第151話 北の森



ライキンの案内で北の森へ向かうことになった。

北の森と言うだけあって森の中に町があるというような感じだ。

そこには多くの亜人が暮らしている。

ライキンのような獣の獣人、犬、猫、狼、狐等々、亜人はエルフ、ドワーフ、ノーム、ホビット。

半獣人のハ―ピ―、リザードマンなども見ることが出来た。


一目で虐げられている物たちと分かるような質素、いや貧しい生活をしているのが分かる。

家も大きな家は無くすべてが平屋だった。

生活している獣人、亜人たちも質の良い服は誰も着ていなかった。

獣人たちは裸に近い衣服でも分かるが、プライドの高そうなエルフまでも質素な服を着ている。

少なくともファンタジーに出てくるようないでたちではない。


ファイレルやウオレルも茜たちから見ればけして発展しているとは言い難いが北の森よりは発展している。

その代り北の森には温かい愛が溢れている。

獣人、亜人の子供たちは分け隔てもなく人種入り乱れて遊んでいる。

大人のエルフや狼の亜人が一緒になって働いていたりする。

大小のイザコザはあるのだろうがウオレルのような奴隷は一人も見かけることは無かった。


「あ~~!ライキン様だ、お帰りなさ~~い」

エルフ、リザードマンの子供たちがライキンに声をかける。


ライキンの後にいる茜たちを見た途端。


「人間だ!人間がいるぞ! 逃げろ――」

「捕まったら奴隷にされるぞ!」


亜人の子供たちは蜘蛛の子を散らすように一目散に逃げ出した。


「うわ~~私たち嫌われているわね~」


「それは仕方のないことです。姫様。

 ウオレル国の様子を見れば亜人たちから嫌われるのも仕方のないことかと」

ブラドーが畏まりながら答える。


そこへお腹の大きな妊婦のネコらしき亜人がやって来た。

背丈は160cmも無く見るからに大人しそうなネコの亜人だった。


「あなた、大丈夫でした?」

とライキンに声を掛けるのであった。


「大丈夫だ!」


と先ほど茜に地面に押し付けられた顔の右側を摩りながら答えた。


「後に人間が数人いるのですけど・・・・・襲ってきたりしないのですか?」


「大丈夫だ。我々に協力してくれるそうだ。フェネクシーやブラドーもいる」


「ブラドー様、お久しぶりです」

と言うとブラドーに向かってお辞儀をした。


「フェネクシーといえば大魔王のフェネクシー様でしょうか?」

とフェネクシーに尋ねる。


「大魔王かどうかは知らんが、『怠惰の魔王』と呼ばれている」


「あ~~それは、初めてお目にかかります。ライキンの妻のマリーシャで御座います」

と深くお辞儀をした。


「ねぇ~『怠惰の魔王』ってけして誉め言葉ではいないわよね」

と茜は加奈に耳打ちをした。


「私は茜。異世界から来ました。なんかライキンさんの10番目の愛人だそうです」


「お、お、お前!!何て事を言ってるんだ!」

ライキンは明らかに動揺をした。

その瞬間、マリーシャの優しい穏やかな顔が変わった。


「あなた!! 後で話があります。逃げ出さないでくださいね!!」

とピシャリ言い放なつと背を向けて去っていった。


ガックリ肩を落とすライキンに


「ハハハハ、さしもの獣王も奥方には弱いと見えるな」

とフェネクシーは馬鹿笑いをしながら言うのであった。


「フェネクシーな~・・・・・・マリーシャは普段優しいのだが、こと女の事になると・・・・・」


「だいたいね、男はいつもハーレム、ハーレムとか言って女を顧みないのがいけないのよ!」


「バカ言え! 『ハーレムは男のロマン』なんだぞ! 強さの象徴だ!!」


「ライキンさん、それがいけないのよ。女はその強い男の愛を独り占めにしたいのよ!

 分かった。恋愛マスターの茜ちゃんの言うことに間違いなし!!」


「沢山女を囲って強い子孫を沢山残すのが強い男の役目だ」


「そんなこと言っているからマリーシャさんが怒っちゃうのよ」


「あの、ライキンさん」

と加奈が話しに入ってきた。


「兄弟が沢山いると兄弟同士で醜い争いが起こるんじゃないですか?

 人間の世界ではよくあることですよ。

 長子が必ずしも優秀ではなく兄弟同士の殺し合いなんて山ほどありますからね」


「兄弟の中で一番強い者が部族を治めれば良い!

 そして、それは俺の子供である必要は無い!」


「何言っているの!! 血の繋がりがすべてではないけど兄弟同士が争うなんて合ってはいけないわ!!

 私はお兄ちゃんを助けるためなら何でもするの!

 世界中を敵に回してもお兄ちゃんのためなら何でも出来る!

 この世界でお兄ちゃんが不条理な目に合わされていたら、この世界を許すことは出来ない!

 それだけ兄妹の絆は強いのよ!

 それが兄弟で争うなんて私は認めないわよ!」


茜は激高しながら言った。


「女子よ、そうは言うがな、部族には部族のしきたりがあるからの・・・・・」




「・・・・・・・・そ、そ、そうね。ライキンさん、ごめんなさい。

 私、少し頭を冷やしてくるはね」


と茜は一人誰もいない森の奥へ歩いていった。


「ライキンさん、ごめんなさいね。あの子、お兄さんの事になると見境なくなるから。

 ここに来たのも2000年後にこの地にやって来るお兄さんのためなのよ。

 亜人族のみなさんの協力を取り付けていたほうが、お兄さんのためになると思ってね」



加奈は今までのいきさつをライキンに話す。




「なるほど・・・・・・2000年後となると俺は生きていないからな~

 俺の子供、孫の代だな・・・・・・・・」


「そうなの?魔族の人は平気で1000年、2000年生きているから・・・・・・」


「俺は魔族と違い亜人種だからな。それでも人間よりは遥かに長生きだがな」


「そうなの・・・・

 次に私たちがこの世界にやってくるときには合えないのかもしれないのね・・・・・・

 それでも、亜人のみなさんに恩を売っておいても損は無いわね」


「お前も『恩』『恩』と打算的な奴だ」

 

「打算でも安心して、茜はウオレル国の奴隷に対する扱い方に相当に頭にきているみたいだからお兄さんの事がなくてもウオレル国とは事を構えることは茜の中で確定していると思うわよ」


「お前たちは人間側なのにか?」


「あの子の判断基準は人種がどうのこうのと言うより『好き』か『嫌い』、『敵』か『味方』の二つしか無いから。

 敵だと思えば徹底的に『潰すあるのみ!!』と答えるから」


「分かった。少なくとも我々は敵対しないでおくことにする。

 獣王と言われている俺でも勝てそうに無いからな」


「ライキンよ、これでお前も『脳筋王』から卒業じゃの」


「うるさい!フェネクシー」


と、何だか上手い具合にライキンたちを丸めこんだ。

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