第32話 陰キャ最強決定戦④
「……はぁ……はぁ……糞ぉッ!! 一体どうなってんだよぉ…………ッ!!」
僕――アノルールは周囲に誰もいないのを確認して、ゴミ溜めに身をひっそりと身を潜める。現在発狂寸前まで怒りが込みあがっているが、まずは息を整えるべきのを優先する。
おかしい。おかしい。おかしい。何故僕が光魔術師ごときに逃げまどわなければならない。群れることでしか戦えない腰抜け雑魚のくせに。集団で僕を襲うなんてひど過ぎる。奴らにはプライドが無いのか。
「……まぁ、いい。僕は確かに失敗したけど、負けてはいない。覚えてろよ光魔術師――そして裏切り者のエレノア」
こんな状況になっているのも全て、エレノアのせいである。僕より弱い癖に。この怒りは絶対に百倍に返してやる。
あぁ妬ましい妬ましい。自分よりも幸福そうな面をしている奴が妬ましくて仕方が無い。その上辺だけの笑顔を力ずくで引きはがしてやりたい。
僕はただ幸福になりたいだけなんだ。ただ、世の中には幸福面してる馬鹿ばっかで生きにくいだけなんだ。
世界中の人間が不幸になれば、僕が世界一の幸せ者になれる。
それだけのささやかな願いを、何故馬鹿どもは邪魔をする?
「--あれ? もう追いついちゃった。もしかして、運動は苦手なのかな?」
「----ッ!?」
生理的に受け付けない、人に好かれそうな声が聞こえ――僕は振り返る。
「やぁ。さっきぶりだね。自己紹介した方がいいかな?」
――振り向くと、目の前には先ほど僕のパフォーマンスを邪魔しやがった、吐き気がするほど顔が整った陽キャ男ではないか。
奴の名はノーマン。光魔術師の中でも選りすぐりのエリート集団『討伐組』の一人である。嘘だろ……? 魔獣を囮に使ったのに、もう追いついて来たのかぁ!?
クソ……己の身体能力を上げれないのが闇魔術師の都合の悪い所だ。こうなってしまった以上、奴から逃げ切るのは至難の業だろう。
どうする……? 残り少ない魔力を使って黒蛸を生成するか? 一対一ならまだ勝機がある――
「一対一なら勝てると思ってそうな顔だけど、戦うのはあまりお勧めしないなぁ。やってもいいけど、闇魔術を発動するより早くこの剣が君の首を跳ねると思うから」
「………………クソッ!」
いつの間にかノーマンが握っていた剣が、僕の喉元に触れていた。ひんやりとした剣見に触れ、緊張で冷や汗が頬を伝う。
「……み、見逃してくれっ! 頼むぅ! もう二度と悪さはしないからな? 許してくれぇ!」
「ふふっ。君、嘘つくの下手だね。駄目だよ。もっと人と関わって円滑なコミュニケーション方法を学ばないと。バレない嘘のつき方は、真実に間に嘘を挟むのさ。まっ、今の君は何言っても無駄だったと思うけど」
そう言うと、ノーマンは笑顔を浮かべながら懐から何やら魔導書のような物を取り出した。
その魔導書を見た瞬間、何故か怖気が全身を走った。僕の直感が、全力でその場から離れろと警報を鳴らす。
「安心して、僕は君の味方だよ。探して探してやっと見つけた――次の『魔王後継者』を」
「……は?」
ただならぬ邪気を纏った魔導書を、ノーマンは開いて僕に見せる。そして、剣を鞘にしまった。
「アノルール君、魔王がどのように生まれたか知ってるかい? 闇魔術師が忘れ去られた闇魔術を使って魔王になったんだよ。――この魔導書には『魔王になれる闇魔術』が記載されている」
「--ッ!?」
「不思議そうな顔をしているね。その疑問に答えてあげるよ。まず一つ、この魔導書がどこにあっただけど、魔王城の隠し部屋にあったから盗んできたんだよ。こっそり隠し持ったからまだ誰も知らない。この世界に魔王になれる方法があるなんて、僕と君しか知らないとっておきのマル秘情報だよ」
「………………」
「そしてもう一つ、何故君を選んだかと言うと――世界に恨みを持っている強い闇魔術師を探していたんだよ。間違いなく、君なら魔王になれるよ――『嫉妬の魔王』に」
……は?
何を言ってるんだコイツは?
「ははっ。まだ僕の事を疑ってる顔をしているね。まー確かに信用してと言っても難しいよね。でもね、僕はアノルール君のいつでも殺せる状況で協力しようって言ってるんだよ? 賢い君なら、悪い話じゃないのは分かるよね?」
「………………」
「ん? 僕の動機が気になるの? そーだねぇ、一言で説明するなら魔王がいた方がこの世界は都合が良いからかな? 敵がいないと僕達食っていけないからね」
……分からない。突然の展開に理解するのを拒んでいる。
突然現れた胡散臭い男が、僕の味方だとすり寄って来ても誰が信用できるかって話である。このままあっさりと口車に乗せられると取り返しのつかない事になる気がする。
……だけど、本当に魔王になる方法が魔導書に記載されているのなら……読んで試してみる価値はあるのかもしれない。
「この闇魔術の力があれば――憎い奴らを好き勝手できるよ?」
「……ほぉ」
なるほど。それは――なんとも魅力的な話である。
奴らを不幸のどん底に落とす機会がこんなに早く巡ってくるとは。やはり僕は運が良い。
「……ま、魔王になったら君の記憶や存在は消滅するんだけどね」
ノーマンが笑顔を浮かべたまま何か呟いたが、上手く聞き取れなかった。
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