第211話 ナミラーへの道


前日の大統領の会見はひどく消耗をもたらした。

大統領はユーモアもあり気さくな方だと思うが『大統領』という肩書きのためか普通に生活していては感じることの無い緊張感を強いられたようだ。

大統領府の帰りに食材などを確保するために市場に寄って必要品を買いホテルに戻ったのだが夕飯を取ると全員が死んだように眠りについた。

リッチとなった七海も人間化が進んだからか最近では睡眠と食事は必須なようだ。


翌朝、ホテルにヘルムートさんが訪ねてきて軍需物資の集積地へ案内してくれた。


「碧殿、けっこう量があるのだがマジックバッグに入るかい?」


と一山はあろう補給物資を指差した。

が、ドラム缶の十山と比べたらたいしたことの無い量だった。


「あ、大丈夫ですよ。

 まだまだ、運べますよ」


「えっ! そんなに入るのかい?」


「はい、まだ余裕がありますよ。

 もう一山くらいは余裕でいけますよ」


「ほ! 本当かい!!

 普通はそんなに入らないのだが・・・・・

 白田殿のマジックバッグは尋常じゃないのだな。

 さすが、異世界召喚者というところか」


「どうします?」


「運んでもらいたいのは山々なのだが、1個の部隊にだけ任せると何らかの理由で届かなかったりするとナミラーの一軍が全滅になる可能性もあるのでな」


なるほど。

ジーコさんの商会と違って軍隊は一つの部隊が運べるからと言って、幾らでも良いと言うわけにはいかないのか。

言われてみれば確かにそうだ。

もし、俺に何かがあれば、この物資は永久に失われてしまう。

それが正しい判断だろう。

俺はマジックランドセルを開け補給物資に被せるようにして物資を吸い込んだ。


「ほー凄いね。爽快だ。ハハハハハ」


「ではヘルムートさん!確かにお預かりしました。

 ナミラーの駐屯地に責任を持って届けます」


「白田殿。頼みます。

 私も数日遅れでナミラーへ戻ります」

と言うとヘルムートさんは敬礼をしてくれた。

俺たちはお辞儀をして軍の集積所を後にした。


人気の無い町の郊外まで歩いて行き、そこで装甲車を出し南下していく予定だ。

何れは、この装甲車のことも多くの人に知れ渡る事になるだろうが、今はまだ出来る限り伏せておきたい。

今日は珍しく将太が運転をしてくれた。

智弘も運転をしたいというのだが・・・・・・体が小さすぎてペダル類に足が届かないのだ。

唯一、智弘が幼女化して残念に思うことだそうだ。

運転してくれている将太がギリギリ運転できる体躯なのだ。

助手席には七海が座りナビゲートをしている。多分、仲良く。


後の席に俺と智弘と則之が座っり今後の事を相談した。

ナミラーに軍需物資を届けた翌日、予定通り南下して進む事にした。

今回は敵と出合ったら掃討して行く方針に変えた。

以前は消極的過ぎたので多少のリスクは承知の上で進まない限りいつまでもガルメニア王都には辿り着けない。

さすが、前線基地に当たるルホストは大きく迂回しなければならないだろう。

街道を避け、出来る限り直線距離で向かう事になった。


「なぁ~碧。『女神の加護』を貰ったって言っていただろ。

 どんな効能があるんだ?」


俺は自分のステータスをイメージして『女神の加護』を見た。


「毒無効化、麻痺耐性、睡眠耐性、即死無効、熱耐性、冷耐性、雷耐性、暗黒魔法耐性、聖魔法耐性(回復魔法は除く)、落下耐性、ゾンビ化耐性、奴隷化耐性etc だそうだ」


「何気に凄いじゃないか! 不老不死は無いのか?」


「それは無いみたいだな」


「即死と言うのは恐ろしいでゴザルな」


「そんな魔法もあるんだ」


「碧、魔法だけとは限らないんじゃないか? 罠などで死ぬとか?」


「罠か。そんなのも防いでくれるのか?」


俺は不審そうな声を出した。


「罠から槍が急に出てきて刺さって死ぬのも即死と言えば即しだけど、物理的になモノだろ?」


「試してみればいいんだよ! これから碧が宝箱係な!」


「おいおい、ちょっと止めてくれよ。俺はまだ死にたくないから」


とビビリーな俺は強く智弘に言っておいた。



リーパスとナミラーは300kmくらいの距離がある。

舗装されている道なら1日で楽勝に進める距離だが人目を避けるためにどうしても森の中などを走る事になる。

慎重に走らなければならない場所もあるので、どうしても2日ほど時間が掛かってしまう。


そして、装甲車は乗用車と違って乗り心地が良いわけではない。

運転していてもハンドルなど操作系は重いし死角が多く木にぶつけやすい。

後部席は座り心地が良くない。

1時間乗っていると足と腰に疲労が溜まってくるのが分かる。

近代兵器と言っても乗り心地まで加味されているわけではなかった。


それでも馬車と比べれば雲泥の差だ。

馬車はだいたいい一日30kmほどだそうだ。

それと比べればはるかに早い。

リーパスからナミラーの援軍を指揮したアイゼー大将は5日ほどで到着した。


智弘曰く、「ほとんど不可能な行軍速度!」だそうだ。

いくら統率の取れている軍だとしても補給物資を含め、普通の馬車の2倍の速度で部隊が進軍してくるなんて有り得ないそうだ。

アイゼー大将の能力を示す証明だそうだ。

ただ単に人の良さそうな爺さんでは無さそうだ。



ナミラー10km直前で丁度良い具合に小高い丘があったので、そこで休憩&食事を取る事にした。

装甲車をしまい木の机、木の椅子などを出し食事の用意をしようとしたとき!



チュドーーーン!


キエーーー!

ブヒーーーー!



!!!!! なんだ!

俺は爆発音の方へ振り向いた。


「魔法の爆発音じゃないか!」

「モンスターの奇声じゃないかしら」

「何ごとでゴザルか!」

「アオ君、行ってみた方がいいんじゃない? 誰かいたら助けないと」


俺たちは机と椅子をほっぽりだしながら爆発音の方向へ向かった。

智弘は飛空魔法を使い先発するのであった。


「キシェーーー!」

「あぶねーぞ! 避けろ」


「グギャー」

「ご隠居さま! 大丈夫ですか!」


「ブゴーーー」

「ワシは大丈夫じゃ! おメアは大丈夫か!」


「何だよコイツは! しぶといぞ!!」

「グゲーーーー」


男女の声とモンスターの叫び声が聞こえる。


モンスターが見えた!

でかい! でかいぞ!!

そこにはダンプカーくらいのサイズはありそうな四足のモンスターがいた。

尻尾が3本生え尾の先は鋭く尖っている。

智弘が空中からファイヤーボールを打ち込みモンスターの牽制する。


「ムゴーーーーー」

モンスターが振り向くと・・・・


三つの頭が・・・・・・


豚?・・・・豚だよな。


犬じゃないのかよ!


ブタケロスかよ!


豚の三つの顔のうちの一つは煙を出しながら黒く焦げており、どうも死んでいるように見えた。

あの旅人達がやったのだろうか?

旅人達の服を見ると4人とも和服を着ていた。

ひょっとすると、リーパスにいたイズモニアの人かもしれない!

と俺は反射的に思った。


智弘がマジカルなんちゃらを伸ばし左側の豚の頭に目掛け勢い良く強打する。


バゴーーン!


と凄まじい音が響くと脳震盪を起こしのだろうかブタケロスの体が左右に揺れた。

将太は旅人の下へ駆け寄り魔法障壁を張り4人を守った。


「サンダーボルト!!」


七海が雷撃魔法を撃つとブタケロスは感電し動きが完全に止まった。

すると則之は素早くブタケロスに駆け寄り右の前後の足を切断した。


「ブヒヒーーー!!」

「ギャーギャー」


ブタケロスが狂ったように絶叫する。

則之はターンするとジャンプし右の首に目掛け斬りかかった。


ドサッ!

右の頭がが地面に落ちる。

右の頭がが無くなって、左の頭がいっそう奇声を発しながらブタケロスは暴れだした。


「ブリッツ・ライトニング!!」

七海がまた魔法を打ち込む。

動きがまた止まった瞬間、智弘がマジカルなんちゃらの先端を尖らせ左の頭のこめかみに突き刺し貫通させた。


ブタケロスの奇声が終わると、崩れ落ちるようにガクガクと倒れた。

俺がタナニウムのプレートと中華鍋を取り出したときにはすべてが終わっていた。


・・・・カッコつかね~

しかも右手には中華鍋。左手には巨大な焼肉プレート。

変人にしか見えないだろう。

和服を着た4人の冷たい視線が刺さる。

その視線は


「こいつ、頭、大丈夫か?」と俺に語りかけてくる。


「みなさん、大丈夫ですか?

 怪我などありませんか?

 僕、ヒールが使えますので遠慮なく言って下さい」

将太が魔法障壁を解き旅人の方を向き直り話した。


「お若い僧侶様、ありがとうございました。

 助かりましたぞ」


ご隠居と言われた老人が答えた。


「お譲ちゃんたち、強いわね~ 助かったわ。

 見たこともないモンスターにいきなり襲われたのよ。

 私、怖くて震えていたわよ」


メチャクチャ色っぽいお姉さんが言うと智弘が地上に降りてきた。


「お譲ちゃん、空飛べるのか!! モンスターじゃないだろうな~ ハハハハ」

痩せた男が智弘に声を掛ける。


「凄いでしょ~おじさん!

 パパもママも使えるんだよ~

 私の一家はみんな使えるんだ~」

と智弘があざといぶりっ子をしながら大嘘を言うのであった。


おいおい、お前のところのおじさんは普通のサラリーマンでおばさんは普通の主婦だろ!

いつからそんなキテレツな一家になったんだよ!


「背の高い姉ちゃんは凄い腕前だな!

 巨大なモンスターを一刀両断カか!」


「剣が良いのでゴザルよ!」

と則之は自慢のくじら君を痩せた男に見せた。



「魔法使いのお姉ちゃんも相当腕が立つな!

 雷撃の魔法を使えるなんて、そうとう上級な魔道師だな」

と太った男が言う。


「大丈夫ですか?みなさん。

 うちには聖女様がいるのでたいていの怪我は治してくれますよ」


「せ、聖女がおるのか! 凄いパーティじゃの!」


「うっ!」


老人が驚くと、智弘が七海の側に寄ってお尻を抓った。

あ!ヘンタイ幼女! そのお尻は俺の尻だぞ!!


七海が聖女の事を漏らしたのをマズイと思ったのだろう。

智弘は余計な情報を相手に与えるのを極度に嫌う。

ガルメニアを後にしてからアルファンブラ、マイソール両家やオリタリア大統領など出会う人たちが好意的に接してくれるから、どうも出会う人に気を許してしまう。

ここはゲームの世界ではない。

一度死んだら生き返ることは無い世界。

モンスターが徘徊し、魔王がいる世界なのだ。

智弘の判断は正しい。

が、七海のお尻を抓ったのは許せん!

今度、アイアンクローを噛ます機会があったら倍の力で掴んでやろう。


「みなさんのおかげで助かりましたわ。 

 ありがとうございます」

と妙齢で和服の上からでも分かるバインバインなお姉さんが俺たちに頭を下げるのであった。

が、俺を見る瞳は冷たかった。


俺、お姉さんに何かしました?

胸をチラ見したのがバレました?

仕方ないでしょ!健全な少年なのですから、そんなに巨大なメロンを持っていれば!


「あぁー聖女様でしたか。

 僧侶様と間違えて申し訳ございません」

老人が頭を下げ詫びを入れた。


「そんなこと気にしないでくださいよ。

 たいして変わりませんから。

 怪我などありませんか?遠慮せずに言ってくださいね」


「もう急に変なモンスターが飛び出てきて驚いたわ」


「あのモンスターは何なんですか?」

智弘がお姉さんを見たあとに老人に聞く。


「ワシも見た事も聞いたこともない。

 新種のモンスターじゃなかろうか?」


「おじいさんが知らないとなると新種なのかもしれないね~」


「譲ちゃん、頭いいの~ 賢い賢い」


「テヘ」

と智弘は可愛い子ぶりっ子をした。


「豚の頭のケルベロスなんて見たことねーから変異種かもしれね~な」

太ったおじさんが腰に手を当てながら言う。


「変異種なんているでゴザルか?」


「変異種でなければ誰かが合成したのかもしれね~な」


「そ、そ、そんな事、出来るでゴザルか!」


「まぁ~分からんけどな」

と太ったおじさんは両手を広げ肩を竦めた。


「で、坊やは中華鍋を持って何する気だったの?

 それで戦うつもりだったの?

 危ないわよ。 ふっ!」


笑った。笑いやがった!! デカ乳女が俺の中華鍋を見て鼻で笑った!!

女神様! このおっぱい女に天罰を食らわしてください!!

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