第168話 茜・・・・散る


「ネギトロ、ごめんね。こんな事に巻き込んじゃって。痛たかったよね。ゴメンね」


茜は泣きながらネギトロを抱きしめた。

それは母のように。

ネギトロの泣き声が徐々に小さくなっていく。



「ここにネギトロがいると言う事は、『北の森』が襲撃されたと言うこと何じゃない!! 

 大魔王さん、私とライキンさんを飛空魔法で運んで!!」


と加奈がフェネクシーに願い出る。


「ライキンもか・・・仕方あるまいな。行くぞ! 背中に乗れ」

フェネクシーは巨大な黒い鳥の姿に変化した。



「お願いします、大王さん」


「頼む、フェネクシーよ」


加奈とライキンは背中に乗り去り際に


「ブラドーさん、茜をよろしくお願いします」


と加奈が言うとフェネクシーは飛び立った。





「姫様、これを」

とブラドーがハンカチを手渡すが茜は取る事はなかった。

ただネギトロを暖めるように優しく抱きしめていた。

ブラドーはハンカチで茜の額から流れる血と口からこぼれる血を拭き取った。


「ごめんね。ネギトロ。生まれたばかりなのにこんな怖い思いさせて。ごめんね。

 怖かったよね。怖かったよね。

 お姉ちゃんがあの時、あいつに情けを掛けなかったら、こんなことにはならなかったんだよね。

 お兄ちゃんの言うとおり『3度目は無い』と言うのが正しいんだよね。

 2回同じ事を繰り返す奴は3回、4回と繰り返すんだよね。

 チャンスを与える必要なんてないんだよね。

 お姉ちゃんが間違っていたね。ごめんね。

 私のせいでこんなことになっちゃって」


茜は強く強くネギトロを抱きしめた。


「ママーー」

ネギトロは泣き止み声を出した。


「ママーーー」


「ママはここにいないの、ゴメンね」


「ママーー、ママーーー」


ネギトロは茜の制服の隙間から顔をツッコミ、Yシャツの隙間をあさる。


「あ、ダメ! ネギトロ、ダメ~~~ 何やってるの」


「ママー、ママー」


ブラジャーを押し上げおっぱい探した。

そして、先端に喰らい付いた!


「あ~~~~~!ダメ!」


ネギトロは突起物に吸い付いた。

その力は恐ろしく強かった。


「ママじゃないからおっぱい出ないの!! ダメダメ!」


なおもネギトロは吸う。


「ふが~~~~~~痛い、痛い!出ないの~~~」


茜は仰向けに倒れ あっ、ダメ、 そこは~~~

と身悶えるのであった。


隣にいたブラドーはどうして良いかおろおろするだけだった。


「あ~~~ダメダメ!ネギトロ、だめ~~~~千切れる~~~~」






茜は仰向けになり失神した。

失神してもなおネギトロはおっぱいに吸い付いていた。

段々茜の声が大きくなり何事かと獣人たちが寄って来た。

茜はあられもない姿をさらすのであった。


「貴様ら! 後始末をしろ!!」

とブラドーは一喝して獣人たちを追い払うことしか出来なかった。




そこへ馬車をぶら下げた大きな鳥の姿をしたフェネクシーが戻ってきた。


「ネギトローーーーー!!」

マリーシャが馬車から飛びおり仰向けで失神している茜のところへ駆け寄ってきた。


「ネギトロ! ネギトロ!」


マリーシャは優しくネギトロを抱えるとお乳が出ない茜を見限ったのか、本当のママだと分かったのか素直にマリーシャに抱えられおっぱいを吸いだした。

茜は両乳房を露出させたまま失神していた。

が、例によって例の如く白い光が差し込み誰にも自慢の形の良い胸を披露する事はなかった。

唯一、茜を倒すことができたのはネギトロだけである。


詩織たちが馬車から飛び出し、はだけた胸を隠し慌てて茜にヒールを掛けるがピクリとも動かなかった。




「あ、あ、あ、あ茜ちゃん!」

「茜、ど、ど、どうしたんだ?」

「お、お、お、おい、いったい・・・・」


詩織、加奈、千代もどういう状態なのか理解できず動揺している。


そして、


「茜、茜、茜!」

と加奈が揺するとようやく意識を取り戻した。


「ネ、ネ、ネギトロにやられた」

とポツリ言うのであった。


マリーシャがお乳を上げる姿にホッとはしたものの茜の心は晴れることはなかった。


マリーシャの元に近寄り


「ごめんなさい。私の考えが甘かったためにネギトロに傷を負わせてしまって」


と深く頭を下げるのであった。


「子を守るのは親の役目。茜さまが悪いわけでは有りません。

 水色の少年が現れたかと思うと、あっという間に我が子を連れ去ってしまったのです。

 みなさんのお仲間が助けに入ってくれたのですが・・・・・

 力及ばず連れ去られてしまいました」


「すまん、白田。またしてもカミラーズ人にやられた・・・・・

 なすすべもなく・・・・ 

 やられてしまった・・・・・・・すまん」


と織田が言うと千代も。


「茜、申し訳ない。 

 何も役に立てず、ネギトロを誘拐されてしまった。

 詩織までもが、あのガキに怪我を負わされて・・・・・

 すまない」


と二人が頭を下げてきた。


その言葉を聞いて茜は詩織の方を見た。


「大丈夫よ、茜ちゃん。私ヒール持っているから、大事にならないから」

と詩織は左手を左右に振りながら笑顔で答えた。


その言葉を聞いて胸を撫で下ろす茜であった。


「私があの時、あの子をしっかり止めを刺しておけばこんなことにはならなかったのよ。

 私の責任よ。

 子供だからって情けを掛けてしまった私の責任・・・・・・ごめんなさい。

 もう二度と余計な情けはかけない。

 ここは日本じゃない! 日本では!」

と自分に言い聞かせるように深く心に誓う茜であった。




「よく、こんなに早く戻ってこれたな」

ブラドーがフェネクシーに問うと、


「凄い勢いでこちらへ向かっている馬車がおってな。

 御者台を見たらライキンの奥方がムチで馬を引っぱたいているのが見えてな」


「空を飛んでいたのだろ! 目が良いな!」


「ああ、奥方の鬼の形相まではっきり分かったぞ」

とブラドーの耳元で囁くのであった。


「子供をさらわれれば、そんな形相にもなるか」

ブラドーは一人つぶやいた。




「さぁ、早くファイレルへ戻らないと桃花たちが心配。

 大魔王さん、また鳥の姿になってみんなを連れて行ってくれない?」


「人使いが荒いの~」


「人じゃなくて悪魔なんでしょ。

 人間がいなくなると困るんでしょ。

 それなら奉仕奉仕」


フェネクシーはまた巨大な黒鳥に変身すると


「みんな、馬車に乗れ。ワシが持って飛ぶ」


茜を初め加奈、詩織たちが馬車に乗る。

ライキンも乗り込もうとするが


「ライキンさんはマリーシャさんとネギトロの側にいてあげて」


茜は優しい顔で言うとライキンは乗り込むのを躊躇した。

切られた足を重そうに引きずりながら歩く茜だった。



「あなた、茜さまに恩返しをしてきてください。

 茜さまたちに数えきれないほどの恩を頂きました。

 獣王たるあなたがその恩に報いないとしたら末代までの恥!

 ネギトロもさぞ恥じる事になります!!」

とマリーシャは強く言うのであった。

その姿は獣王にも劣らぬ『強き母』威厳溢れる佇まいであった。


「おう! 分かった、行って来る!!」

とライキンは颯爽と乗り込みマリーシャは笑顔で手を振った。



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