第192話 アルファンブラ商会ぱーと2

ジーコさんがロッシさんを『兄さん』呼ばわりしていたのは、子供の頃から付き合いだからだそうだ。

ジーコさんは一人っ子だったらしく親戚筋にも当たるマイソール家とは子供の頃から行き来をしており子供の頃に家庭教師をしてくれたのがロッシさんだったそうだ。

その辺りの事もあるためか、どうもジーコさんはロッシさんに頭が上がらないように見える。


「ジーコ、お前のところで処分に困っていたガスリンをみなさんが必要としているようなのだ」


「あの危険物をですか?」


「異世界の乗り物に必要なのです」


「異世界の乗り物? 興味深いね。

 見せてもらう事は出来るかい?」


「人目に付かないところがあれば後でお見せいたしますよ」


????ネーナさんからの手紙で装甲車の事は伝わっていると思ったのだが?

マジックランドセルのことも知らなかった。

ネーナさんは父親に対しても俺たちの秘密といえるような事は伝えていなかったということか。

義理堅いな。

『沈黙は金成り』という商いの基本中の基本なのかもしれないが俺の中でネーナさんの株が爆上がりだぜ!!

でも俺のことを毎週手紙でとか言っていたが異世界のチート能力に関すること以外で書く内容なんてあるのだろうか?


「保管してあるのはガスリンだけですか?」

智弘が聞いた。


「他にヘビー、ライト、ミディアムにガスリンの合計4種類あったよ。

 用途が違うらしく燃焼の仕方が違って話だけど」


「やっぱり」

と智弘は一人納得し続けた。


「蒸留塔はありませんでしたか?」


「保管施設内に大きな塔が作られていたよ。

 多分、それのことだろうね。

 今でも使う事は出来るみたいだがね。

 あの規模の土地と建物が信じられないくらい格安だったので買ったのはいけど・・・・

 その塔もやたら頑丈で簡単に壊すことが出来なくてね

 曰くつきの物件だったというオチなんだよ」」

ジーコさんが答えてくれた。


「智弘、その蒸留塔ってなんだ?」


「簡単に言うと原油に熱を加え蒸気にしたものを塔に送り分離させてガソリンや灯油などに分けるのさ。

 蒸留塔は上に行くほど温度が低くなるようになっていて、入ってきた石油蒸気を沸点の低いものから順に分けて集めているんだよ」


「何だか凄い施設じゃないか。ハルフェルナにもそんな施設があるということか。

 そんな凄い物を作って今は使われていないなんて勿体ないな」


「ハルフェルナでは魔石のほうが使いやすいのだろうな。

 そのラーチという科学者もさぞガッカリしたことだろうな。

 俺たちがありがたく使ってやろう。

 ジーコさん、その液体を譲っていただくことは出来ますか?」


「かまわないとも。うちの商会も処分に困っていたところなんだよ。

 ガスリンだけかい?」


「我々が一番欲しいのは、多分ライトというヤツですね。

 異世界の乗り物の燃料で、それが無いと動かないのですよ。

 どうやって保管されています?」


「昔から鉄樽に入っていたみたいだったよ。熱に敏感なので地下に保管してあるよ」


鉄樽?・・・・ドラム缶のことか。

蒸留塔が智弘の予想した物と同じということを考えると、そのなんちゃらラーチは間違いなく俺たちの世界からの召喚者だな。

現代世界では優秀な科学者かもしれないがハルフェルナではマッドサイエンティスト呼ばわりか。

ラーチもこの世界の発展のためにガソリンや燃料を作ったのに・・・・

そう思うとなんだか哀れな気もするが俺たちがありがたく使わさせてもらおう。


「原油ってあるのですか?」

智弘がジーコさんに聞くと。


「多分、『龍』の排泄物のことだと思うけど・・・・・

 実はその辺の事情もあってガスリンは一般的には広まらないということもあるんだ」


「排泄物!! 『龍』っているんですか?」


ハルフェルナに来てドラゴンは見たことが無い。

プランクトンの死骸じゃないのかよ。

排泄物? 小便?それとも・・・・でかい方か? いや、細かい事は考えるのは止めておこう。


「あぁ、いるよ。 数は少ないらしいけど」


「さすが、ファンタジーの世界だ! ドラゴンがいるなんて」


「碧くん、『龍』とドラゴンは別種だよ。

 『龍』に比べればドラゴンなんてトカゲのようなものだから」

ジーコさんが教えてくれた。


「え?? 『龍』とドラゴンって別なの?」


「別も別! 『龍』は人間より知力が高いかもしれない。

 ドラゴンみたいにやたら好戦的では無いし、話も通じるからね。

 多くのドラゴンを従えていて竜族の頂点に君臨するのが『龍』だよ。

今は数も少なくなってしまったそうだし・・・・・

 すべてがクリムゾン魔国にいると言われている」


「なぜですか?ロッシさん??クリムゾンに? なぜ?」


「クリムゾンの侵略を受けて配下に加わったそうだよ」


紅姫・・・・・なんて恐ろしいヤツだ!

ドラゴンをトカゲ呼ばわりできるほどの力を持つ『龍』を従えるなんて・・・・

茜ちゃんの仇を討つのは一段と遠くなった気がした。


「龍の排泄物ということは原油となるものは手に入らないと考えた方が良いのですね」

智弘がロッシさん、ジーコさんに尋ねる。


「今となっては難しいと思う。

 『龍』の全てがクリムゾン魔国にいるだろうからね。

 探せば一頭ぐらいいるかもしれないがね」


「という事は、昔は龍の排泄物が手に入ったということか。

 ラーチはどうやって手に入れたんだろうか?

 当時の『龍』は協力的だったのでしょうか?」


「龍の涙や爪はゾンビ化を止めるための原料だからね。

 物語では勇者・茜さまは龍の涙や爪を使いゾンビになりそうになった人間を救ったといわれているからね。

 物語が真実なら『龍』と人間は協力関係にあったのかもしれない」

ロッシさんが丁寧に教えてくれた。


燃料の話しから興味深い情報を教えてもらうことが出来た。

コリレシア軍からちょろまかしたトラックの中の一台にドラム缶が大量に乗せられていたが、そろそろ燃料のストックが怪しくなってきたところだった。

これで燃料の問題の目処が付いたので一安心できそうだ。


「その施設はどこにあるのですか?」

俺はジーコさんのほうへ向き直り聞いた。


「リーパスから北東へ馬車で半日くらいだね」


「装甲車なら2,3時間あれば行けそうだな。

 夕暮れまで時間もあるからい行くか? 智弘」


智弘は腕組みをし顎に右手をやり考えていた。

この仕草は昔からの智弘が思案するときのお決まりの仕草なのだが、背の低い幼女がするのはちょっとどうかと思う。

幼女がするこの仕草を見てイラっとするのは俺だけではないはずだ。


「まだ大統領から声も掛からないし明日にしよう。

 その施設も色々と見てみたい」


智弘はラーチの作った施設、いや、ラーチ自身に興味があるようだ。

多分、どれくらいの科学力を持っていたのか気になるのだろう。


「明日だね!」

ロッシさんがいきなり声を上げた。


「明日ですね。私も一緒に行きましょう」

ジーコさんも声を上げる。


へ?

おっさんズ! そんなに暇なのですか?


「お二人方とも仕事は大丈夫なのですか?

 お偉い方々でしょ。いいのですか?」


「構わん! 目の前に異世界人がいるのだ。

 学者なら少しでも研究したいに決まっている」


「俺たち、普通の高校生ですから」


「私も装甲車に乗せて欲しい。

 私がいたほうが施設へ行ってもすんなり物事が進むよ」


とジーコさんは縋るような上目遣いで俺を見る。

その目は『いいでしょ、いいでしょ。僕も連れて行ってくれるよね』と小動物のような瞳をしていた。

ヤメーー!おっさん! 将太と違って気持ち悪いわ。


「でしたら、私も連れて行ってくださいますよね」

とアレックスさんもウインクをしてアピールしてきた。


智弘の方を見ると


「いいんじゃないか。ロッシさんは異文化に興味がおありだし、ジーコさんには燃料を譲ってもらうから」


ということで明日、蒸留塔のある施設へ向かう事になった。

 

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