第145話 瀕死のブラドー


会談を一方的に打ち切られた茜たち一行は城の外の一角で思案していた。


「王子様、どうします?」

と加奈が聞くと。


「ワシはライキン、ブラドーを助けに行く。そなた達とはここでお別れじゃ」


「待って、大王さん、それはウオレルと事を構えると言うこと?」

と茜が聞く。


「多分、そうなるじゃろうな」


「フェネクシー殿、人類と敵対する事になります」

アルファが問いただす。


「仕方あるまいて・・・・・すまぬ」


「ブラドーさんも気になるし・・・・・

 この国は気に入らないし・・・・・・ 

 どうしたら良いのかな、お兄ちゃん・・・・・」



ワン!ワンッ!ワワワン! ワン!!


茜の足元に子犬が近寄ってきて吠えた。

そして、靴下に噛み付き引っ張る。


「え??? 何、この子犬・・・・タナ!タナじゃない・・・何故ここにいるの?・・・・・

 アッ、似ているけどちょっと違うか。タナはもっと精悍な顔しているか」

よく見ると背中に見覚えのあるナイフを背負っている。


「おい、何だよ、この犬。うぜーな」

と織田が追っ払おうとするのだが


「待って、このナイフ、ブラドーさんの物じゃない? この子は使い魔かなのかな?」


子犬は背中を向けて10mほど走ると振り向きまた吠える。


「これはついて来いと言っているんじゃない?」

と加奈が言う。


「分かった、ワシが行って来る」


とフェネクシーは子犬のところまで走って行ったが子犬は茜の所に戻りまた靴下を噛み引っ張るのであった。


「私に来いと言うことね。分かったわ、大魔王さん、みんなを守って。 私が行ってくる」


「分かった。ブラドーを頼むぞ」


「茜だけじゃ不安だから私も行く」

と加奈が茜の後を追いかける。

子犬は全速力で城下を駆け抜け城の外へ出た。


「待ってよ、茜! 私じゃ追いつけないわよ!」


「もう~~加奈、遅いんだから」


「あんたと違って普通の人間ですから!」


子犬は城の北の方から外に出ると更にスピードを上げた。


「なによ、あの犬の速さ!!」

と言うと茜は加奈をお姫様抱っこをして飛空魔法を唱えた。

犬の通った後には砂埃が舞い上がる。

なおもスピードを上げると子犬はなんと空を駆け上がり始めた。


「なに、あの子。空を走っているんですけど」


「なんか、ハルフェルナについていけないわ・・・・」

と加奈がポツリと言う。





5分ほど猛スピードで空を駆けたろうか小高い丘が見えてきた。

すると、子犬は徐々にスピードを落とし丘に着地した。

そこには銀髪のブラドーが倒れていた。

心臓の辺りに銀色の杭が突き刺さっていた。


「ブラドーさん、ヒールヒールヒール!!」


「う、う・・・・・」

ブラドーは少しずつ意識を取り戻そうとしていた。


加奈が銀色の杭を抜こうと触る。


「キャーーー」


「どうしたの!加奈!」


「手が、痺れる。触れないわ」


「じゃ私が」


と言って茜が杭を抜こうとする。


「あ~~~~~!ビリビリする。痛いより気持ち悪い、何この不快感!!」

と一度手を離しほっぺたを両方からパンパンと叩きヨシッ!と気合をいれた。


「ふんご~~~~」

と女子高生とは思えない声を出し大股を拡げ踏ん張り銀色の杭をなんとか抜き放り投げた。

加奈はブラドーを支えるように体を起こした。


「ありがとう。異世界の者たちよ」

と力なく擦れるような声を出した。


「大丈夫ですか、ブラドーさん。勇者にやられたのね」


ブラドーは小さく頷いた。


「ねぇ~ブラドーさん、この周りにある赤いニンニクってあなたの血で染まってるんでしょ・・・・・

 血が足りないんじゃない?

 私の血で良かったら吸う?」


「あ、茜!、ちょっと何言っているのよ。眷属になっちゃうんじゃない?」


「だ、大丈夫よ・・・多分。成ったら成ったよ」


と言うと茜は手をブラドーに差し出した。


「いいのか?」


茜はブラドーの問いに黙って頷いた。


「茜!!」


「眷族などにしない事を誓いましょう」

とブラドーは茜の手の甲にくちづけをし手首より少し上の部分に噛み付いた。

ブラドーの顔色は見る見るうちに血色が良くなっていった。

ブラドーを口を離し、そして跪き臣下礼を取った。


「姫様。私の忠誠心、私の命、私の持つものすべてを捧げさせていただきます」


「え~~ブラドーさん、何言っているの!

 『困っている人がいたら助ける!』

 これがお兄ちゃんの教えだから気にしないで。

 お礼はワンちゃんに言って」


と辺りを探すがあの子犬はどこにもいなかった。


「あれ?あのワンちゃんどこへいったのかな?ブラドーさんの使い魔?」


「私には使い魔はいませんよ」


「え? あの子は一体・・・・・・」


「まぁ~いいんじゃない。ブラドーさんを助けることが出来たのだから・・・・・ハルフェルナで細かいことを考えたら負けよ」

と諦め気味な加奈であった。





と、そこへ馬に乗った水色の肌をした10歳にも満たない少年がやって来た。


「あれ! ブラドー、何してるの? 地ベタに這いつくばっていないとダメじゃない。

 もう一度、心臓に杭を刺してあげようか?」


と少年は敵意を剥き出し嘲笑いながらブラドーを挑発した。

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