第30話 陰キャ最強決定戦②


「『鴉』」



 僕は再び数えきれない程の『鴉』の弾幕を展開させる。アノルールを分からせると宣言したものの、流石にド正面から突撃しても勝機は少ない。――狙うは闇魔術師らしく、不意の一撃である。



 アノルールだけならまだしも、人型魔獣も相手しないといけないのが厄介である。リリィが大きなダメージを与えてくれた事がかなり救いであろうか。



「何度も同じ手は食らわねぇんだよぉッ!」



 アノルールは高笑いをしながら叫ぶと、黒蛸は辺り一面に毒墨を吐いた。さっきより範囲を拡大しているらしく、『鴉』をすり抜けて黒い煙幕のようなものが僕とリリィに向かって迫って来た。



 なるほど『鴉』を無視して僕に直接攻撃を与えるつもりか。さっきので『鴉』にそれほどの脅威がないのを知っての行動だった。そして、その選択は正しい。



 正しいが、予想通りの対応だった。



「--『蛇』」



 続いて僕は新たな黒魔術を生成。黒蛸ほどではないが、狭い路地裏にギリギリ収まるぐらい巨大な大蛇が僕の後方に出現した。



『蛇』はチロリと舌を出すと――僕とリリィを丸呑みした。



 そして『鴉』と毒墨が混ざり合った混沌とした空間めがけて地面を這いずりながら前進した。『蛇』と視界を共有しているので、例え飲み込まれていても体温で位置状況を把握できる。



「戻れ」


 毒墨を越えてアノルールが目前になった所で僕は『鴉』を一斉に消した。視界が一気にクリアになり、突然現れた大蛇にギョッと目を見開くアノルール。



 瞬間、瞬きの刹那に目の前に急接近した魔獣に思いっきり『蛇』が蹴飛ばされる。たった一撃で『蛇』の顎が吹き飛び、中にいた僕とリリィが自由落下する。それを見てニヤリと笑ったアノルールが、黒蛸の足を僕達に向けて振り回す!



「くっ! --『山嵐』!」



 流石にマズイと、僕はカウンター防御用の黒魔術『山嵐』を生成する。突如空中に、ビッシリと棘を背中に生やしたネズミのような外見の獣が出現し、僕達を覆うように体をくの字に曲げる。



 瞬間、凄まじい衝撃。僕達は黒蛸の足で勢いよく地面に叩きつけられた。


「--がはッ!?」



『山嵐』で防いだ筈なのにダメージはかなり深刻だった。僕はリリィの前に立ちふさがりながらも振える足で何とか立ち上がる。先ほど叩きつけた黒蛸の足には『山嵐』の棘がビッシリと刺さっていたけど、だから何だって話である。



「あははははははははははッ!! 何を分からせるって!? ボロボロだねぇ。痛そうだねぇ。可哀想だねぇ。ここからどうやって勝つ気かなぁ?」



 アノルールが勝利を確信して大口を開けて笑う。……確かに奴の言う通りだ。このまま戦っても勝てる見込みは少ない。



 僕が出来るのはせいぜい時間稼ぎだ。



「あれー? もしかしてこの戦いに町の人が気づいて助けに来ると思ってる? 来ねぇよばぁか! なぁ、この魔道具知ってるかぁ?」



 アノルールは胸元に黒々と光るひし形の魔道具を見せびらかす。



「これは魔獣から逃げるために使われる『魔力を検知されなくなる結界』を展開できる優れものなんだけど、こうやって事前に結界を展開しておくと、町中でも魔獣を動かせたりとこんな悪用が出来ちゃうんだぜ? 凄いだろ?」



「…………知ってるよ」



 だから僕はリリィが戦っている時にアノルールの魔力を探知できなかった。僕は偶然にも『鴉』で発見できたけど、これほど目立つ戦闘をしながら他の魔術師が増援に来ないのは、結界のせいで気づくのに遅れているからだろう。



「…………はぁ。僕の負けだ。本気で勝ちたかったけど、どうやら僕では敵いそうにない」



「へぇ。あれだけ啖呵を切ってたのに、随分と早く諦めるねぇ」



「事実だから仕方がない。間違いなくアノルールの方が――僕よりも陰キャだ」

 陰キャ対決は負け。それは譲ってやろう。



「悪い。こんな僕にも――『仲間』が出来たんだ」




 僕が宣言した瞬間、背後から真っ白い鎧に身を包んだ――ノーマンが現れた。



「ごめん。遅くなっちゃったね」



 そう朗らかに笑うノーマンであったが、既に剣を握っており、その凛々しい眼光はアノルールに向けていた。


 ノーマン――超爽やかイケメン陽キャ。リリィと同じ――『討伐組』である。



「……なっ! な、な、な……何故ッ! 光魔術師がここにッ……!?」


「僕が呼んだ」


「どうやってだッ! 僕と戦っている間に、どうやって増援を呼んだッ! 魔力は結界で探知されない筈だろぉ!」



「『鴉』で無理矢理呼んだ。……アノルール。一つ勘違いしているが――」



 ――僕が同時に生成出来る黒魔術は、三つだ。



 僕がアノルールと戦っている間、ずっと『鴉』で近くにいる魔術師を呼び続けていた。一番早く来たのがアノルールなだけで、じきにたくさんの増援が来るだろう。



 僕らしくない、実に冴えた行動だった。

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