第143話 ウオレルの街道


ウオレルの国境の検問所に到着すると殆どの旅人は入国を拒否されていた。

仕方なく道を引き返す旅人が多くいた。

入国を許される者の多くは商人だった。


「それにしても可笑しいです。北の森方面なら分かるのですが、こちらは南ですからね」

とアルファが言うと


「これはちょっと怪しいですね。何か企んでいるのかも」

と加奈が答える。

アルファはお付きの騎士の一人にウオレルの様子を伝えるように王都へ帰還させた。


検問所でアルファは身分を明かすとウオレルの騎士たちが集まり警戒をする。


「私はファイレル王の親書をカイト王へ渡すために来た。

 自らの手でカイト王へ手渡したいのでウオレル王都まで行く許可を頂きたい」


「しばし待たれよ」

検問所の職員が一旦中へと建物の中へと入っていく。


「ちょっと、一国の王子様相手にあの態度は何なの?」

と茜が加奈の耳元で囁いた。


「ちょっと雰囲気もおかしいわね。 何かあるのかもしれないわね。警戒しておいた方が良いかも」

と加奈が答えると茜は後ろに下がり他のみんなにも伝えた。


「女子よ。少し雰囲気がおかしいのお。この国に入ったとたん悪感情が溢れておるぞ。気をつけたほうが良いぞ」

と茜はフェネクシーの助言を黙って頷き加奈のところへ戻っていった。


建物の中へ行った職員が戻り建物の中へ案内された。

アルファを先頭に茜と加奈の三人で行くことにした。

中の一室には、ここを預かっていると思われる年配の男が待っていた。


「ようこそ、アルファ王子。ご存知かと思いますが我が国は今、厳戒態勢を引いているので色々不自由をおかけしてしまい申し訳ありません。

 これをお渡しします」

と言って通行手形を受け取った。


「これがあれば行く先々でもスムーズに通れることと思います」


「では、早速、ウオレル王都へ向かわせていただきます」

と言って部屋を出て残りのメンバーと合流をすると足早にウオレル王都へ向かうのであった。



王都へ続く街道は石畳で舗装され快適であった。

町と町の間にはだいたい5㎞位に水を補給できる地点と休憩を取れる地点が配置されている。

場所によっては千単位の人間が休めそうな休憩地点も用意されている。

ファイレル、ウインレルと比べても街道の整備具合は抜きんでていた。


「王子よ、ウオレルはいつからこんな文明国になったのじゃ?

 ワシが100年ほど前に来たときはこんなに整備されていなかったぞ」

と馬車の中から馬に乗る王子へフェネクシーが声をかける。


「ここ数年のことですよ。アクア王女が軍を指揮するようになってからですね」


「ほほー、その王女は侮れんな。ファイレルも気をつけた方が良いかもしれないぞ」

とフェネクシーが言うと


「なんで? 大魔王さん。街道を整備するなんて良い王女様じゃない。

 国の人みんな喜ぶでしょ。何を気を付けるの?」

と茜が聞くと


「街道が整備されるということは人間、物資の移動がスムーズに行えるということじゃ。

 それは商人や旅人だけではないぞ。軍隊の移動も速やかに行えるということじゃ」


「フェネクシー殿の言うとおりです。

 北だけなら安心できるのですが、ウオレルの南はファイレルの北側に隣接しているので・・・・・

 街道を整備するにしても、これはひょっとすると・・・・・」


「え?ファイレルにも侵攻してくるの?」


「それは私の口からは言えませんが・・・・・」

とアルファは口をつぐんだ。


「アクア王女が王子様にフラレて嫉妬してファイレルに攻めてくるんじゃない?」


「ハハハハ、流石にそれは無いかと。私としては宰相のニッケルメッヒが気になります」


「レイランさんも警戒していましたからね」

と加奈が言う。


「ともかくウオレル王都へ行ってカイト王に親書を手渡してからですね」

とアルファが答えう王都へ向かう事にした。




行く先々で目につくのは奴隷の多さである。

人間の奴隷も見かけるが、ほとんどは亜人の奴隷ばかりだった。

奴隷たちのほとんどはまともな服も着ていない。

体も痩せ細って目は死んだような目をしている。


異世界から来た者たちは目を覆いたくなる光景だった。

茜はその姿を目に焼き付けるようにしっかりと見ていた。

心の中には不快な感情が溜まっていった。




そういう町を幾つも通過して、ようやくウオレル王都へ着いた。

城下へ入ると他の町と同じく奴隷が目に付く。


茜の前に主人に蹴飛ばされ犬の姿をした年老いた亜人が倒れてきた。

茜は犬の老人の手を取り助け起こすとその主らしき男が老人の手を引っ張り


「てめーがしっかりしてないから旅のかたに迷惑を掛けちまったじゃないか! このボケッ」

と言って蹴りつける。


茜は背中のタナの剣に手を掛けようとした瞬間、


「やめるのじゃ! ここで問題を起こすのは良くない」

と言ってフェネクシーは茜の手を押さえた。


茜は振り向き一瞬フェネクシーを睨みつけた。

フェネクシーは自分の死を覚悟する恐怖と今まで味わったことのない強烈な殺意と言う負の感情を味わった。

目が合ったフェネクシーは昔亡くなった祖母のような優しい瞳をしていた。

それを見た茜は少しだけ心が軽くなった気がした。


「あっ、ごめんなさい。大魔王さん。ありがとう」

と言った。



「酷いです。ここの人たちは何も思わないのでしょうか?」

詩織が言う。


「私たちのいる世界でも古代、中世は同じような事をしていたから、あまり言う資格は無いのかもしれないわね」

と千代が答える。


「黒人奴隷とか当たり前だった時代があるからな~」

と織田が続いて言った。


「みなさんの世界では奴隷とか無いのですか? ファイレルでも奴隷制度が撤廃されたのはマストンが宰相に就任してからですからね」


「私たちの世界では禁止されていますね。奴隷制度を敷いていたら世界から総スカンを喰らいますわ」

と加奈が答えた。


「不愉快な国じゃの~ 人は何故、こうも惨いことが出来るのじゃろうか。ワシには理解できん」


「この国に来て、大魔王さんがライキンさんを助けたいと言う気持ちが分かったわ。

 助けてあげないと・・・・・・」


と茜は独り言のように言った。

心の中には黒い不快な感情が溜まっていった。

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