第182話 終結


「おお、やべーー!血が止まらん!」


ライキンは尋常では無い回復力で傷口などは目に見えて塞がっていくのだがシャムシールから発せられる黒い靄のせいなのかいつものように傷口がふさがる事は無かった。


「ヒール!!」


それを見た茜が慌てて回復魔法を掛け傷口を塞ぐ。


「これは気をつけねーと、やばそうだな!!」


「ケダモノ!いつものように雑な戦い方をしているといくらお前でも危ないぞ!ハハハハ」

アクアが嘲笑う。


「うるせーー! 獣王と言われるライキン様を舐めるなよ!」


ライキンを中心に右に茜、左にブラドーが剣を構えた。

その様を見やったアクアは


「お前たち! カヨワイ私に3人がかりとは卑怯にもほどがあるぞ!

 一対一で戦おうという気は無いのか?」


「うぐぐ」

ライキンが唸る。


「何言っているのよ! ライキンさんみたいに大きくなってカヨワイとかどの口が言っているの?

 私達の世界の『戦隊モノ』はね~正義の味方が集団で悪いヤツをボコボコにするのがお約束なの!!」


と茜はタナの剣を突き付け答える。


「なんだ!その『戦隊モノ』とは!どっちが悪人なのか分からないでは無いか!

 正義の味方がそんな卑怯なことをしては筋が通らないでは無いか!」


「あなたが悪人に決まっているでしょ!」

 あなたの大好きな戦いは可能な限り最大戦力を導入するんでしょ」


「フ!」

アクアは痛いところを突かれたと思ったが鼻で笑った。

そして続けた。


「お前たちに騎士道精神は無いのか?」


「亜人さんたちを奴隷にしているような輩が騎士道精神とか言わないでよ。

 うりゃーー!」


というと茜は斬りかかった。


ガン! ガキン!

と甲高く重い音が響く。


「フフフフ!軽いな!

 アリーナ様にやられた足のダメージか!」


「にゃにお~~~! 茜ちゃんはそんなことには負けない!!」


思いのほかアリーナに斬られた足にダメージが残っている。

地面を蹴って近づくのにも鍔迫り合いのときの踏ん張りが利かないために剣に力が入っていない。


ガン!!

ガキキン!!

と音が響く。


ブラドーが細身の剣でアクアの左脇腹を突きさす。


「ウグ!」


とアクアが唸ったが剣を抜こうとするが抜けない!


焦るブラドー!

アクアは体の筋肉を硬直させ剣を抜けないようにしたのだった。

チャンスとばかりに殴りつけるとブラドーは華麗に舞うようなバックステップで回避する。


「ブラドー! お前の動きは一々癇に障る!!」


「ふふ。 伯爵ですから。

 姫様から貴族の称号を頂いたのでね」

とブラドーはアクアを馬鹿にしたように笑う。


「ふ! 似非伯爵が! ファイヤーボール!!」

アクアは怒りまかせに魔法を放つがブラドーは魔法障壁で対抗する。


「ライキン、貴様もボケッとしてないで働け!!」


「お、おう!!」


ライキンは鉤爪に渾身の力をこめ振り下ろす。


ゴガン!!

と鈍い音が響く。

アクアは巨大なシャムシールで防ぐ。


「サンダーアロー!!」

ブラドーが刺さっている自分の剣を目掛け魔法を唱えた。


「うううぐーー!」

アクアの体に雷が走ったのが分かった。


「バカヤロー!俺まで感電したじゃねーか!」

ライキンの体毛は全て逆立っていた。


「その程度でお前が死んだら誰も苦労はしない!!」


「ブラドー!お前は味方なのか敵なのか!!」


「私は姫様の騎士だ!」


「あーーそうだったな」

とライキンはブラドーに対するイラつきをアクアにぶつけた。

アクアがシャムシールで攻撃を受けるとまたブラドーは自分の剣を目掛け雷撃魔法を繰り出した。

そしてまた感電するアクア。

その瞬間、茜は俊足を使い、全ての力も振り絞りタナの剣に全ての力を込めアクアに突き刺した。


「グサッ!」


タナの剣はアクアの右脇腹に刺さりブラドー剣を押し出し左の脇腹から飛び出した。

そしてタナの剣を引き抜き右肩から斬りつけた。

血が吹き出し誰が見ても重症な常態である事が分かった。


ピカッ!!


アクアは右脇腹を抑え目潰しのハイフラッシュを唱えると神殿跡の方へと逃げていった。




「目がーーーー!!」

茜たちはもろにハイフラッシュを至近距離から浴び視力が回復するのに少しだけ時間を要した。

視力が回復したときにはアクアは目の前にはおらず血が神殿跡の方へ続いていた。


「追いかけましょう!」

3人は頷き神殿の跡地へ走っていった。




神殿の大聖堂と思われる場所の一段高い位置には汚れた勇者・ロゼと思われる石像があった。

何とか形状は保たれているが至るところが欠けている状態だった。

アクアの血はその石像の足元へ通じていた。

足元には扉があり扉の奥を覗くと地下へと通じていた。

地下道は広く、余裕を持って人が通れる広さになっていた。


「なぜ、こんなに広いの?」

疑問に思った茜がブラドーに聞くと。


「何かあったときの地下壕、食料庫であったと聞いていいます」


「なるほど」

 


血は奥へ奥へ、下へ下へと続く

辿っていくと、ひと際大きい扉の部屋に通じていた。

部屋はとても広く中へ入ると

アクアはシャムシールで体を支えるように立っていた。


「もう観念しなさい!! あなたの負けよ!!」

茜が剣を構えるとブラドー、ライキンも戦闘体制を整えた。



「私の負けだ。

 だが、お前たちにヤラレるわけにはいかない!!

 我が母アリーナ様、あなたの下へ旅立ちます!」


と言うと巨大なシャムシールで自分の喉を突き絶命した。

一瞬、まばゆい光を放ったかと思うと、そこには今まで見たものより大きなゲートがあった。

それに呼応するように巨大なシャムシールも粉々になり消えていった。


終わった。

と一息つこうとしたとき。


アクアが散ったゲートの上空にアリーナが現れた。


「勇者・茜!

 今回は私の負けね。

 が、神にはたらいた数々の無礼!

 けして許すことは出来ない!

 何れこの決着はつけさせてもらうわ」


というとゆっくり消えていった。


取りあえずはこれで終わったのだろう。

と、安堵した茜たちであった。



「オーーイ、お前ら大丈夫か!なんだ、終わっちまったのかよ!

 俺たちももっと暴れたかったな~」


「お、ゲートがあるじゃん!

 あの女も『魔王』になったんだな」

スケさん、カクさんがやってきた。


「女! お前も魔王にならないように気をつけろよ!」

スケさんが言うとブラドーが怒気を発しながら


「姫様に何を無礼な事を言っているんだ!

 聡明な姫様は『女神』になることがあっても『魔王』なんぞになる訳が無いだろ!」


それを聞いたスケさんはカクさんの方を向いて二人で肩を竦めあった。


茜はゲートになったアクアに触れながら


「あなたも可哀想な人だったのね。

 愛してくれる人がいなかったから、こんなことになっちゃって。

 せめてその安いプライドさえなければ・・・・・

 聖女になれなくてもアリア様と一緒にさえいることが出来たら・・・・

 世の中のために何か残せたのかもしれないわね・・・・

 それとも生きていくことが辛かったの・・・・」


茜はマシンガンをそっとゲートになったアクアの隣に置いた。

それはアクアが一人寂しくないようにか?

碧なら必ずロゼの神殿の跡地に来ると思ったのか?

はたまた・・・・・



茜たちが地上へ上がると加奈を初めアルファやフェネクシーも集まっていた。


「終わったわよ」

と茜が言うと


「アカネーーー!!」

「茜ちゃん!!」

といって加奈と詩織が飛びついてきた。


「怪我は無い?大丈夫か?」

「茜ちゃん、ヒール、いる?」


「もう大丈夫よ~~ブラドーさんやライキンさんがいるんだもん!

 負けるわけ無いじゃない!!」


「茜さま、ありがとうございました。

 この争いで散ったファイレルの人々も救われるでしょう」

とアルファが


「茜さま。数々の危機をお救いくださいましてありがとうございました」

アリアが恭しく頭を下げる。


「アリア様こそ詩織を助けてくださいましてありがとうございます。

 アリア様のおかげで救われました」

と茜は馴れ馴れしく手を握ってしまいハッと思った。


「アリア様、申し訳ございません。

 私なんかが馴れ馴れしく高貴なお方に」


と慌てて手を離した。


「茜さま、何をおっしゃるのですか。

 茜さまはウインレルやファイレル・・・・ハルフェルナを救ってくださった英雄ではないですか。

 聖女は何人もいても茜さまに代わる方は誰一人おりません。

 それに茜さまも『姫様』じゃないですか」


とブラドーの言葉を使った。


「『姫様』と言っても私は一般人ですから」


「いえ、『姫様』は『姫様」です」

とブラドーが直立不動で答えた。

アリアは『でしょう!』という顔をしていた。


「女子! お疲れじゃの」

フェネクシーが茜に声を掛けると。


「大魔王さん、みんなを護ってくれてありがとうございました」

と頭を下げると


「このじいさん、凄いぜ!

 突如現れたウオレルの騎士を一瞬にして石化してしまったんだぜ!

 さすが大魔王と言われるだけの事はあるぜ!」


「じゃろ、小僧。

 もっと敬って媚びへつらっても良いんじゃぞ、ハハハハハ」



戦いは終わりを告げた。

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