁に殴りかかった!


「ガン!!」


と大きな音がする。

ふふふ、将太の魔法障壁は簡単には破れないよ。

何たって雌に飢えたオーク数匹の攻撃をものともしない・・・の・・だ・か・ら!!


バリン!


うそ~~~!魔法障壁がガラスのように砕けた。

デブ親父はニタッと笑いながら指を広げ俺と将太を一緒に切り裂こうとした。


ガン!


咄嗟にタナニウムの焼肉プレートを突き出し巨大な爪の一撃を避ける。

中華君で力をこめてデブ親父に叩きつける。


ガキン!


金属同士がぶち当たるような音が響く。

デブ親父は片手で中華君の一撃を受け止める。


「いてーーーー! 小僧、何て馬鹿力なんだよ!

 俺の爪がへし折れるところだったぞ!」



ヒュンヒュン! 

シューン!


「死ねーー ハーレム小僧!!」


デカ乳姉さんの薔薇のムチが俺を襲うとした瞬間、


ドーン!


智弘がマジカルなんちゃらを伸ばしお姉さんを茂みの中へと突き飛ばした。

マジカルなんちゃらが無ければムチは俺に直撃していただろう。

ムチは厄介だ。

タナニウムのプレートでも先端の直撃を防がない限り撒きついて棘の餌食になるだろう。

あんな棘だらけの物が撒きつけば無傷では済まないだろう。


「いたた」


と言いながら、お姉さんは色白の肌の和服姿ではなく『露出狂ですか?』と聞きたくなるようなエロイ格好の浅黒い肌に変わり脇腹を抑えながら茂みの中から出てきた。


「レディーになんて事をするの! お譲ちゃん! いい女を怒らせると怖いのよ!」


エロイお姉さんは頭上でムチをヒュンヒュンと振り回すし智弘を威嚇する。


チヤ~~~ンス!


俺は口元に悪意のある笑みを浮かべ、エロイお姉さん目掛け中華君を力一杯投げつけた!


ヒュンヒュン!

ゴーン!


ナイスヒット!

やりましたよ、女神様!

女神様がくださった中華鍋でやりましたよ!


「小僧!!」

デカ乳女が頭を抑えながら怒る。


「ブリッツ・ライトニング!!」


ゴロゴロ!ドーン!!


「アキャーーー!」


七海の魔法が直撃した。


「おっぱい女! よくもやったわね!」


エロイお姉さんは怒りを七海に向けた。


「あなたの方がおっぱい女でじゃないですか!

 露出狂のあなたにだけは言われたくありません!!」


いいぞ!七海! ナイス返しだ。


もう一度、デカ乳女目掛け中華君を投げつける。


ヒュンヒュン!

と中華君が音をたてて宙を舞う。


デカ乳女は体をかがめ中華君を避ける。


「ハハハハ!坊や! 同じ手に引っかかると思って」


ヒュンヒュン!


ゴン!


中華君がブーメランのように戻ってくるときに後頭部へ華麗にヒットする。

さすが俺の敬愛する女神様のキッチングッズ!


「いた~~~い!ハーレム小僧!! ふざけた事をしておくれじゃないかい! 許さないわよ!!」

と後頭部を押さえながら立ち上がった。



「皆の者、下がるのじゃ!!」


おっちゃん二人、露出狂の奥で、じいさんが何か詠唱している様子だった。


・・・どう考えても魔法だよね。

しかも超強力なやつを詠唱しているっぽい。


「やばい! みんなこっちへ来い! じいさんが魔法を撃つぞ!」


俺は智弘、将太、則之、七海が戻ってくるのを確認するとマジックランドセルを肩から下ろし、水を掛けるような動作をした。


ザバーーーン!!


ランドセルから飛び出した大量の水は決壊したダムのような勢いで4人を襲う!

暇さえあれば川にランドセルを置き水を吸い込んでいたのだ。

その量は湖一個分位はあるだろう。

4人は水に飲み込まれ凄い勢いで流されていった。

両手を挙げ溺れまいとするが水流の力は強く成す術もなく濁流となり飲み込まれていった。

が、魔王と同じ恐怖感を吐き出す連中だ、あの程度で死ぬことは無いだろうが時間稼ぎにはなるだろう。

辺り一面水浸し。

ちょっとした池が出来上がってしまった。


「みんな無事か? 逃げるぞ!」


とりあえず小高い丘まで全力で走り装甲車を出した。


「早く乗ってくれ!」

俺は装甲車に飛び乗り運転席に座った。


「一刻も早く、ここから逃げよう」

奴らは俺を狙っていた。

ターゲットは確実に俺だった。

俺だけが狙われる理由は何だ?

お姉さんの巨チチをちら見したのが原因か?・・・・・まさかな。

その程度で、殺されてはたまらない。

俺はみんなが乗り込んだのを確認するとアクセルを踏んだ。


「いったい、今のは何だったのでゴザルか!

 いきなり碧殿を斬りつけようとしたでゴザルよ」


「おかしい。数秒前までは和気藹々と話していたのに。

 あの豹変振りは尋常じゃないぞ!」


「何かマズイ事を言ったでゴザルか?」


則之と智弘が話をすると七海が


「あの人たち、普通の人間じゃないわよね。

 爪伸びたし、手が人間と思えないくらい大きくなったし・・・・

 あのお姉さん肌の色が浅黒く変わったし」


「あの『恐怖』は只者じゃなかったぞ! 魔物である事は間違いないでゴザルな。

 セキジョー・ダンジョンにいた吸血鬼と同じか、それ以上でゴザル」


「「「「魔王だ!!」」」


後ろの席の4人が声を合わせて言った。

やはり、そう思わざるをえない。

魔王でなくても、あの吸血鬼と同じくらいの強者である事は間違いない。



逃げ出してからどれくらい経ったのだろうか?

俺の感覚では1時間以上走らせたように感じた。

が、実際は10分ほどしか経っていないようだった。

装甲車を追いかけてくる様子は無い。

ホッとすると足がガタガタと震えだした。

アクセルを一定に踏むことが出来ず装甲車の速度も安定しない。

速度もガクガクと雑な運転になってしまった。


「おい、碧! 大丈夫か!」


「ダメだ、誰か交代してくれ。

 緊張が解けたら震えが止まらない!!

 みんな、よく平気だな」

俺は声を震わせながら言った。

運転を代わるために装甲車を停止させた。


「もう~~碧お兄ちゃん!しっかりしてよ~

 智子の方が運転上手いんじゃない?」

と智弘が立ち上がろうとするとヘナヘナと腰砕けの状態になった。


「ア、アレ~~???」


後ろの席には装甲車の床に女の子座りをした智弘がいた。

将太も七海も後部座席から立ち上がろうとしたが立ち上がれなかった。

則之だけは平然と立ち上がり


「拙者が運転するでゴザル。

 一刻も早くナミラーに向かうでゴザルよ!!」


と言って運転を代わってくれた。

ヘナヘナにならなかったのは則之だけだった。

やはり県でも有数の腕前を持つ剣士だからだろうか?

あの程度では動じてはいないように見えた。



「でも、なぜ襲ってきたのか?

 それまで普通だったのに。

 ターゲットは俺だったよな。

 狙われる理由がない!」


俺は智弘、将太、七海の顔を見回しながら言うと。


「碧くんが、あのお姉さんの胸をガン見したんじゃないの?

 女性は男子の視線に敏感なのよ。

 碧くんが私の胸を良く見ているのも分かってますからね」


カーー恥ずかしい。

バレバレですか。七海さん!


「許してくださいよ~ 幼気いたいけな少年の秘かな楽しみなんだから!」


幼気いたいけな少年は、そんな事しませんから!」


「ケチ~減るもんじゃないんだから」


「そういうことではありません!!」


「アオ君、七海さん。そういう話はいいから、真剣に考えようよ」


「「はい!」」


と将太の正当な主張に俺と七海はしをらしく下を向いた。


「いったい、何がきっかけで豹変したのだろう?」

智弘が腕を組みながら考える。


「僕が、アオ君のカレーの話をした途端、襲われたと思うけど」


「碧が茜さまの兄と言うのを知っていたと言うことか?」


「奴らが魔族、紅姫の手下なら『伝説の勇者の兄=危険人物』と言う可能性あるかもしれない。

 ただ、将太は『アオ君』としか言ってないんだぜ。

 『アオ君』だけで俺が『白田 碧』と判明するとは思えないけどな~」


「まさかカレーじゃないだろうしな」


「カレーだったら、そこら中の料理屋さんが犠牲になってるはずでしょ。

 その可能性は無いと思うわ」


この時の俺たちは、まさか『BLカレー』が引き金になっていたとは露にも思わなかった。

それを知る事になったのは、もっと後のことであった。


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